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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ネトゲ友達の脱北を手伝う話

作者: TOOST
掲載日:2026/01/02

タイトル未定で適当なのは見逃してください…

初投稿です!何卒よろしくお願いします!

学校にいるとき、いつも頭が痛くなった。

がやがやうるさい周りの話し声とか、椅子を引く音とか(なんでもうちょっと静かに立てないの?)、先生の怒鳴り声とか。

スヒョン(수현)はそのうち、学校に行くのをやめた。傍から見ればふざけた理由だっただろう。

周囲の雑音に耐えられなくて、不登校になりました。そんなの、青春をあまりにも棒に振っている。最近、先生は諦めたのか家に来ない。友達なんか元からいない。学校ではいつも、いじめっ子たちと一緒にいた。最初は友達だと思っていたのに、次第に彼らはスヒョンの財布にしか興味が無いのだとわかった。まるで人頭税だ。色々な理由をつけて脅されたりして、毎日2000円、財布から抜き取られた。だから別に、学校の奴らへの後ろめたさなんて感じなかった。唯一胸が痛んだのは、両親が立派な人だということ。彼らはもはや開かずの扉と化している息子の部屋の外、ドア越しに、毎日おはよう、いってきます、ただいま、おやすみ、と話しかけてくれた。スヒョン愛してるよ、毎日その言葉でスヒョンの1日は終わった。スヒョンの心が完全に腐らなかったのは、両親が絶えず慰めの言葉という防腐剤を投与してくれていたからかもしれない。

スヒョンにも、得意なことはいくつかある。

例えば短距離走。意外かもしれないが、昔から速く短く走るのは得意なのだ。小中高ずっと、クラスや学年の誰よりも足が速かった。

後は機械にも強かった。これは不登校になった後に気づいた、思わぬ才能だ。故障したらどこをどう直せばいいとか、ここをこうすれば厳重なロックを解除できるとか。そういうことが感覚で理解できた。1度、自分がどれくらいやれるのか試したくて、ソウルの大学(G大学とする)の研究ウェブページのディレクトリ構造を解析したことがある。一応、バレないようにVPNを使って。すると、明らかに合法じゃない実験についての論文を見つけた。しかも、48時間以内に別ドライブに移行される予定のもので、本当にまずいものだったらしく、スヒョンは大慌てでページから離れた。やばい。下手したらその大学を脅せるくらいのとんでもないものを見ちゃった。

幸いにも、アクセスログに気づいていないのか、G大学から連絡も逮捕状も来なかったから良かったが。

とはいえ、これでスヒョンがある程度の技術を持っているということがわかったのだ。

一時は興奮したが、その後の日常生活において、特にその能力が役立つことはなかった。

スヒョンはまた退屈な日常に引き戻された。


そんなときに、”ミレ(미래)”というオンラインゲームに出会った。世界中で200人しかプレイしていないような、マイナーなゲーム。

宇宙飛行士であるプレイヤーが、異星にいる宇宙人との交信に成功して、そいつを地球に連れてこようとするというものだ。結構頭脳を使うので、スヒョンはミレを愛用している。頭を使うゲームは好きだ。他人と協力することもでき、チャットやディスコードでのやりとりが可能だった。

スヒョンがミレを始めてはや3日。

そのうちゲームが進んで、どこかの星と地球とを繋ぐ通信機を作るフェーズに入ったとき、少し行き詰まってしまった。そのときだ。


0001『通信機を作るには専用のプラグが要る。』


一通のチャットが入った。

誰とも繋がってなかったのにと、びっくりしてチャットを開く。知らない人からだった。ユーザーネームは”テオ(테오)“。アバターの宇宙服の肩には、韓国国旗が縫い付けられている。つまり、同郷だ。ミレでは、肩についている国旗でプレイヤー同士の国籍がわかる機能があるのだ。そして、他プレイヤーのゲームの進捗を覗ける機能もあった。


0002『このプラグを使え。これは余っているプラグだ。このプラグを使えば通信機を作れる』


どことなく変な韓国語だなと思いつつ、スヒョンは素直にプラグを受け取った。すると、通信機が出来上がり、ガタガタと音を立てて動き出す。やがてアンテナに一筋の光が立ち、それがテオの身体を貫通して、はるか遠くの星と繋がった。


