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止める事の出来ない波-The wave which cannot be stopped-

 5月22日午前9時、梅島の某ビルをはじめとした関係各所にて本格的な警察の家宅捜索が入った。既に何か所かは例の動画を受けた直後辺りで捜索を受けている場所もあるが、その範囲が拡大した結果とも言える。


【今回の家宅捜索で何が出てくるのか…】


【どちらにしても、アイドルダイバー事件の2の舞をやってしまった以上、この世界で超有名アイドルは衰退したと同然か】


【しかし、この世界で衰退したとしても、逆に別世界の日本で同じ事は繰り返される。金を求めようとする人間がいる限り、永遠に―】


【超有名アイドル以外でも問題のある不祥事が出ているのは明らかなのに、超有名アイドルに限ってこんな事をするのはおかしい】


【超有名アイドルに限ってと言う部分は間違いだな。『超有名アイドル』だからこそだ】


【金を手に入れる事が出来れば、どんな事でも実行するという超有名アイドル商法。これが横行すれば、生み出された無限の資金で世界征服も容易だろう。悪用の保証が確実にないと言いきれない以上、規制されるのは仕方のない事だ】


【便利な道具は、いつか悪用され、それが国一つを滅ぼしかねないリスクをも発生される事がある。超有名アイドル商法は下手をすれば日本が滅亡する位に危険な代物だったと言う事】


【まさか、ファンの暴走化と思われた事件の元凶が『だいたいこいつのせい』だったとは予想外だった】


【超有名アイドルのプロデューサーが全ての発端だったとは―】


【金に目がくらんだ結果、超有名アイドル以外は切り捨てという政策を国会に提出しようと考えていたかと思うとぞっとするな】


【全く別のジャンルで立て直すとすれば、アニメや漫画等の2次元で立て直すしか方法がないんじゃないか?】


 ネット上では、今回の家宅捜索を受けて超有名アイドル商法を完全に見直し、日本が全く別のジャンルで経済を立て直す事を望む声が大多数を占めていた。


 同日午前10時、ネット上で1つの動画が注目を浴びる事になった。それは、サウンドドライバー運営委員会のお知らせ動画である。


『莫大な利益を得ようと裏工作を使ってサウンドドライバーに介入しようと考えている組織に対して、戦い続ける』


 既に運営可能な資金があるにもかかわらず、それ以上の莫大な利益を栄養と考える超有名アイドル絡みの組織に対し、運営委員会は買収などには屈せずに戦うと言う宣言を5分の動画に収めている。



 5月23日、超有名アイドル支援団体をはじめとした勢力が不当な弾圧として警察の強制調査を妨害するという騒ぎが起こった。しかし、それは確実な証拠を警察に渡したくない為の妨害工作だった。


【強制捜査の理由は、アレだな】


【あの時の妨害か?】


【まさか、後攻が選曲をしようとした矢先にハッキング、超有名アイドルの楽曲を強制的に流したからな―】


【それが支援団体の本性だったと言う事で、あの展開になった。この世界の日本では二度と超有名アイドルは現れないだろう】


【出たとしても、アニメやゲーム等の二次元の範囲。三次元では規制法案等の関係もあってデビュー不可能になった】


【その原因は、やはり支援団体の『目的』だったからな。まさか、不老不死に近い単語が超有名アイドル関係で出てくるとは予想外過ぎる】


【渡したくない証拠っていったいなんだろうか?】


【妨害行為自体は動画でも流れてしまっている。それ以外の証拠と考えるべきだろう】


 ネット上でも、彼らが隠し続ける証拠に関心が集まっているようだ。その一方で、超有名アイドル消滅後の音楽業界を考える意見も出始めていた。


【今回の件は超有名アイドルが売れると言う理由だけで神格化され、更にはそれに集まる企業のモラル等が問われた―】


【一連の規制法案が効果を発揮するのは、かなり先と予言している人物もいるようだ。それだけ、超有名アイドルが市場を食い荒らしたと言っても過言ではない】


【超有名アイドルを異星人や侵略者という例え方をする掲示板も見かけたが、そう言った考え方を持っている人物は同じような事件が起こると予言している】


【我々がすべき事は、規制法案ありきではない全く新しい音楽業界を作っていく事だろう。同じ事が何度も繰り返される結果になれば、日本経済はその程度だと非難されるかもしれない】


