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暴かれたトリック―The revealed trick―

 月日は流れ、5月20日。ネット上では、あるニュースをきっかけに盛り上がりを見せていた。


【再び動き出したのか】


【沈黙をしていたのだと思っていた】


【一体、彼らの目的は何だ?】


【あの3人組は、前座だったと言うのか?】


【これが、世界線で言われていた『超有名アイドルによる日本制圧』か】


 ネット上でも衝撃を与えた事件、それは過去に別の音楽ゲームやユニオンダイバーというゲームでもあった超有名アイドルとのタイアップである。


【普通のタイアップならば事件と言う程ではない。問題は、それを行っているのが超有名アイドルだからだ】


【超有名アイドルの資金力は、9999兆を超えて9999京円とまで言われている。下手をすれば金額という概念自体が無駄というレベル―】


【超有名アイドル2強時代の世界線や超有名アイドルが既に日本を力で制圧していた世界線でも、9999京円という概念はなかった】


【しかし、この世界の超有名アイドルは金額と言う概念さえ無駄。資金力は無制限と考えるのが正しいだろう】


【その資金力もファンクラブ会員がCDを1万枚単位で購入し、それが10万人規模にまでなっている。このような商法が海外で通じる訳はない】


【そして、今回の最終計画と言う訳か。ユニオンダイバーの時はアイドル自身の不祥事で超有名アイドルが勢力を大幅縮小という結末だった】


【最終的には超有名アイドルは暴走し、この世界では破滅へと向かう末路になったか】


 超有名アイドルの金に目がくらんだ末の末路、それは何ともあっけない物だった。そして、サウンドドライバーに超有名アイドル楽曲を収録すべく組織が本格的に動き出したのである。



 同日の午前9時、足立区内のADSが突如として停止した。原因は不明だが、過去に起こったサイバーテロとの関連性も高く、警察等で警戒をしている。


【本格的に始まったようだな】


【おそらくは、超有名アイドルファンクラブの仕業か】


【外を見ろ!】


 ネット上で外を見ろという書き込みを見たユーザーは、その光景を見て衝撃を覚えた。


【何だ、これは!?】


【あれは確かユニオンダイバーじゃないのか?】


 ユニオンダイバー―カスタマイズ型のロボットアクションゲームで、過去には当時無名だったアイドルがユニオンダイバーとのタイアップでアイドルダイバーとしてデビュー、超有名アイドルと肩を並べる人気となっていた。


【今になってユニオンダイバーが出現するとは…。あれは現在でも稼働はしているが、プレイヤー数は全盛期よりも少ない】


【街中に出現するのも、おかしな話じゃないか? 何か仕掛けがあるに違いない】


【これは、ひょっとすると…?】


 ネット上でも情報が混乱、これに対抗出来る策はない物と考えられていた。



 そんな中で午前9時30分、ネット上での混乱も若干おさまっていた頃、事件は思わぬ方向に急展開を迎えた。


【あ、ありのまま起こった事を―】


【ユニオンダイバー事件の再来と思ってネットサーフィンをしていたら、1つの動画にたどり着いた。そうしたら、事件は全て終わった後だった】


【終わった後?】


【どういう事!?】


【えっ? えっ?】


 ある人物がネットサーフィンをして発見した1つの動画、それには誰も予想だにしていなかった結末が収められていたのである。


【これの事か。《URL省略》】


 該当のURLをクリックしたユーザーは……。


【何と言う超展開】


【まさか、事件が起きてわずか30分で決着をしたと言うのか?】


【丁度、9時から国会で何かの法案が提出されると言うのを聞いたが、それと関係はあるのか?】


【もしかすると、想定外とも言える世界線の変化があったのかもしれないな。それが、この世界に影響を与えた】


【まるでご都合主義ともいえる展開だな】


 そんな展開の中で、ある1人のユーザーがこの状況に適切な一言を発した。


【別の世界の事件が、この世界の超有名アイドルに少なからず影響を与えたのかもしれない。これが、どの世界からも超有名アイドルが見向きもされなくなる時代が来る予兆なのかも―】


