機械仕掛けのアイドル―A mechanical idol―
ピクシブ版では6話後編扱いになっていますが、小説家になろう版では第7話になっております。それに伴って、サブタイトルも新規追加いたしました。
《アルマゲスト ????? RAILSTORM☆☆☆》
5月20日午後2時、ネット上では曲名に関しての考察等が行われている様子だった。コースの方も確保出来ていない為か、確保出来次第の再開と言う事になっている。
【サウンドドライバーでは聞いた事がない曲名だな。他の作品だと、同じ名前の別曲があったが…】
【もしかすると、投稿曲で採用された作品かもしれない。サウンドドライバーは楽曲募集を行っていたからな】
【だが、よく考えて欲しい。曲名のみでアーティストが明記されていないと言う事は、カバー曲と言う事もありえるのではないか?】
【サウンドドライバーではライセンス曲の類は一切入っていない。アーティスト名が偽名扱いや後々に発表されると言うのは、良くある事じゃないのか?】
【そう言えば、コースの方はどうなるんだろうな】
【北千住コースを使うらしい。ただ、一般プレイヤーもコースを使っている以上、空いているコースを確保する必要性があるが…】
【北千住は満席になっているな。もしかすると、道路使用許可を取る可能性もありそうだ】
《コースの確保に時間がかかるとの事らしい。時間が決まったら、改めて報告するよ。それまで、ゆっくりと休むといい》
ARのメッセージで新しい物が流れる。そして、他のメンバーは改めて時間が決まり次第、該当コースに集合するという方向で解散となった。アオイの方も、いつの間にか姿を消しているのが気になる所だが…。
同日午後2時5分、ワールドラインはスーツのままで北千住のアンテナショップへ向かい、サウンドドライバーの修理を依頼した。
「次のゲームまでに修理は出来ないか?」
「損傷の程度が、ここまでひどいと半日はかかりますね。パーツに関しても半数以上がワンオフだと修理に時間が―」
「多少の時間がかかる点は大目に見る。こちらとしてもユニットが1体しかない以上、急ぎで機体の修理が必要なんだ。簡単な処置だけでもかまわない」
しかし、先程の戦闘も含めて損傷具合が激しい為、修理には時間がかかるという回答だった。結局、時間はかかっても修理は必要と判断したワールドラインは、修理依頼をする事にした。
「機体が必要なのか?」
そんなワールドラインの目の前に現れたのは、ガブリエルだった。彼の過去には全く触れず、ストレートな一言を発した。
「ああ。他にレンタル以外の機体はあるのか?」
ワールドラインの方も、ガブリエルの一言に乗る事にした。今の機体が修理出来なかった場合、他の機体を使う必要性があったからだ。
「レンタル以外と言うと…ワンオフ系統が今すぐ必要と言う事か」
ガブリエルは、ある場所へ案内する事にした。あの場所ならば、何かあるかもしれないと。
同日午後2時10分、ワールドラインがガブリエルに同行して到着した場所は、サウンドドライバーの生産工場だった。人の姿はほとんどなく、全ての工程を機械が担当している光景には驚くばかりである。
「これだけの機械を動かして作業しているという事は、ハッキングでも受けた時には…」
ワールドラインが疑問をガブリエルにぶつける。過去に多数の事例があるハッキング事件、ADSやサウンドドライバーでも被害を受けているだけに懸念事項ではあるのは間違いないが…。
「ハッキングは何度か受けた事があります。しかし、彼らが持ち去ったのは偽の情報。全てダミーです」
機密に関わる事だけに答えないと思っていたが、ガブリエルはあっさりと答えた。そして、目の前には全長3メートル近くの巨大なコンテナが見えた。
「これです。本当は自分のサウンドドライバーをベースにした物なので、あまり表には公表したくはなかったのですが―」
デザインは堕天使を連想させ、ドラゴンの覆面を思わせるARメット、更には全体的に黒を基調としたカラー…何もかもが異質の存在だった。
「サウンドドライバーでも初期の機体、メタトロンです。この機体と酷似したシステムを持っている機体は、博物館の方にあるアレをベースにしています」
そして、ガブリエルはメタトロンをワールドラインに無償で提供する事にした。あまりにも段取りが良すぎると判断したワールドラインは…。