【この波は、もはや止める事は出来ないだろう。新たに音楽業界を作っていくのは音楽ゲーム楽曲か、それとも…?】



 それから1週間後の5月30日、今回の事件は劇的に変化する。


【超有名アイドルのCD以外に大幅な増税を強いていた事実が判明したな】


【やっぱり、そう言う事だったのか】


【もしかすると、消費税とは名ばかりの超有名アイドルへのお布施…と言う事も考えられそうな気配がする】


【おい! 更に凄いニュースが出て来たぞ】


 ネット上を駆け巡ったニュース、それは…。


《サウンドドライバーが超有名アイドルの楽曲を収録しないのは音楽業界で鎖国を行っていると同じ》


 ニュースの内容は、サウンドドライバーで超有名アイドルの楽曲を収録していないのは現状の音楽業界とも隔離し、鎖国を行っている物として、1京円の損害賠償と超有名アイドルのリリースした全曲を収録するように…という内容だった。


【何だか、このニュースはおかしくないか?】


【オリジナル楽曲だけという音楽ゲームが出ているのは、開発費用を削減する為の工夫と言われている中で、この流れはおかしい】


【これは別組織の『日本人総超有名アイドルファン化計画』が遂に起動した…と言う事か】


【これを止めなければ、日本は音楽先進国に大幅に遅れを取り、遂には最下位に転落する時代が来る事の予兆】


【超有名アイドルのプロデューサーは逮捕されたと言うのに、途方もない消耗戦を続けるのか…超有名アイドルファンは】


【それも全ては、あの時に妨害した現役超有名アイドルが黒歴史化を加速させたのは間違いない】


 そして、時間は事件の起こった5月20日に戻る。



 5月20日、荒川沿いにある旧ユニオンダイバーセンター跡地…。そこでは、ワールドラインと謎のロボット、アオイとエイジのバトルが始まろうとしていた。


「それで構わない。こっちは既にプレイする曲も決まっているんだ、先攻のそっちも曲を決めたらどうだ?」


 エイジ達は、どうやら曲は決まっているらしい。そんな中でワールドラインが選曲したのは―。


「黒翼エイジ、君の熱意に免じて1曲目は…この曲だ」


 そして、大型ビジョンに表示された曲タイトルを見て衝撃を受けたのは、エイジではなくアオイの方だった。


「機械仕掛けのアイドル…この曲は、西雲が未だに高難易度譜面に苦戦している―」


 曲名は聞いた事のあるアオイ、この曲を粘着した事もあるエイジ、お互いにこの曲をワールドラインが選曲するとは予想外と言う表情をしていた。


《機械仕掛けのアイドル ブルームーン RAILSTORM☆☆☆☆☆》


 この曲が選曲された事に対し、ネット上では異常とも言える盛り上がりを見せ、注目キーワードに曲名が出てくるほどだった。


【この曲は確か、現在の超有名アイドル独占市場に対するアンサーソングという話を聞いた事がある】


【曲調はJ-POPではなく、完全にファンタジープログレッシブと言うような曲だったな】


【後半のピアノ連打とも言える部分は震えた】


【この曲自体、カラオケは不可能と言う位に歌詞が早い部分等もあるからな。まさか、この曲を選ぶとはワールドラインも何か思う部分があるのだろう】


【曲の世界観よりも、この曲は歌詞に重点が置かれ、しかもサンプリングボイスではなく、歌唱プログラムソフトを使ったと言う経緯があったな―】


【この曲はCD化する予定が現状ではないようだ。現状の超有名アイドル以外のCDに増税がされる状態ではリリースも無理だと思うが】


【サウンドドライバーの楽曲でも初期楽曲でランキング上位が西雲をはじめとした上位ランカーで独占されていた。これが意味するのは?】


【動画サイトでも500万再生を突破している。そして、この曲のメッセージに超有名アイドルは気付くべきだ】


【しかし、超有名アイドル気付かずに暴走を続け、遂には法律で超有名アイドル商法を禁止にされる流れになり、この世界の歴史からも完全に締め出される】


【この曲以外にも超有名アイドル商法へのアンサーソングは非常に多い。その大半が反対側、ごく一部は商法の改善を訴えていた。賛成している曲は一切ないという徹底ぶりだったのを思い出した】