 このユーザーのコメントは、後に別の世界から来た人間の発言か…と議論される事になるのだが、それは別の話である。


###


『今回の一連の事件に関して、超有名アイドル支援団体とは名ばかりの偽組織による犯行であると判明しました――』


 文章を読み上げているのは、グリズリーの着ぐるみだった。場所は特定できないが、何処かのスタジオと思われる。


『我々とは別に超有名アイドルによる日本支配、全次元における超有名アイドル国家の樹立、超有名アイドルを絶対神にしようとする思想…』


【どう考えても自作自演じゃないのか?】


【支援団体も超有名アイドルの国会進出、世界支配を考えていたはず。どう考えても、この動画はおかしい】


【超有名アイドル以外の存在を全て否定して、超有名アイドル以外は全て世界から排除する考えをしていた団体とは到底思えない】


【彼らこそ絶対悪、殲滅すべき存在のはず。それが、偽組織の仕業とか…】


 ネット上では、この動画に関して偽物説が浮上していた。それもそのはず、後ろに掲げられている旗が、超有名アイドル支援団体の使用している旗とはデザインが異なるからだ。


『そんな考え方をしているような団体が日本に存在する事自体、全てが狂っているとしか思えないのです。我々が行うべき事、それは…』


【何だか、話し方がおかしくなっていないか?】


【まるで、別の世界線にいた音楽業界を変えようとしていた人物を思わせるような…】


【もしかして、彼の正体は?】


 動画を見ていたユーザーが正体が支援団体とは全く別の存在なのでは…と推測していた、その時である。


『超有名アイドルを無限に利益を生み出す錬金術と勘違いしている、大手SNS会社、芸能事務所、レコード会社等に対して不買運動を起こし、彼らの目を覚まさせる事です!』


 グリズリーが着ぐるみの頭だけを外して、そこから見せた顔は―何と、アオイだったのである。


『そして、超有名アイドルが絶対神として神話化しないような体制を作る事。その為には、みんなの力が必要なのです。音楽を純粋に愛する、ファンの力が!』


 その動画が流れている途中で、何者かがスタジオに侵入してきた。どうやら、超有名アイドル支援団体の構成員らしい。


「噂に聞くアイドルデレ、そう言う事か!」


 現れたのは、ライオン、コウテイペンギン、ラマ、パンダ、虎、チーター、ゴリラの着ぐるみである。スタジオの外では、装甲車らしき物もスタンバイしている。


「私は超有名アイドルのおかげで、多くの物を失ってしまった。両親も超有名アイドルの追っかけで蒸発、友人も超有名アイドルファンで大量の資金を使い、遂には自己破産に追い込まれた人もいた…」