「何か、条件があるのか?」
「あえて条件を入れるとしたら、世界線からの刺客に勝ってほしい…という事でしょうか」
条件を聞いてきたワールドラインに、ガブリエルはあっさりと答えた。
同日午後2時10分、エイジが到着した場所、それは梅島のアンテナショップだった。
【超有名アイドルにばかりスポットライトが当たっていた状況は、音楽業界にとっては非常に悪い傾向だった】
【紅白も超有名アイドルメインで、他が脇役や引き立て役程度の扱い…他のテレビ局でも超有名アイドル以外は視聴率が取れないという理由で扱いが悪かった】
【無限の錬金術とも言われている超有名アイドル商法が海外に輸出されたら、それこそ日本終了のお知らせになると思う】
【今回のプロデューサー逮捕で、超有名アイドルありきな芸能界は一掃されると思う。無限の錬金術に頼らない新しい方法が求められる】
【超有名アイドル商法自体も、合法的な競馬予想詐欺のような物…と別の世界線で言われてきたのも納得できるな】
【日本のコンテンツが超有名アイドルだらけになった時、日本終了のお知らせは現実味となってくる。それこそ、新たなコンテンツが必要となるのだが】
【無限の錬金術に頼ったり、金を取る事が前に出すぎている物は超有名アイドルと同格だろう。今、日本に求められるコンテンツは海外とは違う路線でなければ厳しい物がある】
【文字通りの生存戦略ですか】
【噂では超有名アイドル2軍と言われているグループを1軍にする為、1000京円でテレビドラマタイアップを買い取ったという話もある】
【2軍に1000京円とは…。それだけ、超有名アイドルには大金が転がり込んでいるという証拠か】
【国家予算の100倍から1000倍以上が超有名アイドルのタイアップ獲得や宣伝費に使われている事実、これを国民が知ったらどんな反応を示すだろうな】
【自分達の税金が超有名アイドルに横流しされている…と週刊誌が報道したら確実に信じ込むだろうな。例え、横流しの事実が嘘だとしても】
【それ位の大金が超有名アイドルだけで使われていると聞くと、本当に涙目になってくる】
【超有名アイドルファンとファンでないだけで金額のケタが違う格差社会が生み出されている事実】
エイジはプロデューサーが逮捕されてから一連のネットの流れを確認していた。
【超有名アイドル商法、それによって日本には超有名アイドル支援団体のような一歩間違えれば過去の惨劇を繰り返すような存在が現れた事、それがアイドルにとっても誤算だった】
【今となっては、悪質な超有名アイドルファンが逮捕され、中には中学生や高校生も逮捕されたと聞く。方法はどうであれ、CDを買わせる為に詐欺行為や犯罪等に手を染めたのは感心できない】
【あのプロデューサーは、ここまでの事になっても規制法案に関しては反対を続け、遂には反対派の政治家に賄賂を贈ったらしいという話を聞く】
【遂には、身の危険を感じた超有名アイドル支援団体は禁断とも言える魔法技術に手を出し、ファースト・アイドル計画をスタートさせた】
【ARビジョンアイドルの2.5次元に対し、年を取らない永遠の3次元アイドル…フィクションの世界ではあり得そうな設定だが、それをノンフィクション化しようと考えたのには感心できないな】
【フィクションの世界で許されるような物がノンフィクション化した時、それは一歩間違えると地球終了のお知らせになるという事に気が付かなかったのか?】
【これでは、別世界線の超有名アイドルが国会を掌握した世界等と同じだな】
【一刻も早い、超有名アイドルの完全排除を期待したい所だ】
【ソーシャルゲームのガチャ問題等よりも、超有名アイドル商法を根絶する方が早ければ、こんな末路は―】
【それは違うな。超有名アイドル商法を利用して無限の錬金術を生み出そうと考える人間は、どの世界にもいる。結局、そういった考えを持つ人間を先に排除しないと同じ事の繰り返しだろう】
今となっては完全排除になっても構わないと思っていた超有名アイドルが、自分にとっては何故か寂しいと思うようになっていた。理由は分からない。
【1人のプロデューサーが起こした失態で、超有名アイドルが全ての世界線で消滅するのならば歓迎したい所だが…別のアイドルが同じような末路をたどったらどうするつもりだ?】