 それから数分の後、1曲目のプレイが始まった。前半の流れはワールドライン組の方が圧倒的で、エイジとアオイはそれに遅れる形だった。


【これは圧倒的じゃないのか?】


【エイジとアオイでは、アオイのプレイ回数がエイジよりも100回近くは違う。差が出るのは当然だろう】


【それ以上に、ワールドラインの相方は本当に機械なのか?】


【機械の動きとは到底思えない細かい動作、中に人がいるのは確定じゃないのか】


【サウンドドライバーにはゴーストと言う自分のハイスコアを取った時のプレイデータを呼び出す事は可能だが、ワールドラインとはプレイスタイルが違いすぎる】


【そうなると、ワールドラインの相方は別人が動かしていると言う事になるのだが…?】


 タッグマッチの誤爆に続き、今度はワールドラインの相方に関する事でネット上は一種の祭りとも言える状況になっていた。


【サウンドドライバーではレギュレーションの方で無人機が禁止されているらしい。暫定的な有人機体扱いにして別の誰かが動かす…と言う路線なら問題はないようだ】


【じゃあ、あの機体は誰が載っているんだ?】


【中に人がいるのはレギュレーションの関係で確定として、操作を行っているのは誰なのか?】


【動きが機械的ではない…と言ったが、ワールドラインとは別人のゴーストをプログラミングしている可能性も否定できない】


【ワールドラインとは別人か。とりあえず、この辺りは結果待ちをするしかないか】


 サウンドドライバーでは万が一の事故を想定し、無人機での運用を禁止している。この辺りは爆弾テロに悪用されるのを防ぐ狙いがあるのかもしれない。その一方で、操作に関しては別人が行う事も問題ない…としている。


【有人機で別人が操作…と言ったら、それこそテロに悪用される危険性があると思うが? ADSも似たような物だが】


 ある人物がADSも似たようなシステム…と言及した事に、ネット上ではとある説が浮上したのである。


【ワールドラインの正体、もしかすると…?】



 午前11時45分、1回目のプレイが終了して数分が経過している。1回目の結果はワールドラインの勝利。そして、2回目のプレイに移ろうとしたのだが…。


「曲目変更が…? 一体、どうなっている!」


 エイジが先行入力していた曲とは、全く違う曲名が出てきた事に違和感を感じていた。次の瞬間には、大量のサウンドドライバーに周囲を囲まれていたのである。


「そんなに超有名アイドルが日本を制圧するのに不満か?」


 3人の前に現れたのは、何と虎の覆面をした人物だった。支援団体を含めて超有名アイドル絡みの事務所は既に警察の手が入ろうとしている中、彼が現れた。


「お前が全ての元凶か!」


 エイジの叫びに、答えるような様子は全くない。そして、3人を消せと言わんばかりに攻撃の指示を送る。


「サウンドドライバーに武器の実装は禁止されているはず。そうなると、あの機体は別ゲーム用の機体と言う事か!」


 虎の覆面が行おうとしている事は、3人を事故に見せかけて抹殺する事だった。それを感知した、ワールドラインはあるシステムのリミッターを外そうとした。


《アークエンジェル セラフモード》


 アオイは目の前に表示された文字に違和感を持っていた。そして、以前に少佐が言っていたビームサーベルを思い出した。


「これならば、何とか行ける!」


 そして、アオイは12枚の翼を全て展開し、それをサウンドドライバーの大軍に向けて放つ。放たれた羽の周囲にはビームのような物が展開し、その光景はファンネルのようにも見えた。


