ひとり
図書館の少女は椅子から立ち上がった。
少女の名前はクレシア・テイン
かつてはテイン家に生まれた一人娘だった。
なぜ、このような事態になってしまったかは
落ちた。
それだけだ。
そこは、溝があったわけでもなく。
ほらがあったわけでもない。
ただ、ひとりで森を歩いていたら、
落ちたのだ。
ずっと真っ暗な中を落ちて、
今、私はここにいる。
使いの者が迎えにきてくれるのを
少しは期待したが…。
まず、ここが地球であるかさえ怪しい。
木々の色は真っ黒に近く。
地面には青白く光りながら這う芋虫がいる。
空には色とりどりの宝石をちりばめた鳥たち
が飛び交い。
私をあざ笑って去ってゆく。
さらに、ここには夜というものがないらしい
もう、とっくに日は沈んでもおかしくないの
に太陽は真上である。
じっと、周りを観察していると。
目の前に真っ白な体にルビーの目。
真っ赤なチョッキを着た小さなウサギが
私の足の間をくぐって走って行った。
私は夢中に追いかけた。
それが使命であるかのようにただ走り続けた
森を抜けるとウサギは姿を消してしまった。
息を整えながら上を見上げると
あの、見覚えのある図書館がそこにそびえ
たっていた。
私と母の秘密の場所。
扉の一番下の右から八番目の本を取り出し。
右に二歩。
前に四歩
左に三歩と軽く地面を二回蹴ると
やっぱり…。
部屋の鍵が現れる仕組みになっている。
それを取り出し鍵を差し込んだ。
そして、中へ入って行ったのだった。
誰もいない世界でひとり。
お腹もすかない。
疲れることもない。
隣にはなにも書かれていない本が
私と母とをつなぐ唯一の鍵であるかのように
存在している。
私は。
ただただ、何かを待っている。