食い違い
南さんに呼ばれた僕が、向かった場所がある
コンコン
「伊場 朧です」
「どうぞ」
失礼しますと一言言って、部屋に足を踏み入れる。
「やぁ、朧君わざわざすまないね」
「いえ、僕も校長先生にお話がありましたから」
窓の外を見る校長に僕は一枚の資料を机に叩きつける
「これはどういうことなんですか?」
僕が叩きつけた資料はこの前起こった事件だった
「どういうこととは何だね?事件を見事に解決したじゃないか、本当に素晴らしいな」
「僕が指摘しているのはそこじゃないです、僕が指摘しているのは僕が一人で倒したというところです」
「ん?その通りじゃないのかね」
こちらを向いた校長は初めて知ったかのような驚いた表情をしていたが、それが嘘だとすぐに分かった。
だからこそ、僕は事実を校長に叩きつけてやる
封筒から彼の資料を取り出し、校長に資料を出す
「十 剣士、彼が確かに現場いて、僕は確かに彼に助けられました」
それを出した僕に、校長は再び窓の方を向き、遠くを眺めるようにしてから口を開く
「残念だが、世直し組から一人も十 剣士という名は出なかったよ」
「そんな!?僕は確かに彼に会ったんですよ!!」
「一対多の意見だったら多の意見を信じるのが当たり前だと思うがね」
校長先生の言葉に、僕は何も言い返せなかった。
「……………校長先生の話は何だったんですか?」
「まあ似たような話だからもういいさ、さあ午後の授業が始まる、教室に戻りたまえ」
時計を見ると、予鈴まであと5分だったため、僕は少し急ぎ足で校長室を出て、自分の教室に戻った。
五時間目の休み時間、僕は冬花からもらった封筒の角を指で転がす
封筒を指から爪、爪から手の甲、手の甲からまた爪にやり真上に高く弾く
そしてそれを取るために、落ちてくる所に手を合わせるが、封筒は僕の手元に落ちる前に横から伸びてきた手に掴まれて取られた。
「綾、封筒」
指をくいくいと手前に曲げ、返せとモーションをとるが、綾は一向に返そうとしない
それどころか、はさみを取り出して封筒の封を切ろうとしていた。
「だぁー、か、返せ!!」
多少強引に封筒を奪い取り、内側の胸ポケットに入れる
「ちぇっ、つな君の秘密がわかるところだったのに」
「そう簡単に秘密を握られるわけにはいかないよ、ていうか、勝手に人の封筒を開けると嫌われるよ」
「もう、冗談だよ」
綾は笑っているが、胸ポケに入っている封筒に若干ながら切り込みが入っているのをわかっているのだろうか
まあ封筒の中が第3者に見られなければどうでもいいのだが
「ところでつな君、放課後の予定入ってる?」
「ないよ、今日は道場には行かないし、ペナルティーもないから」
僕がそう言うと、綾はぱぁと明るい顔をした
「じゃあ、今日私の家で晩ごはん食べない?鍋らしいからつな君もどう?」
「うーん、迷惑じゃない?」
「ぜ、全然大丈夫だよ、私の親がそんな親じゃないことはつな君も知ってるでしょ」
「……………」
綾の親御さんを思い浮かべる
確かに綾の親は面倒見がいい、特に僕はよく面倒を見てもらっている
「じゃあ、今日一緒に商店街行こ♪食材買ってきてって言われてるし」
「うん、荷物持ちなら任せといて」
「期待してるね、つな君」
ニコッととても可愛らしい笑顔をする綾
そんな綾と会話しているとあらゆる方向から殺意の目が向けられたのは言うまでもないだろう