樹の月の最初の本の日
樹の月の最初の本の日
今日も副所長はどこか疲れた様子で机についていた。課長はいつものように難しい顔をしていたが、事務処理メインの日らしく、小時間姿を消す程度でずっと机についていた。ハヌー・デアもファク・マタオもいつもの如く忙しそうにバタバタしていて、私は未だ放置されている状態を維持している。
私の、この星の駐在所の所長という肩書は、本当にお飾りなんだな、と思う。
だいたい、前任者と任期が重なることがないというのは、所長の職務として期待されてないということの現れなんだと思う。前任者と私が着任するまでの約一か月間、駐在所の四人は、所長不在もなんのその、普通に過ごしていたという。要するに、所長などいなくてもなんとかなるような組織なのだ。
思い返せば、着任したその日にハヌー・デアから言われたのは、当面は彼の補佐をすることと、開いた時間は、副所長と課長から依頼されたことをして欲しい、ということだ。確かにどういった仕事をするのか判らないのだし、そうやって仕事を覚えて行くんだなと納得したものだ。
だが、あれから状況は変わっていない。副所長は会合が多いらしく滅多に所内におらず、いても疲れた顔をしている。課長も会合が多いようだが、それ以外でも何やら用事が多いらしくほとんど所内にはいない。とにかく忙しいのは、ハヌー・デアとファク・マタオだ。この二人の日課の仕事をいくつか引き受けているが、忙しい彼らがこなすには時間のかかる作業でも、それくらいしか仕事を持っていない私がするのには大した量のない作業で、要するに暇なのだ。
もちろん、副所長と課長からもいくつか仕事を貰ってはいるが、なんだかんだで出勤して一時間ほどで、だいたいの仕事は終わる。あとは、駐在所内を掃除したり、駐在所の外回りを掃除したり、片付けたり、花を植えたりしている。
それから、所内で扱っているデータの整理もボチボチ始めていて、これが目下のメインの研究だ。前任者はそれほどコンピュータに明るくなかったらしく、あるがままのデータをそのまま使っていたようだ。だが、この星ではそれで良くても、次の所長を任じられた者が、旧式すぎてデータを扱えなくなっては問題が発生するのだ。丁度良いので、同じソフトの上位バージョンを請求しつつ古いデータの形式の変更も行っている。……まあ、これも任期中にすれば良いことなのでそんなに急がなくても良いのだが。
要するに、暇なのだ。
まわりは、なにやら忙しいのに、その忙しさを肩代わりすることもかなわない。もちろん私も声をかけたのだ。だが、教える時間も惜しいとばかりに、大丈夫ですからという笑顔でスルーされる。仕方ないので、様子を見て、自分でできそうなことを提案してみるが、却下される。そんなことを繰り返しての三か月(黒猫の星時間で!)、私もいい加減学習した。
……要するに、暇で良いのだ。
この星の駐在員の任期は、長くて五年、短ければ二年ほどだ。だが、この駐在所で働く彼らに、任期というものはない。所長となるものは、この星の問題やこの星での駐在所の在り方などは、事前に勉強していても、駐在所での実際の仕事の経験者が赴任するわけでもない。むしろ、何も知らない新人が送り込まれることが多い。この駐在員という仕事がどういった種類に属するものなのかはよくわからないけど、若者よりもむしろ定年間際の中年などが希望を出すことが多いときくから、出世への近道とかじゃなさそうだ。……というか、むしろ遠回りなんじゃないのかなぁ…
まあ、とにかく自分のできることをやろう。なんて、ほぼ毎日そう言い聞かせてるんだけど。
そういえば、今日は、エミヤ・イムトは来なかったな。良いことだと思う。