「バカな…。サウンドドライバーの武装化は禁止されているはずだ。それが…?」


 虎の覆面も周囲のサウンドドライバーが次々と倒されていく光景を見て、恐怖を抱いていた。このままでは自分の夢も実現出来なくなる。


「キサラギの連中か。奴らのオーバーテクノロジーならば、サウンドドライバーに偽装したオーバーウエポンを作る事は造作もない―」


 そして、虎の覆面は他の部隊にも突入準備を指示し、自分は撤退する事にした。


「これ以上お前達に関われば、日本を超有名アイドルが完全統治する計画も台無しになる。ランカーという存在は、超有名アイドルをこの世から抹殺する為に生まれたような種族だからな!」


 この発言を聞いた、アオイは完全に言葉を失った。超有名アイドルの影響で両親が蒸発、更には知人も―。


「お前のような存在が、超有名アイドルを黒歴史の存在へと変えてしまった。その罪は償ってもらう!」


 アオイの両目が蒼く光り出し、更には全身もバリアを展開したような状態になっていた。そして、撤退をする虎の覆面に向かって全速力で追跡を開始する。


「サウンドドライバーのシステムにのまれたのか?」


 エイジがアオイの様子を見て、サウンドドライバー独自のシステムに飲み込まれたのでは…と思った。


「止めろ! システムに飲み込まれたら、それこそ超有名アイドルが全世界侵略を始めるきっかけになる!」


 セラフモードが発動した事で、少佐がアオイに呼び掛けるのだが反応は全くない。


「何てしぶとい奴だ。超有名アイドルを永遠の存在にする事が、何故弾圧される対象でなければいけない!」


 セラフモードのスピードに逃げる虎の覆面は、何かを叫んでいるように見える。


「超有名アイドルが永遠の存在になれば、ファンは喜ぶものではないのか。何故、3次元アイドルの不老不死化計画が認められない!」


 虎の覆面は、ロボットに搭載されたビームライフルで応戦するが、ビームが弾かれる結果となり、全く効果がない。


「超有名アイドルのファンがテロリストとして認められてしまえば、音楽業界は売れないジャンルの寄せ集めとなり、それこそ冬の時代が来る」


 突入した別部隊と合流を果たし、何とかセラフモードから逃げる事に成功する。しかし、別部隊も1分と持たないうちに壊滅した。


「はぁ…はぁ…」


 アオイは息を切らせていた。セラフモードは時間制限付きで、タイムリミットの3分をオーバーしていた為に強制ロックがかかったのである。


「あれだけの実戦部隊を壊滅させる事が可能なのか…キサラギの技術は?」


 生き残った部隊の1人がおびえながら撤退をした。壊滅させた部隊の死者は0人と言う状況を、奇跡と言うのかは一切不明である。


 《ワールドライン・ダイレクトリンクモードを起動します》

 アオイのARには、謎のメッセージが表示されていた。それと同時に、彼女の意識は途切れた。


 セラフモードを作動させたアオイから辛うじて逃げ切った虎の覆面は、荒川の河川敷付近にいた。そして、そこから用意された車で本部へと逃げようとしていた。


「超有名アイドルの存在が黒歴史になれば、それこそ日本の音楽業界…芸能界、日本のマスコミは全滅と言っても過言ではなくなる!」


 虎の覆面は叫び続ける。超有名アイドルに依存した日本は、規制法案で規制したとしても超有名アイドルを求め続け、遂には違法アイドルが横行する事になる…と訴え続ける。


「超有名アイドルは、全ての世界で伝説とならければいけないのだ。そうでなければ、日本の価値は失われ、やがては―」


 しかし、逃げようと駐車場付近までたどり着いた矢先、予想外の事態が起こる。



 午前11時55分、彼の目の前には身長180位の人物が待ち構えていた。黒のワンレンに赤いジャージ、バストが95近くあるような巨乳の女性が仁王立ちをしているようにも見える。目の前の人物に見覚えがあるらしく、彼は足を止める。なお、ジャージの下は下着を着ている。決して、はいていないと言う訳ではない。