 アオイが切りだした話、それは自分の過去だった。超有名アイドルのファンになったあまりに、遂には超有名アイドルしか見えなくなり、自分の事を見放したのである。


「無限の錬金術は現実で存在しない! そんな夢物語を抱こうとする存在に対して、自分は仇打ちをする事に決めた!」


 指をパチンと鳴らし、アオイの着ぐるみがキャストオフされた。着ている服はサウンドドライバーの物とは別のバニースーツ―。


「もう一度だけ警告する…」


 アオイは、テーブルの下から筒状の物を取り出し、そこからビームが展開された。どうやら、ビームサーベルらしい。


「芸能事務所のテンプレアイドルは必要ない! 無限の利益という時代は終わったのよ!」


 目つきは完全に変わり、今にも誰かに襲い掛かりそうな…そんな気配を抱かせた。


【えっ!?】


【まさか、あの時のアイドルデレがアオイだったのか…】


【どういう事なの?】


【てっきり、別の反超有名アイドル組織等と思ったら、グリズリーの正体はアオイだったのか】


【全てが筋書き通りの展開だった…というのか、アオイにとっての】


【(超有名アイドルが)どうしてこうなった】


【ここまで放置した芸能事務所も問題だが、ここまでの事を知っていて止めなかったファンもファンだな】


【超有名アイドル、終わったな―】


【これからは、別世界線のように音楽ゲームの楽曲や同人シューティングゲームの楽曲がメインの世界になるのか?】


【超有名アイドル=錬金術という方式は、どの世界でも共通しているのか】


 動画から流れてくるコメントは半数がアオイに関係した物だったが、中には超有名アイドルをここまで放置した芸能事務所に対する批判なども混ざっていた。


『これで、ようやく出そろったみたいね』


 スピーカー越しから別の声が聞こえる。支援団体のメンバーが慌てている所を見ると、この声には聞き覚えがあるらしい。


『ネット上で色々な情報が出ている所を見て、警察に協力して調べて見たら見事にビンゴだったようで驚いた―』


「あの資料が流出したと言うのはあり得ない! 何かの間違いではないのか?」


 チーターの着ぐるみが口を滑らせてしまい、資料の存在を明らかにしてしまった。そして…。


「どうやら、勝負ありみたいですね」


 別の部屋から現れたのは、肩とボディにアーマーを装着し、SFのヒーローを思わせるメットと言う人物である。


「ブラッドローズだと!?」


「バカな、ブラッドローズがこの場にいるはずがない。確かに、ブラッドローズはレースを…」


 ラマ、パンダの人物が驚く。目の前にいたのは、ブラッドローズと言う異色のプレイヤー。この人物の正体とは、一体何者なのか?


「あれは偽者ですよ。スーツ自体はレンタルスーツを若干改造した物なので、量産は可能です」


 ブラッドローズは、何かに勝ち誇ったような表情をしていた。しかし、メットの中を見る事は出来ない。


「既に警察には通報済…。超有名アイドル支援団体も、これで壊滅確定ですね」


 動画はここで終わっている。その後は、着ぐるみの集団が警察に連行されるのだが、このシーンだけは映像収録はしていないようだ。



 午前10時頃…。


【意外とあっけなかったな】


【支援組織が何をしようとしていたのかは、警察の調査で判明するだろう。それまでは静観しているしかないか】


【だが、今度はどうなる? 超有名アイドルと言う絶対的象徴を失った芸能界の今後が気になるが…】


【絶対的象徴を失ったとしても、第2、第3のアイドルを生み出していくのは間違いないだろう】


【つまり、歴史は繰り返される…と】


【それをさせない為に、政府が超有名アイドル商法規制法案を国会に提出、既に成立していて即日発効される事になっている】


【しかし、超有名アイドルが無限の錬金術と言われていた原因、それを今回の規制法案で完全にシャットアウトするのは不可能だろう】


【100%不可能とは断言出来ないが、不適切と思われる商法を改善させる事で考えを改めさせる事は可能だ】


 ネット上では、一連の流れを見て決着が早かった事に疑問を持っている人物もごく少数だが存在した。


「アイドル同士が切磋琢磨するなら、それは問題なかったの。でも、超有名アイドルはリアルチートその物…非常に危険な存在なの」


 ネットの方で超有名アイドル支援団体が摘発されたと聞き、ヴォルテックスは一連の流れをネットのまとめサイトで確認していた。


「同じグループが何年も、何十年も年間トップ100を独占するようなCDチャートは不要なの。CDチャートは超有名アイドルの為だけに存在する広告塔じゃないの」


 そして、ヴォルテックスはコンビニを後にした。どうやら、ゲーセンの開店を待っていたらしい。


###



 午前10時30分、西新井大師近辺。警察への事情説明も終わり、帰宅しようとした所で一人の人物からメールを受け取った。


《西新井大師で待つ》


 大師前駅の近くまで入った所で、アオイを待っていたのはエイジだった。


「このメールの主はお前か?」


 エイジは、アオイに送られてきたメールを見せる。


《西新井大師で待つ アオイ》


 当然の事ながら、アオイはメールを送った覚えはないと言う。しかし、このメールの送り主が別人である事を数秒後に知る。


『あなた方が来るのを待っていました。ここでは話しづらいので、場所を移しましょう―』


 2人のスマートフォンから別人の声が聞こえる。そして、指定された場所へと移動する。


「超有名アイドルなんて、海外じゃ全く通用しないんだろ? それを日本が税金等も使って全力で応援するなんておかしいと思わないのか?」


 移動中にエイジが、アオイの出ていた例の動画を見て浮かんだ率直な言葉を述べる。超有名アイドル支援団体が日本政府とも繋がっていた事、そして、全世界を掌握しようとしていた事も…。