エイジは、この一言を見て寂しいと思っていた理由が分かったような気がした。
「同じような事件が別のジャンルで起こった時、排除運動と消滅か繰り返され、やがては日本から全てのコンテンツがなくなってしまう。そして、日本は海外のコンテンツが市場制圧をする事になる。本当に、それでいいのか…」
そして、スーツの修理も終わり、エイジはアンテナショップを後にした。エイジの場合は、ワールドラインと違って損傷は激しくなかった為に修理も簡単に終わった。レンタルスーツと言う点も大きいかもしれないが…。
「日本なのに海外コンテンツだけが存在し、日本にいた気がなくなってしまう。それだけは絶対に他の世界線でも避けなければならない。その為の、決戦か」
アンテナショップを出たエイジは、そこで別の場所へ向かおうとしていた焔と遭遇した。
「少し、付き合ってくれない?」
焔の一言で、エイジは焔に同行する事になった。向かった先は、曳舟にあるゲームセンターである。
同日午後2時10分、西新井のアンテナショップ近くにある温泉にはファースト・アイドルがいた。途中までは焔も同行していたが、別の用事で梅島方面へ向かっていた。
「ここに来るのも2年ぶりかな?」
全裸で風呂に入ろうとしたが、汗だらけと言う事もあるので、先にシャワーを浴びる事にした。全裸と言う割には胸にはニプレス、下はIバックという格好だが…。
「今日は人が誰もいないのかな?」
広い浴場には、彼女以外の姿が半径2メートル以内の範囲では見えない。どうやら、彼女の格好を見てお客が避けているようにも見える。
「この恰好を見れば、誰だって避けたくなるか。水着OKの場所でも、これじゃあ係員に止められるのは当たり前だし」
水着が着られないという事ではなく、この姿には理由があった。実は付けているニプレス及びIバックがマジックアイテム…と言う訳でもないか。普通に、この辺りは彼女の趣味だろう。
「ナレーション! そこは言わない」
聞こえていた? おそらくは気のせいだろう…。とりあえず、彼女が色々と理由があって装着をしているのは間違いない。それを避ける一般市民の理由も分かるのだが…。
「自分のような悲劇のアイドルを増やさない為にも、彼との一戦は避けられないか」
彼女はARのメッセージを発信した人物との戦いを避ける方法はないのか…と考えていた。
同日午後2時10分、北千住のアンテナショップ内。ガブリエルのみ離脱はしたが、残りメンバーはアンテナショップに残っていた。
【結局、謎の人物って誰の事だろうな】
【自分の所のARには何も表示されていなかった。どうやら、あの場所にいた数人に限定発信されていたと考えるのが正解だろう】
【少し前にアカシックレコードのサイトが更新されていたんだが、そこに全文が配信されていた―】
ネット上で例のARメッセージが公開されていると聞いて、スマートフォンを見ていたヴォルテックスが該当サイトを開く。
「これって、オーディーンのメッセージなの!」
ヴォルテックスがARメッセージをチェックし、それがオーディーンと名乗る人物のメッセージだという事が直感で分かった。
「オーディーンは確かに上位ランカーに同名プレイヤーがいる。しかし、その人物と今回のARは―」
瀬川がオーディーンと言う人物が存在する事は間違いないと言うが、その人物とは違うと言おうとしていた矢先に、ヴォルテックスが発した一言は―。
「このオーディーンは別世界にいるオーディーンのメッセージなの」
その一言を聞いた周囲のメンバーは凍りついた。
「別の世界線…。確かに、あのサイトには他の世界で起こった音楽業界に関係する事件も書かれているが」
瀬川もアカシックレコードのサイトを見て、他のオーディーン説もあり得るのでは…と考えていた。
「しかし、他の世界の人物がサウンドドライバーを持っているとは考えられない。スマートフォンで連絡を取るにしても、電波が別の世界に届くとは思えないが」
少佐は別の世界の人物が、どうやってサウンドドライバーのARにアクセスをするのか…と別世界の人物説を否定する。
「でも、キサラギの技術なら…別の世界線の技術を利用したサウンドドライバーなら可能なの」
ヴォルテックスの止めとも言える一言、それはキサラギ製のサウンドドライバーが別の世界線にある《技術》で作られた物だという事だった。
同日午後2時20分、曳舟駅近辺にあるゲームセンターにエイジと焔は到着した。