「ファースト・アイドル、あの場所から逃げてきたと言うのか!?」


 虎の覆面は驚いていた。目の前の女性、それは梅島の某ビルで幽閉同然の扱いをされていた人物でもあった。あの時はバニーガールの姿で受付嬢をしていたが…。


「永久不変の存在としての超有名アイドル、無限の資金を生む錬金術…そんな物は必要ない! いつか存在を忘れ去られようとも、それを覚えてくれる人がいれば、それで十分なのよ!」


 ファースト・アイドルと呼ばれた彼女は、虎の覆面をした人物に平手打ちをした。その痛みは、おそらく計り知れない物がある。


「永遠の命、永遠の若さ、それを超有名アイドルに持ち込もうとするなんて、最初から不可能だった…それにもかかわらず、実験を強行した結果が、自分だった…」


 彼女は泣いていた。超有名アイドルでさえ、無限の資金を生み出す為にはどんな手段をも選ばないという体制になった原因を作ったのは、間違いなく暴走したファンの行動…つまり超有名アイドル支援団体だった。


「こんな実験を繰り返してまで永遠のアイドルを作る必要なんてない。こんな悲劇を繰り返す位なら、超有名アイドルは黒歴史になるべきよ!」


 彼女は、再び虎の覆面をした人物に平手打ちをした。2発目は、その勢いで虎の覆面が外れると言う展開となり―。


「こんな事をして、お前が芸能界に復帰できるなどと思うなよ、蒼穹―」


 何かを言おうとしていたようだが、そこで虎の覆面をしていた人物は気を失った。


「この姿を…変わり果てた姿を見て、誰が喜ぶっていうの? 確かに人間は年老いていく。そして、最終的には―」


 しばらくして別の事件を捜査していた警察がタイミング良く現れ、倒れていた彼を連行していく。こうして、一連の超有名アイドルの暴走が引き起こした事件は、一応の決着を迎えた。



 午前12時、緊急速報としてテロップが流れたのだが、そこには予想外の展開を生む一文が書かれていた。


「そんな馬鹿な事が…あるはずが!?」


 一番驚いたのはガブリエルである。他のメンバーよりも衝撃度合いは計り知れない。ネットの住民も衝撃度合いはガブリエルと同じだった。


《超有名アイドルに関係する違法行為を行ったとして、大手芸能事務所のプロデューサーを荒川で逮捕――》


【まさか、超有名アイドル支援団体や複数の支援組織自体が彼の作り出した物だったとは思わなかった】


【支援組織の数は非公式を含めて10万以上、合計構成員は500万人近くか】


【たった、これだけの人間にCDチャートを蹂躙されていたかと思うと腹が立つというか…】


【下手をすれば、超有名アイドルの1人を永久不変の存在として文字通りの絶対神を創り出す計画もあったとか】


【これがフィクションで本当に助かったと言うか…?】


【超有名アイドルと永久不変の存在、どういう関係があるのかさっぱりわからない。誰か3行で説明を頼む】


【自分にも説明を願いたい。あるいは既存作品で例えてくれ】


 大手芸能事務所のプロデューサーが逮捕と言う部分で動揺する者、超有名アイドルと永久不変が関係している理由が分からない者…それぞれでネットが分かれている印象があった。


「なるほど。そう言った意味での永久不変の存在としての超有名アイドルか―」


 ネット上の反応を見て瀬川が何か思い当たる節があるらしく、ノートパソコンを取り出して文字を打ち込み始めた。どうやら、ネットで検索を始めたらしいのだが…。


「これだ。おそらく、あのプロデューサーが永久不変という考えに到達したのは―」


 周囲にいるメンバーに見せたのは、ARビジョンアイドルという触れ込みでデビューした次世代アイドルのサイトである。


「これは確か、ブルームーンなの」


 ヴォルテックスは、このサイトがブルームーンのサイトである事がすぐに分かった。実際、彼女の曲はサウンドドライバーでも何曲か収録されている。


「ARビジョンアイドル…確かARプレイヤーで疑似的に表示されると言うアイドルだったな。俗にいうアニメ等の2次元アイドルとは違って、2.5次元とも言われているが」


 少佐は何故かARビジョンアイドルは知っていたようだ。


「彼女の歌声はサンプリングボイスと言うよりは、より人間的歌声を目指した物という話があるの。別の世界線だと、色々な呼び方がされていて人気になっている世界も存在してるの」