「私は普通に活動をしている分ならば問題視はしていなかった。でも、超有名アイドルは自分の日常を奪ってしまった。それだけは本当に許せるものではなかった」


 超有名アイドルが普通に活動をしているだけならば、アオイもファンになっていたかもしれない…と若干言葉を選んで話す。


「海外でも人気のある歌手もいる。中には、世界的に有名な日本人だっているかもしれない。そんな中で超有名アイドルのやった事は、日本を失望させる位の違法行為で絶対服従のような空気を作り出した―」


 エイジはアオイに同情する事はなく、自分が思っている言葉を一方的にぶつけてくる。そして、最後にエイジは―。


「それも全ては、彼女達を影で操って全ての世界をコントロールしようとした人物が悪い事が分かった。もしかすると、超有名アイドルも別の意味で言えば犠牲者なのかもしれないだろう」


 しばらくして、二人は荒川河川敷近くにある映画館のような場所に到着した。


「ここは?」


「なるほど。そう言う事か…」


 どういった場所か把握できていないアオイに対し、エイジの方は場所の把握が出来ている。


「ようこそ、蒼穹アオイ、黒翼エイジ―」


 映画館らしき場所の入口前にいたのは、アンテナショップの店員なのだが…SFというよりは特撮寄りのデザインをしたスーツを着ている。


「やはりあんただったのか、ユニオンダイバーの上位ランカー、ワールドライン!」


 エイジが何かを知っているような口調で発言する。アオイも何か引っかかっていた物、それが今になってようやく分かった。


『これが、現実なのかよ。インチキアイドルもいい加減にしろ!』


 エイジが以前に発言した言葉が、ワールドラインの持っていた携帯音楽プレイヤーから流れてきた。


「私も超有名アイドルに対しては、君以上の恨みを持っていた。そして、復讐のタイミングを待っていた。それが、あの時だった」


 ワールドラインの言うあの時、それはアオイがサウンドドライバーの初戦を勝利で飾った日だったのである。


「あの時の3人組は、超有名アイドル…?」


 アオイも疑問に持っていた3人の正体、それは超有名アイドルグループの元研修生だった別の有名アイドル。つまり、あの時に呼び寄せた理由とは、彼女達の正体を観客にさらす事だった。


 そして、ワールドラインは全てのトリックを2人に話す。


「私も疑問には思っていたが、キサラギの意向もあって正体をさらす事だけは止めた。その後の展開は、ネットでも知っての通り―彼女達は追放される事になった。超有名アイドルと政治

家がサウンドドライバーに参加するのはレギュレーション違反だったからだ」


 パチンと指を鳴らすワールドライン。次の瞬間、映画館の閉まっていたドアが開き、2人に入るように指示する。


「そして、ネット上に超有名アイドル支援を掲げる複数の団体が持っているデータを公表、それによってネット上は超有名アイドルを締め出そうと言うムードが盛り上がって来た。しかし、そんなやり方に異論を唱える人物がいたのも事実―」


 ワールドラインが歩きながら、真相を話していく。その中には、超有名アイドルが裏ではレッドゾーンギリギリとまで言われている商法等にも手を染めた結果、半年で100京円という利益を得る事が出来た為、後には引けなくなったのだと言う。


「やがて、日本経済を再生させる為に無数の企業が超有名アイドルの錬金術を求めた結果は、既に前例を見れば一目瞭然―。ユニオンダイバーは、そのしわ寄せで衰退の道を歩む事を強いられているんだ!」


 前例とはユニオンダイバーの事である。ユニオンダイバーとのタイアップで誕生したアイドルダイバーは、CDをファンに1人10枚以上購入させるような商法を強いる等の不正が発覚した結果、ユニオンダイバーごと黒歴史の闇に消える事になった。


