襲撃後
いつもより少し遅めに学校に着いた俺は、教室に着くや否や綾に質問責めにあっていた。
「だーかーら、転んだだけだって言ってるじゃん」
「ぶーぶー、何かはぐらかされてる気がする」
「派手に転んだんだよ」
「まあつな君が言うなら信じるよ、そういえばつな君上着は?」
「ああ、遅刻してしまうと思って走ったから汗かいちゃってからさ」
適当に茶を濁した俺は綾に飲み物を買ってくると言ってその場からエスケープした。
まあ喉が渇いてたのは事実である。
普通科の自動販売機コーナーに行き、硬貨を投入してエナジードリンクのボタンを押して取り出し、後ろに並んでいた人と入れ替わるように立ち位置を変わるとそこには何故か魔法科の知る女子がいた。
「あんたは……」
「ん?ああ育ちの悪い奴じゃねぇか」
「んな!私はそんなんじゃないわよ!」
「朝から騒ぐな」
「あんたが騒がしてんでしょうが」
ずいずいと詰め寄ってくる南、どうやらご立腹のようだ。
そんな様子を見て、すぐさま詫びを入れる
「はいはい悪かった悪かった、んで何しに来たんだ?ここは普通科のコーナーだぜ」
「ここにしかないのよ私の好きなエナジードリンクがこっちしかないのよ……って売り切れ!」
南が叫ぶ通り、エナジードリンクには売り切れのランプが灯っている。
どうやら俺が買ったのが最後の一本だったらしい。
「どうした?疲れてんのか?」
「まあね、普通科のあんたと違ってこっちは忙しいのよ」
ムカッと来る言葉に俺はそろりと南の後ろに忍び寄り、冷えたエナジードリンクを南の頬に付ける。
「うひゃあ!」
びくりと飛び上がり、同時にエナジードリンクを奪い取る。
「な、な、な、何すんのよ!」
「あはははははは、悪い悪いお詫びにそれやるよ、まだ買ったばっかだから気にせず飲みな」
じゃあなと手を振り俺はその場を後にした。
一人残った南はその場から俺の背中をエナジードリンクを握りながら見ていた。
一方教室に戻った僕は、一時間目が始まる前に机に突っ伏して寝てしまった。
「……な君……つな君!」
肩を揺さぶる綾に反応した僕は目を開けた。
「どうしたの綾?」
「もうお昼だよ、何時間寝てるの?」
時計を見上げると綾の言う通り昼休みの時間になっていた。
朝の襲撃が相当効いているようだ。
「悪い綾、昼飯を忘れたから焔と先に行っててダッシュで買ってくるから」
鞄から財布を取り出し少し小走りに売店に行き、焼きそばパンと紙パックの牛乳を買って二人が待つ中庭に向かった。
二人はいつもの中庭で待っていて、律儀にご飯をまだ食べずに待ってくれていた。
「悪い悪い、待たせちまったな」
「大丈夫そんなことないからさ」
俺達は三角形に座り綾と焔は弁当を開け、それぞれ昼飯を食べながら、いつものようにたわいない話をする
こんな姿を見れば、誰も真剣を振り回してるなどとは想像もしないだろう。
ただ普通の学生、そんな風にしか思えない。
友達とこうして昼過ぎに喋っているだけで普通科や能力化などどうでもよくなるし、そんなもの初めからなかったように感じてしまう。
あいつが来るでは……
「十 剣士よね?」
振り向いた先に居たのは先ほどエナジードリンクをあげた南だった。
「何だ、何か用か?」
後ろでは焔が能力科専用の舌打ちをわざわざ聞こえるようにしているが南は気にすることなく俺に後ろからあるもの出した。
「エナジードリンクじゃねぇかどうしただこれ?」
確かこれは売り切れだったはずだが……
「あんたに借りなんか作りたくないからね」
出してきたエナジードリンクを素直に受け取ると南はじゃあと言って、その場を後にしようとする。
エナジードリンクを受けとると俺はすかさず気になることを聞いた。
「なぁ……これどこで手に入れたんだ?」
ビクッ!
体をビクつかせ体の動きが突如止まる。
「もしかして……買ってきたのか」
ビクッ!
(何てわかりやすい奴だ……)
少し落胆のしつつ俺は続けた。
「はぁ~あれは借りをつくるためでもなんでもないんだからもらっとけよ、面子がたたないだろ」
「う、うるさい///黙って貰っときなさいよ」
「貰うは貰うけどよ、お前そのバカ正直だけどひねくれてる性格直したほうがいいぞ」
「な、なんであんたに性格のどうこう言われなきゃいけないのよ!」
「そうそう、その沸点の上がりやすいところもな」
ニヤリと勝ち誇った顔をすると、南はワナワナと肩を震わし怒りをあららわにする。
それを見て、笑う焔とその焔を必死に止めようとする綾
そしてやってくる風紀委員会………ん?風紀委員会だと?
―指導室―
「十君、何度言ったらわかるんだい」
「すいません」
あの後、風紀委員会に取り締まられてここに連れてこられたのだ。
もちろん正座でさっきから説教を20分ぐらい聞き続けている。
床に座らせられていて、少々膝にも負担がかかって痛い。
しかも徐々に感覚が薄れていくのが手に取るようにわかる。
ここは早く済ませた方が無難と思い、俺はそのまま反論をすることなく静かに説教を聞き入れ、五時間目が始まるギリギリに解放してもらい、俺は痺れる足の痛みに我慢しながら教室に戻った。
教室に入ってそうそう綾と焔に大丈夫かと言われたが、疲れがピークに達していた俺は大丈夫だと一言伝えてから机に突っ伏してそのまま5、6時間目とつまり丸一日寝て過ごした。
―その頃能力科の教室―
私こと南 凉華はすでに始まってる授業を心ここにあらず状態で受けていた。
(ったく、何なのよあいつは……)
頭に浮かんでいたのは鼻に付く普通科の十 剣士という男のこと。
エナジードリンクはお互いだったからいいとしても、問題は風紀委員会のことだ。
本当ならばあの場面は私も呼ばれていてもおかしくなかったのに呼ばれなかったのだ。
もちろん呼ばれなかったのにも理由はある。
あいつ……十 剣士が庇ったのだ。
自分が絡み、ことを大きくしたのは全て自分にあると。
そう言って風紀委員会に自ら連れていかれたのだ。
「……………むぅ……」
唸るだけでは解決するわけもない。
そもそもあいつに関わるといつも調子が狂わされる。
初めて会ったときもさっきもこう調子が狂わされたが助けられたのは事実。
(……よし!)
あることを決めた私はノートを開き、前に書かれていることとは全然違うことすらすらと書き始めたのだった。