究極の遺産
エヌ氏は死の間際、三人の息子を枕元に呼んだ。彼は一代で莫大な富を築いたが、息子たちは放蕩の限りを尽くし、父の資産を食いつぶすことしか考えていなかった。
「私の遺産は、屋敷の地下にある巨大な金庫にすべて収めてある」
エヌ氏は枯れ木のような手で、一通の封筒を長男に渡した。
「ただし、金庫を開ける鍵は、お前たちが『心から父を愛し、その死を嘆き、一滴の嘘もない涙を流した時』にのみ、自動で解錠される仕組みになっている」
息子たちは困惑した。彼らに父への愛など微塵もなかったからだ。
翌日、エヌ氏が息を引き取ると、息子たちは地下へ向かった。金庫の前で、彼らは必死に泣こうとした。玉ねぎを使い、目薬を差し、悲しい記憶を呼び起こした。だが、金庫の扉は無情にも閉まったままだ。
一ヶ月、二ヶ月と経ち、屋敷の蓄えも底をつき始めた。彼らは生活のために慣れない労働を始め、仕事の合間に集まっては、父の思い出話を語り合うようになった。
「父さんは厳しかったが、あの時の言葉は正しかったな」
「ああ、僕たちの将来を案じてくれていたんだ」
苦労を知ることで、彼らの中に初めて父への純粋な感謝と敬愛が芽生えた。三人が肩を寄せ合い、父を想って本物の涙を流したその時、ついに金庫の重厚な扉が音を立てて開いた。
息子たちは歓喜して中に飛び込んだ。しかし、広大な金庫の中は空っぽだった。
ただ中央に、一枚の紙きれが落ちていた。
『その涙こそが、私が残したかった最高の遺産だ。お前たちは今、ようやく自力で生きていく準備が整った。……なお、本物の財産は、すでに全額寄付してある』