 ヴォルテックスもARビジョンアイドルには若干の覚えがあるらしい。


「超有名アイドルに無理難題を行おうとしていた反動…。3次元アイドルに不老不死を求めた結果が、例のプロジェクトか」


 瀬川は、何か不安があった。不老不死の技術は現実であり得る訳ではない。それを限りなく可能にするとしたら、それは魔法以外の何物でもない。つまり、支援団体が手に入れた技術の正体は…。



 午後1時40分、例の乱入で中断していたバトルが再開される見通しになった。ハッキングされたシステムも何とか回復し、会場も損傷がある為に別のエリアを使う事になった。


「西新井か竹ノ塚で行う予定だったが、北千住と曳舟エリアを臨時で使用する事で調整しているようだ」


 少佐が中断されたバトルが中止ではなく、会場の変更で再開が可能だと言う事を報告する。


「よかったの。中止になったら、どうしようかとおもっていたの」


 ヴォルテックスをはじめ、中継を見ていたメンバーは一安心のようだった。


「だが、喜んでばかりもいられない。ハッキングされたシステムは復旧できたが、今のタイミングで浅草近辺にADSのスケジュール変更を申請するのは無理だ」


 ガブリエルが懸念していたのは、ADSのスケジュール変更申請である。大がかりなイベントに関しては警察にADSのナビゲートコース変更等の指示を送る為、1時間前までに道路の使用申請をしなくてはいけない。


「そうか。北千住エリアはサウンドドライバーコースがあるが、曳舟の方はコースが完成していないのか」


 少佐も迂闊だった。曳舟コースは近日稼働予定だが、現在では未完成と言う状態である。


「あそこはアースツリーと言う観光スポットがあるの。あの近辺は道路が非常に渋滞し易いエリアだから、ADSの道路使用許可も出にくい事で有名なの」


 それに加え、ヴォルテックスの言う通りにアースツリーと言う外国でも人気の観光スポットがある。浅草エリアもADSの道路使用許可が出にくい事に加え、サウンドドライバーの使用出来る施設やアンテナショップが不在なのも大きい。


「完全に打つ手なしか―」


 ガブリエルが万事休すと思った矢先、1本の電話が入った。着メロはアルマゲストと言う曲らしいが…。


「私だ…!? 良かった、君の事は色々と心配をしていたが―」


 電話の主は、ファースト・アイドルこと蒼穹アオイの母である。


「それは可能だが、大丈夫なのか? 君の体は既に人間とは―」


 それでも彼女の意思は固い。当時、芸能界でも彼女の意思の固さに関しては折紙つきだった。そして、それに負けたガブリエルは―。


「分かった。くれぐれも無理はしないでくれ。いくらミスリル繊維や強化型装甲という万全の装備があるとはいえ、サウンドドライバー未経験者に無茶はさせられない」


 そして、ガブリエルは電話を切る。その後、スマートフォンのショートメール機能を使って、ある人物にメッセージを送った。



 午前12時40分、会場の方にいたワールドラインと別のロボットは、周囲を完全包囲していた部隊を全て排除し終わった。その頃には、緊急速報がサウンドドライバーのARにも流れ始めていた。


《大手芸能事務所のプロデューサーを荒川で逮捕。現在、関係各所に警察が家宅捜索を行って――》


 第1次速報よりも詳しいニュースがARにも流れ始めた。どうやら、超有名アイドルのプロデューサーが一連の事件に関する全ての元凶だった…という事が第2次速報の簡略化した内容になるようだ。