「ファンにCDを10枚以上買わせる一方で、芸能事務所やレコード会社は無料でCMを流す事が出来る。更には、超有名アイドルの楽曲以外は10倍~100倍という大差のついた楽曲使用料を請求される。それが、ユニオンダイバーを破滅へと導いた」


 二人が到着したのは、ライブ会場を思わせるような広いスペースだった。そして、最後にワールドラインは―。


「君達もサウンドドライバーならば、サウンドドライバーで全ての勝負を決めるのはどうだ? 私の方は既に準備が終わっている」


 ユニオンダイバーの上位ランカーがサウンドドライバーで勝負…という部分に疑問を抱いたが、拒否権は存在しないようだ。


「俺の方は準備が出来ている。1対1でやるのならば、いつでもいいぜ!」


 エイジがワールドラインを挑発するのだが、エイジ一人では面白くはない…と思わせるような表情をして挑発には乗らなかった。


「私は1対1で勝負するとは一言も言っていない。蒼穹アオイ、黒翼エイジ、『君達』と勝負がしたいのだ」


 ワールドラインのこの一言を受けて、スーツに着替える為にアオイは一時的にこの場を離脱した。


 その2人を入口付近で監視しているような人物がいた。紫のライダースーツにリュックサックを思わせるようなARシステムを背負っている女性に見える。


「間違いないの。あの2人は何か隠しているみたいなの」


 それは、ゲーセンへ向かっていたはずのヴォルテックスだった。向かう途中で2人の姿を目撃し、気になった為に尾行をしていたらしい。


「偶然にしては奇遇だな」


 ヴォルテックスのいる反対側の道路から現れたのは、ヴァリアントを装着済の西雲だった。西雲の隣には、何と瀬川の姿もある。


「この先は、我々が知るべきではない世界だ。完全放置…とまではいかないが、のぞき見をするのは感心しない」


 瀬川は超有名アイドルが音楽業界にとって害悪であると何度も警告をし続けていた。その影響が、今回の超有名アイドル商法規制法案や一連のファンクラブ等の一斉家宅捜索にもつながっているのだ…と。


「超有名アイドルを害悪と思っているなら、彼のやっている事を止めないといけない予感がするの! 彼も超有名アイドルに対して復讐を考えている人物なの」


 ヴォルテックスはワールドラインが今まで何をやって来たのか、2人に証明する事にした。そうでもしなければ、この先に進む事も出来ないと判断したからだ。


【今の音楽業界は、おまけ付きお菓子のお菓子部分まで質が下がっていると思うの…。それだったら音ゲーの楽曲や同人シューティングゲームの楽曲の方が勢いがあって好きなの】


 ヴォルテックスが2人に見せたのは、つぶやきサイトで自分が5月10日頃に発言したメッセージである。それに返信をした人物、それが…。


【自分も、その部分に関しては賛同します。今の音楽業界は、まるで競馬とも言えるような世界まで落ちているのは明白でしょう。それを何とか打開する為にも、超有名アイドル商法規制法案は必須なのです】


 このメッセージを書き込んだ人物、それがワールドラインなのである。


「だが、それだけではワールドラインの正体を分かったとは言えない。彼のやろうとしている事、それを知っている2人だから呼ばれた。そう言う事だろう」

つぶやきサイトに返信メッセージを貰っただけでは、理解したと言う意味にはならない…と西雲は答える。



 午前11時、3人の目の前に1台の車が姿を見せた。そこに乗っていたのは少佐である。


「あんたは確か、サウンドドライバーの―」


 西雲には正体がばれていた。少佐の正体、それはキサラギのスタッフではなく、サウンドドライバーのスタッフだったのである。


「話は車の中…と言いたい所だが、こことは別にレース場がある。そこまで移動しよう。そうすれば、あの中を見る事が出来る」


 少佐の話を聞いたヴォルテックスは『?』と頭の上に出てくるような状況だったが、西雲と瀬川は少佐の話を聞いてあっさりと指示に従う事にした。



 午前11時5分、アオイは着替えが終わってステージに到着した。


「実は、このステージは別のゲーム用に整備がされていた物だった。それが、これだ!」


 ワールドラインがライブ会場と思われる場所の仕掛けを作動させると、中央ステージから現れたのはサウンドドライバーとかけ離れたデザインをしたロボットだった。サイズはサウンドドライバーの方に合わせているが…。