「ここは、FPSゲームや格闘ゲームで有名な場所だな。何度か遠征もした事がある」
エイジはゲーセンに設置されているゲームの機種などを見て、何度か訪れた事がある場所だと分かった。
「まだ、あのゲームが置いてあるか心配だけど…って、あったみたいね」
焔が探していた物とは、音楽ゲームの筐体だった。このゲームは数年前に輸出された韓国の音楽ゲームで、画面をタッチしてプレイするタイプの物である。
「これは確か、ヴォルテックスが良くプレイしていたゲームだったな。筐体数が減っているという話を聞いた事があるが―」
実はヴォルテックスが上位プレイヤーになった事がある数少ないお得意様とも言えるゲームが、この筐体だったのである。現在は、別の音楽ゲームとの入れ替えなどで台数が減っている。
「結局、超有名アイドルの楽曲が入っている音楽ゲームの方が客が入るという理由で搬出されているというのが現状。色々と寂しい現実よね」
誰も並んでいるような様子はなかったので、焔がプレイする事に。
【まさか、あの音楽ゲームが置いてある店舗が他にあったとは…】
【筐体の搬出が多いゲームとは聞いていたが、ここまで多いと逆に驚くな】
【むしろ、長期稼働させているゲーセンがある事の方がレアケースと言われる位の機種だからな。近日中に続編へアップデートされるらしいが…】
【最新作も近日中にはリリースされるが、限定版は予約だけで完売には驚いた】
【自分も限定版を予約しようと思っていたら、まさかの完売だからな。他の音楽ゲームよりも注目度があるのかもしれない】
【音楽ゲームは、アーケード版のみが半数だからな。格闘ゲームは家庭用が100%に近い割合で出るが、音楽ゲームはそうとは限らない】
【触りもしないで超有名アイドルの曲が入っていないだけでスルーするようなプレイヤーは、超有名アイドル支援団体のメンバーなのは間違いない】
【あのゲームの凄い所は超有名アイドルの楽曲を全く入れていないのに、支持されている音楽ゲームの上位に入っているという事だろう】
【向こうのアイドル事情もあって、何曲かはライセンス曲は入っているが、ライセンス曲をプレイしなくても特に問題ないのが大きい所だな】
【音楽ゲームの中には、解禁要素によって超有名アイドルの楽曲をプレイする事を強いられる作品もある】
【中には、超有名アイドルゲーと化した音楽ゲームを切り捨てて、サウンドドライバーや他のオリジナル楽曲オンリーの作品を始めたプレイヤーもいる】
【超有名アイドル楽曲は使用料が10年契約で1兆円、違約金100兆円…はネタとしても、他のライセンス曲が収録出来ない程に高い傾向がある】
【それだけ、資金が支援団体に入っているという事か。その支援団体が入ったお金でCDを購入し、CDチャートの上位を独占するサイクルの繰り返し】
【超有名アイドルの曲以外は音楽ではないと断言するような支援団体のメンバーもいる。超有名アイドル衰退の原因は、間違いなくファンのモラル低下かもしれない】
ネット上でも、音楽ゲームに関する話題がピンポイントで盛り上がる。最近の音楽ゲームの超有名アイドル力押しという現状に懸念を抱くプレイヤーも何人か見られたようだ。
同日午後3時、それぞれのメンバーが西新井に集結した。使用可能エリアは最終的に西新井に変更されたのだが、何時も使用しているエリアとは違う場所である。
「このエリアは、近日拡張予定だった新エリアか―」
エイジが周囲のビル等を見て、現在工事中の新エリアである事を見破った。他の3人は新エリアに関しては初耳のようだ。
『この新エリアならば、他のユーザーの邪魔になる事はないだろう。サウンドドライバーの未来を占う激闘を期待している』
そう言い残し、ガブリエルは通信を切る。
《この世界の曲も悪くない。僕のいる世界とは似たような曲調もあれば、全く違う曲もある》
ARに再びメッセージが表示される。メッセージの内容を見て、エイジは驚きを隠せなかった。
《本来ならば例の曲を予定していたけど、気が変わった。君達のフィールドに合わせる事にしたよ。あの曲は―》
《機械仕掛けのアイドル ブルームーン RAILSTORM☆☆☆☆☆》
4人とも、まさかの曲目変更に驚いた。この曲は、ワールドラインが先攻で選択した曲である。この心変りは、どういう事なのか?