「まさか、支援組織が超有名アイドルのプロデューサーが生み出した存在だったとは―。今まで、ダブルスパイをやってきた自分は…何だったのだ!」


 自分が行った事、それは超有名アイドル支援団体の情報を大手ネット掲示板の住民に流し、その一方でワールドラインとして支援団体の情報と引き換えにとある情報機関に情報提供をする…それが予想以上の結果を生み出していた。


「超有名アイドルに現在の商法を改善させる位で済ませるつもりが、まさか壊滅と言う結果を生み出すとは…」


 悔やんでも悔やみきれない物があった。ユニオンダイバーを超有名アイドルによって蹂躙された事に対しての復讐…それが、彼を突き動かしていた。そして、迎えた結末は…。


「あんたのやっていた事は間違っていない。ただ、ファンやプロデューサーが暴走し、それを止めるべき人物がいなかったのが超有名アイドルの結末を生み出した」


 エイジは、ワールドラインだけが間違っていない事を訴える。そして、エイジ自身も超有名アイドルが日本を救うと言う幻想につられた欲望を持った人間が全てを消滅させる結果を生み出した…と考えていた。


「話は聞かせてもらったわ! この私も新しいアイドルを生み出すのに協力する」


 2人の前に現れたのは、スクール水着に蒼い雷の刺繍の入ったマフラー、青色のサングラスをした女性である。実は、彼女がファースト・アイドルなのだが、この場にいる2人とロボット1体には正体が分からない。


「あんたは一体誰なんだ? まさか、アオイの―」


 エイジは顔を見て、アオイと似たような雰囲気を持っていると感じていた。


「えっ? 娘の事を知っているの?」


 アオイを即座に娘と答えたが、どう見ても母親のようには見えない体格と年齢。


「これは一体どうなっているの!?」


 ワールドラインの相方だったロボットのコクピットらしき部分が開き、そこから現れたのは大月焔だった。どうやら、ワールドラインの動向を見張る為に独自行動をしていたらしい。


「これは、どういう事だ? 乗っていたのは確か―」


 ワールドラインに関しても焔が乗っていた事は想定外で、本来は別人が乗っていたらしい。どうやら、何処かのタイミングですり替えたらしい。


「乗っていたのは、超有名アイドル支援団体のメンバーで間違いないわ。彼は何かのタイミングで待機させていた大量の部隊に対して、ここに一斉攻撃を仕掛ける予定だった―」


「ワールドライン、どこまでお前は超有名アイドルを何だと思っているんだ!?」


 焔の種明かしを聞いたエイジが激怒し、遂には数センチと言う所まで接近する。


「そこまでの存在に変えてしまったのは、誰だと思っている。アイドルが世代交代をするのは当たり前だ。しかし、超有名アイドルは全てにおいて永久不変の存在になろうとしていた事実がある」


 ワールドラインも反論するが、その反論にエイジは何も言えなくなってしまう。確かに超有名アイドルが永久不変の存在として求めたのは、欲望に駆られた人間である。もしかすると、欲望がなくても同じ末路になっていたのかもしれない…。



 その時である。突如として、先程まで流れていたBGMが超有名アイドルの物から、急に別の楽曲へと変化していた。


「繰り返させはしない! この悲劇の連鎖を止めるまでは!」


 そこに現れたのは、セラフモードが停止して戻って来たアオイなのだが、様子が若干おかしい。


「この曲もサウンドドライバーには未収録のはず。どういう事なの?」


 焔が収録曲リストを調べるが、この曲は未収録と言う…。


「どうやら、他の世界線で何か起こったらしい。セラフモードがトリガーとなって、何かと繋がった…と言うべきか」


 現状でアオイに起こった事をエイジが予測するが、別の世界線と言われてもピンと来るような物は全くない。


「別の世界線―まさか、アカシックレコードを書き写したサイトの事か?」


 ワールドラインにも若干の覚えがあった。ネット上で噂になっていた、アカシックレコードを書き写したサイト。そこでは、音楽業界の未来を予言した記述が多く含まれていると言う…。


「キサラギの技術、反超有名アイドルサイトが掲げる西雲隼人と言う人物名、サウンドドライバーの元デザイン…そう言った物は、全てアカシックレコードにも記されていると聞いた事がある」