「やっぱり、そう言う事か!」


 エイジの懸念は現実のものとなった。目の前にあるのはユニオンダイバーに登場した機体で、ワールドラインがメインで使用していた物だった。


「武器類の使用はサウンドドライバーでは禁止されている関係もあって、武器に関しては取り外してある。しかし、ユニオンダイバーがCGだけの存在だと思ったら大間違いだ」


 ワールドラインがロボットに乗り込み、サウンドドライバーのコースをスタンバイする。


「曲に関しては、先攻と後攻を決めてお互いに選曲をする…というルールで行う。2曲の合計スコアを競い、スコアが上だったチームの勝利とする」


 ワールドラインが今回のゲームに関してルール説明をするが、どう考えても1名しかいないワールドラインが不利のように見える。


「1対2のハンデがある上で、合計スコアでは不利じゃないのか?」


 エイジの言う事も一理ある。その矢先、1体の別タイプロボットが現れた。どうやら、彼がパートナーを務めるらしい。


「ADSには、こういう使い方もあると言う事だ―」


 どうやら、このロボットはADSを利用したオートパイロット型らしい。しかも、サウンドドライバーのARシステム等も搭載している最新型である。


「本来であれば、自分だけ合計スコアを2倍に計算と言う方法も考えたが、それではフェアではない。その為に、この機体を用意した」


 ワールドラインは言うが、エイジは別の疑問を抱いた。


(ADS実装型サウンドドライバーは、現時点で公式にも発表はされていない。ADSに100%の安全性が保証されていない地点で、サウンドドライバーに実装されるとは考えにくい)


「それ以外のルールでは、タッグマッチで行う。パフォーマンスとスコアは個人扱いだが、BEATPOINTが2人で共有になる」


「ゲージ共有のタッグマッチと言う事?」


 ワールドラインがタッグと説明した所でアオイがゲージに関して質問をする。


「ゲージが共有と言っても、片方が離脱したとしても即演奏失敗ではない。完走時スコアに影響が出る…と言った所か」



 同時刻、北千住にあるアンテナショップで試合を完成していたのは西雲、瀬川、ヴォルテックス、少佐の4人だが…。


「いつの間にか、観客が増えているの」


 ヴォルテックスの言う通り、キャラリーの数は次第に増加していった。しかも、そのギャラリーの中にはガブリエルの姿もある。


「この戦いは、超有名アイドルの支配下を抜け出した後―つまり、今後のサウンドドライバーを占ううえで重要な物になる」


 ガブリエルの言う事にも一理あった。日本さえも利用し、遂には自分達が絶対正義とする世界まで作り出そうとした超有名アイドルの存在をなかった事にするか、それはこの戦いにかかっている。