《君達の準備が出来次第、バトルを始めよう…。この場合はバトルと言うよりはステージに近いだろう》
「さぁて、がんばるぞ!」
ファースト・アイドルのサウンドドライバーは、北千住の博物館に展示されていた初期サウンドドライバーだった。どうやら、外されていたシステムを取り付けて起動できるようにしたらしい。
(この世界には永久不変のアイドルが不要だって事、証明しないと)
余談だが、彼女のスーツはミスリル繊維製のジャージである。
「この勝負、負ける訳にはいかない!」
エイジのサウンドドライバーは、何時も使用しているレンタルとは違い、ブースターの増設やアーマーを若干軽量化したカスタマイズタイプ。それでも、レンタルパーツのみを使用しているのには変わらない。
「今までの過ちが許されるかは分からない。だが、今はこの勝負に全てをかける!」
ワールドラインは、ガブリエルより託されたサウンドドライバーでこの勝負に挑む。
「私は見学にさせてもらうわ。サウンドドライバーはマッチングが最大4名、最後の一人は…」
焔は自分のサウンドドライバーは用意してあるものの、見学と言う立場に回る事にした。そして、会場に現れたのは―。
「超有名アイドルは、全ての世界線から消滅させる! そして、新世代のアイドルを生み出す為の環境を無限の錬金術に頼らない方法を―」
4ラインに現れたのは、アオイだった。やはり、システムに飲み込まれているのだろうか…?
【まさか、曲の変更をするとは予想外だった】
【向こうがサウンドドライバーに合わせたのか、それとも…?】
【アルマゲストと言う曲名だが、どうやら別世界の音楽ゲームに収録されている楽曲らしい】
【カタカナ表記もあるが、英語表記もあったな。どちらの表記だとしても、サウンドドライバー側が不利になる可能性は高いが…】
【しかし、土壇場で楽曲を変更したのは非常に気になる】
【もしかすると、ARのメッセージ主も実はスタッフと言う説があるのかもしれない】
【あのテキストはスタッフではないだろう。支援団体が手に入れたのが魔法的な技術だとしたら―別の世界線の人物だとしても不思議ではない】
【まさか、他の世界の超有名アイドルが日本に介入してくる予兆なのか?】
【それを阻止できるか、阻止出来ないか…それを占ううえでの戦いかもしれない】
ネット上では、直前の曲変更にスタッフがARメッセージを作ったのでは…という説も浮上していた。その一方で、このメッセージが本当に世界線から送られてきたメッセージだとする説も同じ位にあった。
その一方、別のネットでは一部のつぶやきを引用する形で何か議論が行われていた。楽曲についてのようだが…?
【RE:この曲自体、カラオケは不可能と言う位に歌詞が早い部分等もあるからな。まさか、この曲を選ぶとはワールドラインも何か思う部分があるのだろう】
【もしかして:メッセージの主の正体はワールドライン?】
【ワールドラインだとしたら、文字通りの自演と言う事になるだろう。やはり、別人と考えるのが正解だろう】
【調べて見たが、アルマゲストはこの世界にある音楽ゲームでは1作品しかない。アーティスト名も解読不能や匿名という訳ではない。やはり、あのメッセージは別世界の住人と見た方が良いだろう】
【RE:曲の世界観よりも、この曲は歌詞に重点が置かれ、しかもサンプリングボイスではなく、歌唱プログラムソフトを使ったと言う経緯があったな―】
【別の世界でも歌唱プログラムソフトのような物は存在するが、それが大ブレイクしたのはごく少数らしい。もしかすると、この曲に変更した理由も何かあるのかもしれない】
【別の世界の日本では、何とかロイドと言われていたな。こちらでも、向こう程にブレイクするだろうか?】
【この世界は、超有名アイドル以外がデビューする際は異常とも言える資金がかかるらしい。その為に動画サイト等の同人レーベルが盛り上がっていると聞く。つまり、そう言う事だ】
《向こうの準備も出来たみたいだ。早速、始めるとするか》
ARのメッセージ表示後、曲が流れだした。
《マッチングミッション スタート》
4人は一斉にスタートする。出遅れるような展開にはならず、綺麗なスタートと言える。
-はるかな未来、ここにある現実。楽園は闇の侵略者の手に落ちた。過去にいた栄光の守り手たちもこの世界にはいない-
イントロ明け、最初にリードをしたのはエイジだった。この曲を他のメンバーよりも一番プレイしており、スコアでも一番上である。
