表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アキ晴レ  作者: 仲江
7/7

晴≪ハレ≫

 私は思い出から我に返り、朝日が出ている事に気が付いた。

 今日は、晴れるだろう。

 秋晴れだ。

 目標は朝日。宣言通り、投げ付けてやる。何度でもだ。母の形見のこの財布は、海に沈むのがお似合いだ。

 私は力一杯、財布を投げた。

 音に気付き、別荘の方へと振り向いた。あんたも来ていたか。

 目的を果たした私はもう一つの目的場所まで自転車をこぎ進める。

 今度はゆっくりなので、2培近く時間がかかるだろう。着く頃には夜か。

 また月が顔を出して、私を追いかける。

 ああ、知っている。お前はいつでも私の傍にいた。離れた事などなかった。ずっと、見守っていたのだろう。星ではなく、月になって。

 ああ、悔しいなあ。そんなお前が欝陶しいよ。

 私は自転車を放り出して、最後の気力を振り絞り、階段を一気に駆け登った。熱い血が全身を駆け巡る。

 月が、私を引っ張らない。私を照らさない。私が、月を引っ張っているのだ。

 錆れた扉を開けた。

 一番高いそこは、一番空に近い。星が瞬く。月が光を放つ。星の周りには更に細かな光の粒が散って、瞬きをする度に星が増えていく。

 もしもあれが、黒いビニールに穴を開けたものだとしたら、穴の向こうでは誰が夜を覗いている。

 「気が向いた。」

私はまだ荒い息でそう言った。

「あら、そう。」

闇に溶け込んで、まだ制服の元樹は応えた。昨日は一体、何時迄ここにいたのだろう。

 「あらそう、また今日も、来ないかと思ったわ。」

「じゃあ、何故まだいる。」

風が彼女の美しい髪を撫で、うっとりとしていた。

「来ると思ったからよ。」

 雲が月を隠して、闇が深くなる。闇は、彼女に似合い過ぎる。ただでさえ美しい彼女を、更に美しくする。

 「出来ればずっと来ない方が良かったのに……。」

また、風が吹いた。秋と冬の間の風。寂しさがほんのり含まれていて、これが少しずつ色濃くなり、木々から色を奪う風になる。

 「これが、最後になるのでしょうね。」

彼女は呟いた。

 「行くな、と言ったら、あなたは行くのを止めるかしら。」

「さあね。きっと、あんたが言った逆の事をする。」

 「嘘だわ。」

私の一言が、気に入らなかったのか、彼女の声は低くなった。

「誰が行くなと止めても、何があなたに行けと背中を押しても、あなたを動かすのはあなたでしかないのでしょう。」

それだけ言うと、彼女は星に向かって溜息を吐いた。

 「一度しか言わないけれど、出来る限り聞き逃して頂戴。」

 雲が流れて、月が顔を出す。彼女の姿が明るくなる。

 行かないでよ……。

 ……ああ、前言撤回をする。

 これ以上に美しい彼女を見た事がない。月に照らされた彼女は、あまりにも幻想的だ。美しく、髪の一本一本まで描かれた繊細な、一枚の絵のようだ。

 「何故?」

「何故って、そう聞いたの?」

彼女は私の方を静かに向いた。

 「あなたと違って、私はこの世界にピタリとくるものがあったからよ。」

いつも闇色をした彼女の瞳が、黒真珠のように光った。

 いつもの廊下を、土足で歩く。

 私は気配とも呼べぬ何かを感じ、後ろを振り返った。

 いつもの廊下。しかし、帰りの廊下をこの方向から見た事は、確かにない。

 成る程な……。

 成る程、こんな事か。こんなに……こんな簡単な攻略方だったのか。

 「ははは。」

私は笑った。そして……。

 「………。」

………なんだ……、これは。

 ほろり、と、何かが私の頬に触れる。ああ、落ち葉か。いや、違う。色のない、形のない、何か。

 一滴だけ、許してくれ、自分。

 視界のぼやけた中に、私がいた。何にも囚われない、誰にも、負けない、強く、しなやかで、凛とした……。


ばいばい、地球。

私は私の月に行く。




 この小説は、私が感覚的に書いたものです。

 読み始めの主人公と、読み終わりの主人公。

 どこが変わったのか、ハッキリとした言葉では現せられないが、何かが変わった。

 そんな小説を書きたくて出来た作品。

 この作品で、誰かに何かを伝えたい。という事は、ありません。

 ただ、これを通して、純粋でがむしゃらに生きている彼女等と関わってほしい。そう思います。

 最後になりましたが、アキ晴レを、更にこんな細かい所まで読んでいただき、深く感謝します。

 次回作をお待ち下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