「そう言えば、秘書の姿がないのだが?」


 西雲は何かの違和感を覚えた。ガブリエルと常に行動を共にしているような立ち位置にいるはずの秘書、焔の姿がないのだ。


「例の動画は見ただろう。あの関係で警察に事情説明をしているはずだ。その後は、自分も話を聞いていない」


 ガブリエルは、焔の保護者と言う訳ではない。彼女の報告にない部分は基本的に管轄外でもある。



 午前11時20分、ステージの変更作業も終わり、先攻はワールドライン、後攻はエイジとアオイのタッグという事になった。


「難易度は無制限と言いたい所だが、アップデート曲の高難易度譜面をオープンにしていない関係もある。難易度はSTORMまで、曲は無制限でどうだ?」


 ワールドラインの言う事も一理ある。5月中旬にアップデートされたばかりの新曲は未プレイの物が多く、この辺りは難易度等を含めて未知の領域となっている。


「それで構わない。こっちは既にプレイする曲も決まっているんだ、先攻のそっちも曲を決めたらどうだ?」


 エイジ達は、どうやら曲は決まっているらしい。そんな中でワールドラインが選曲したのは―。


《機械仕掛けのアイドル ブルームーン RAILSTORM☆☆☆☆☆》


【一体、どういう事なんだ?】


【この曲は、STORMの難易度でも5本の指に入る超高難易度曲だぞ。しかも、STORMの5つ星譜面はSHADOWの0.5星にも及ばないと言う話もある】


【それだけの賭けをする価値がある…と言う事か。今回のバトルはタッグバトル、シングルマッチングとは違って―】


【そう言う事か。相方が演奏失敗する事が意味するのは、スコアで大差が付くと言う事も意味する】


 ネットの住民は今回のタッグバトルに関する重要性を知っていた。しかも、先攻のワールドラインが選曲したのはサウンドドライバーの楽曲でも初期楽曲でランキング上位がランカーで独占と言う曲である。


【タッグマッチが実用化されるかどうかは、この1戦にかかっているのか?】


 ある人物が、不用意な発言をネット上で誤爆してしまう。それが、予想外のスピードで伝達し…。



 それから数分の後、1曲目のプレイが始まった。前半の流れはワールドライン組の方が圧倒的で、エイジとアオイはそれに遅れる形となっていた。


【これは圧倒的じゃないのか?】


【エイジとアオイでは、アオイのプレイ回数がエイジよりも100回近くは違う。差が出るのは当然だろう】


【それ以上に、ワールドラインの相方は本当に機械なのか?】


【機械の動きとは到底思えない細かい動作、中に人がいるのは確定じゃないのか】


【サウンドドライバーにはゴーストと言う自分のハイスコアを取った時のプレイデータを呼び出す事は可能だが、ワールドラインとはプレイスタイルが違いすぎる】


【そうなると、ワールドラインの相方は別人が動かしていると言う事になるのだが…?】


 タッグマッチの誤爆に続き、今度はワールドラインの相方に関する事でネット上は一種の祭りとも言える状況になっていた。


【確かにADSは自動車やバイク専用で、サウンドドライバー用が開発されているという情報は入ってない】


【そう言えば、ADS事業には超有名アイドル系のスポンサーは一切入っていないと言うのを雑誌で見た事がある】


【どうやら、その路線で確定だな。超有名アイドルに反旗を翻そうと考えていた存在を全て排除とか…今時のアニメでも見ない展開だな】


 全ては超有名アイドルに絶対服従を強いる為のハッキング事件と考えると、一定のつじつまは合う。今まで起こっていた不可思議な事件、マスコミのニュース、それらは全て超有名アイドルへの絶対服従をしない物に対しての見せしめと言う意味を持っていたのかも知れなかった。


 午前11時40分、1回目のプレイが終了し、結果はワールドラインの勝利だった。しかし、スコアとしてはエイジとアオイも逆転可能な余地は残っている。


「今のプレイで、確信が持てた。相方の正体、もしかすると―」


 エイジは、アオイに対してのみ通信回線をオープンにして自分の考えている事をアオイに話した。


「そうなると、ワールドラインの行おうとしている事は?」


「多分、超有名アイドルを完全排除とは言っているが、何かを試しているように見える。単純に八つ当たりをしているだけならば、あのプレイにはならない。何処か、怒りに身を任せて動きが鈍るはずだ」


 エイジには何か考えがあった。単純に八つ当たりをしているようなプレイならば、強引なパワープレイになる確率が高い。それは今まで戦ってきた相手の癖を覚えているエイジならではの考えだった。


「ワールドラインとは過去に戦った事もある。その時のプレイと、今のプレイは非常に似ている。ああいう発言をしているが、今回の件には裏があるのは明白だろう」


 割り切っているエイジに対し、アオイは感情の整理が出来ていない。超有名アイドル支援団体に情報を提供する一方で、超有名アイドル支援団体をはじめとした勢力の情報をネット上にばらまき、更には自分にサウンドドライバーを薦めた理由も…。


「私はワールドラインが許せない。でも、本当に彼が全て悪いのか―」


 サウンドドライバーでの迷いは下手をすれば大きな失敗を生み出す原因となる。割り切らなければ…と思ったが、それでも割り切れない物がある。

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