 エイジもサイトの存在に関しては若干覚えがあり、その記述はフィクションとばかり思っていた。


「超有名アイドルが生み出す悲劇の連鎖、それを現実に持ち込ませない為にも!」


 次の瞬間、アオイは12枚の翼を再び展開し、ワールドラインに向けて放つ。そのスピードは、先程とは比べ物にならない速度である。


「これが、キサラギのやる事なのか!?」


 ワールドラインは、右腕に仕込んでいた隠し武装であるレーザーチェーンソーで放たれた翼を弾き飛ばす。しかし、破壊する事は不可能だったらしく、弾き飛ばすのが精一杯だった。


「そう言えば、キサラギはサバイバルゲームにも見えるような音楽ゲームを開発していた事があったな。その技術を、サウンドドライバーで応用した結果が…これか」


 エイジは、改めてキサラギの生み出したオーバーテクノロジーの凄さを実感するのであった。


「感心している場合じゃない! 今は、アオイを止めるのが先よ!」


 ファースト・アイドルの言う事も一理ある。ここは一時休戦をした方が正解だろう…と。


「この機体は損傷が激しくて使い物にならないから、こちらを使うわ!」


 焔は事前に用意したブラッドローズのアーマーを装着し、3人に加勢した。焔がブラッドローズだった事は、3人も初めて知った事実だったのである。


 午後1時30分、何とか猛攻を防ぎきったのだが、3人の疲労は頂点に達している気配もあった。


《惜しい所まで行ったのに、結局は同じ事を繰り返す展開を生む結末になった―》


 そんな状況下でエイジ、ワールドライン、ファースト・アイドル、焔のARに謎のメッセージが現れた。セラフモードとリンクしたのか…と思ったりもしたが、違うようだ。


《どの世界でも超有名アイドルは、支配欲の象徴、絶対神、無限の資金を生む誰でも出来る錬金術等と言われている》


《結局、現実でも、2次元でも、別の世界線でも超有名アイドルは錬金術の象徴として存在しているというのが、正しい認識になるのかもしれない》


《超有名アイドルによる支配から脱却する事、それが他の世界線や現実の日本でも求められる。君達に、その資格があるのか試してあげるよ》


《僕もサウンドドライバー用に作った曲を投稿していたけど、あいにく不採用だったという経歴があるから、僕が個人的に気に入ったサウンドドライバーの楽曲で特別な譜面を用意した》


《これをクリア出来るか…楽しみにしているよ》


 メッセージは、ここで途切れている。メッセージ主はオーディーンと書かれているのだが、サウンドドライバーのオーディーンとは別人のようだ。


 《アルマゲスト ????? RAILSTORM☆☆☆》


 曲名を見て、驚きの表情を見せたのはエイジだった。他のメンバーは曲名に覚えがないらしく、新曲か…と思っているらしい。


「この曲は別の世界線リストで見た事がある。まさか…?」


 そして、エイジ、ワールドライン、ファースト・アイドルがサウンドドライバーの未来をかけた戦いに挑む。


 そんな中、ファースト・アイドルがスマートフォンで連絡していたのは、ガブリエルだった。


「久しぶりね。私が例の場所へ行く直前…1年ぶりね」


『私だ…!? 良かった、君の事は色々と心配をしていたが―』


「例の封印をくれないかな?」


『それは可能だが、大丈夫なのか? 君の体は既に人間とは―』


「それは分かってる。でも、今は超有名アイドルが全ての世界線を侵略完了してしまうか…と言う位に急いでいるの!」


 彼女が『それは駄目だ!』と言って納得するのか…と言われるとNOとしか言えない。


『分かった。くれぐれも無理はしないでくれ。いくらミスリル繊維や強化型装甲という万全の装備があるとはいえ、サウンドドライバー未経験者に無茶はさせられない』


「もうすぐ、あいつと再び一緒に戦える!」


 彼女の目は輝いていた。あいつとは、サウンドドライバーなのか…。

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