「譜面は既にプレイ済み。妨害も入る事がないとなれば、遠慮はいらないか!」
-テンプレート、錬金術。彼らは私欲の為だけに曲を作る。侵略者は広める、歌は無限の錬金術を生む為にあると-
Aパートラスト、エイジをスコアで抜き去ったのはアオイだった。アオイは、この曲に関してはプレイするのは2度目である。1度目は、あの対決の時である。
「超有名アイドルは音楽業界を破壊する侵略者。この世界だけでなく、全ての世界において永遠に消滅させなければならない存在!」
アオイは2度目のプレイとは思えないような完璧なプレイで、独走態勢を作る。エイジ以外のメンバーは苦戦を強いられている一方である。
-本当の歌は、何のためにある? 勇気、希望を与えてくれる。本来伝えられるはずの歌は、錬金術や欲望の為だけではない。全ては、闇に飲まれてしまった悲しき歌い手。それでも、私は信じている。歌が本来伝えるべき言葉、役割を私達は知っているのだから-
-それでも、歌を自らの欲望だけの為に歌う者もいる。しかし、歌に罪はない。間違っているのは、闇に飲まれ、知名度や私欲でしか物を図れなくなった人間たちが全ての元凶だから。信じて、自分達が忘れかけていた希望を告げる言葉-
台詞パート、第1段階のピアノ連打もここに入っている。ピアノ連打に合わせてパネルも数が増えており、まるで本当にピアノを演奏しているかの雰囲気を感じる事が出来る。
「ランダムで配置が変わるオプションが追加されていないのが、唯一の救いと言う所か」
譜面の傾向を大体覚えているエイジでも、稀に何処を通過しているのかを忘れてしまう。それほどに、無意識でプレイしているという証拠なのかもしれない。ワールドラインが譜面を意識してプレイしているのに対し、ファースト・アイドルは野生の勘でプレイしている傾向がある。
-私達が忘れてしまった物。それは、人々の意思、傾向、思想。誰一人として統一した考えを押しつける事は出来ない。そして、押しつけた結果が侵略者の手に落ちた楽園-
Bパート、ピアノメロディーにバックはヴァイオリン…。さすがにバックまでは対応していないが、しっかりとピアノ部分は演奏に合わせてパネルが配置されている。
「まずい! ゲージが―」
ワールドラインが大型モニターを確認すると、ファースト・アイドルの残りゲージが少なくなっていた。現状では50%を下回りそうな…そんな気配さえ感じる。
「見せてあげるわ! 元祖アイドル魂を!」
自分がやらなければ娘であるアオイを救う事は出来ない。そう感じた彼女は、最後の力を振り絞った。
-壊された楽園は戻すのに時間がかかるだろう。それでも歌は正しい方向へ導いてくれる事を信じている-
Bパートラスト、何とかアオイのスコアに接近したエイジだったが、そこへ予想外の事態がエイジに襲い掛かる。
《データエラー 直ちにシステムの再スタートを行ってください》
「冗談じゃねえ! こんな所まで来て、再スタートなんてできるか!」
エイジのARにはデータエラーを示すメッセージが表示され、更にはインカムにも警告のサイレンが鳴っている。しばらくして、エイジはインカムを外し、ARなしでプレイを続行するという決断をした。
(譜面はランダムがかかっていない以上、さっきプレイしたので問題はないはず。仮に何か問題があるとすれば、さっき走ったコースとは構成が違う事か―)
ワールドラインが用意したコースはカーブもあったが、特に障害物はなかった一般的なコース。それに対し、この西新井コースは高架下を走ったりカーブが複数存在している。
「一か八か、やってやる!」
-僕たちの知っているアイドルは、私欲や錬金術の為に存在はしていない。それは、所詮は偽りのアイドル。誰も本心で応援している存在ではない-
ラストパート、目の前は高架下、一体何が待ち構えているのかは全く分からない。4人が全力で疾走し、ゴールを目指す。
-歌を悪用する存在、それを彼らは決して認めはしないだろう。本当の意味でのアイドル、それは本心で応援をしたくなるような存在なのだから-
ゴール地点、4人が全員無事に完走を果たしていた。演奏失敗はなく、結果を待つのみになった。
《リザルト》
AR及び大型モニターに今回の結果が表示された。演奏失敗はいない為、純粋にスコア及びボーナスで順位が付く。
《4位 ワールドライン》
最初にコールされたのはワールドラインだった。何とか完走は出来たものの、ゲージボーナス等で足を引っ張った結果になった。コンボ数も4人で一番少ない。
《3位 ファースト・アイドル》
次にコールされたのは、何とファースト・アイドルだった。途中でコンボが途切れてミスを連発するような場面もあったが、途中で回復パネルを通過したのが大きかった。
《2位 アークエンジェル》
2位はアークエンジェルことアオイである。フルコンボボーナスはあったものの、後半でグッド判定が連発したのが影響したようだ。
そして、1位は…。
《1位 エイジ》
1位になったのは、何とエイジだった。基本スコアはアオイと大差がないように見えるが、終盤のARなしプレイがパフォーマンスとして判定されたようだ。予想外の行動が、1位に導いた…そう実感したエイジだった。
《おめでとう。君達の熱意、確かに受け取ったよ。しかし、このステージに水を指すような事をした連中には、それ相応の罰を受けてもらわないといけないようだね》
ARのメッセージを見て、水を指すという言葉に3人は疑問を持った。全ての状況を見ていた焔も、新ステージにトラップ等がない事は確認済みである。
【教えてくれ。君は何者なんだ?】
エイジは、サウンドドライバーのコメント入力機能でARのメッセージ主に正体を訪ねようと考えた。その返事は帰ってこないと思っていたが、意外な事に返事が来たのである。
《僕の名前はオーディーン。別のアカシックレコードチャットから、君達の状況を見ていたファンの一人だよ》
その後、1枚の写真が5人のARに送られてきた。そこには、グルグルメガネに蒼のロングヘアー(カツラ)、天使の羽が生えているようなドレスを着た女性―オーディーンの姿があった。
《最後に重要な事を伝えておくよ。アカシックレコードチャットを悪用して超有名アイドルを世界線単位で布教している存在が他にもいる事が確認されている。二度と同じ事は起きないというのは慢心が生み出す油断だ。同じ事態を起こさないように万全の態勢で準備する事…それが大切なのかもしれない》
《君達のこれからの活躍、僕も期待しているよ。さらばだ、サウンドドライバーのランカー達》
ARのメッセージは、ここで終わっている。
「データベースに問い合わせたけど、写真の人物は登録されているオーディーンとは別人みたいね」
焔が即座にデータベースへアクセスしたが、登録されているオーディーンとは別人らしい事が判明した。
「今のって、別の世界からの通信って事?」
ファースト・アイドルはオーディーンの存在に驚いた様子だった。
「これが、世界線を越えた別世界への干渉か―」
ワールドラインは、何かを考えていたように見えた。
「母さん―」
ARのメッセージが終わったと同時に、アオイがその場に倒れ込む。どうやら、何かのコントロールからは脱したようだ。
「大丈夫…今度は、ずっと一緒だから」
ファースト・アイドルは目に涙を流しながら、アオイの事を抱きしめていた。本来は親子なのだが、彼女の方は魔力で年齢が若返っている為に同い年に見える。
「何だか分からないけど、これで全ては救われたんだな!」
エイジが右腕を天に向けるかのようなポーズで勝利宣言をする。
『感動の場面で申し訳ないが、例のハッキングをした張本人と思わしき電波をキャッチした。既に警察が場所の割り出しをやっている最中だが―』
5人のインカムから少佐の通信が聞こえる。どうやら、緊急事態のようだ。
「アオイの方は、大丈夫そうだけど…。この調子だと、目を覚ますのはもう少し後みたい」
ファースト・アイドルはアオイの事が心配な為、別の場所でアオイが目を覚ますのを待つようだ。
「仕方がないな。俺と焔だけで先に向かうか」
焔とエイジの2人で現場の方へ向かう事にした。
午後4時30分、焔より提出されたデータを元にガブリエルは、工場にある封印されたコンテナのロックを解除していたのである。どうやら、別の機会に解禁する予定だったのを、繰り上げで解禁するようだ。
「これが、サウンドドライバーの新たな出発になる。同じ悲劇を繰り返さない為にも、ドライバーのバージョンアップとコースの改良が必要になるだろう」
彼の目の前に現れたのは、今までのデザインとは異なるコンセプトを持ったサウンドドライバーだった。それは、別世界の強化型装甲を使用したアーマーに類似するが…?
【これがスタート地点なのか、それとも一つの物語のゴール地点なのか、それは―】