《冥王星》との通信に成功しました。


画面にそう表示されている。

冥王星は見えない。スヒョンには、目の前にいるテオのことしか見えない。







スヒョンとテオは次第に仲良くなっていった。

テオはなんでも知っている。そして何より、スヒョンにいつも優しいのだ。スヒョンを騙さないし、馬鹿にしない。愛に飢えているわけではなかった。愛は両親が、相も変わらず毎日与えてくれていたから。

ただ、なぜかテオといると心地が良かった。

本当に気を遣わないでいられる”友達”に、そのとき初めて出逢えた気がした。

テオはとても聡明な人だ。ゲームの中でも外でもそれは変わらない。スヒョンはやがて、彼に学校の課題について質問するようになった。不登校でも、スヌン(受験)のために課題だけはちゃんとやってくれと両親が頼んだからだ。スヒョンは、いつからかテオのことを、ヒョンと呼んでいた。



「あ、ヒョン、今日はログインしてる……」


テオは時々、2週間ほどログインしない時がある。あんなに博識なのだから、きっと彼はスヒョンよりも年上なのだと思う。ここしばらくログインしていなかったし、きっと仕事も忙しいのだろう。そんなことを考えながら、スヒョンはいつも通りテオにチャットを送った。


0310『ヒョン、久しぶり!あなたがあまりにもログインしてなかったから、僕はひとりで孤独に素材集めしてました…ㅠㅠ』


0311『すまない、ちょっとリアルで立て込んでいたんだㅠㅠ今日からはもう毎日ログインできるよㅠㅠ』


スヒョンは苦笑いした。

結構おじさんなのか知らないが、テオはおそらくネットスラングを知らないのだ。スヒョンが打ったスラングを、すぐに自分も乱用する。

若者についていきたい人みたいで、微笑ましく思うこともあるのだが。

スヒョンはなんとなく気になって聞いてみた。


0312『そういえば、ヒョンってネットスラングに疎いよね。結構年上の人だったりするの?』


それから、5分ほど返信が来なかった。

気にしていたならごめんと謝ったが、既読はつくくせ、一向に返事は来ない。

スヒョンは本気で焦った。

どうしよう。

僕に色々なことを教えて、優しくしてくれた人なのに。この人を失いたくない。

顔も本名も、声すら知らない相手。けれど、スヒョンにとって一番の友人なのに。


0313『誰にも言わないと約束できるか?』


突然、チャットにテオからのメッセージが表示された。何が言いたいんだろう。後先考えず、ただテオの言葉が聞きたい一心で、スヒョンは「約束する」と返事した。


すると、突然チャットが音声通話に切り替わった。


『スヒョン、私は北朝鮮人なんだ』


低く、絨毯を撫ぜるような声がそう言った。

え?北朝鮮人?

僕ら韓国人が長年手を取り合えなかった、あの?

お隣の独裁政権国家の、あの____?


冗談だと思った。

そうだ、冗談に違いない。あっちはネットが制限されてるって聞いたことがある。

じゃあ、テオが北朝鮮人なわけないじゃないか。だって、テオは今、こうして僕と通話も、ゲームもできてるんだから。

だが、そんな思考はすぐに頭の中から消えた。

どうしてなんて、そんなのは論理では説明できないことであって。ただ、スヒョンは確信しているのだ。

たった一つの確信だけで、スヒョンはテオが北朝鮮人だと信じきってしまった。

だって、だってテオは_____



____テオは僕に嘘なんてつかないから。




「ヒョン、僕になにか手伝って欲しいの?」


テオは何も言っていないのに、スヒョンは自らそう聞いた。これで気まずい空気になって、二度とテオと関われなくなるよりましだったからだ。

北朝鮮人だって何だっていい。テオと話したい。

だが、逆にテオは、スヒョンのその問いかけに対しひどく動揺したようだった。


『違う、違うよ。すまない、スヒョン。そんなつもりじゃないんだ』

「そんなつもりって何のこと?ねえヒョン、ちゃんと教えてよ。ちゃんと聞くから」


テオは少し落ち着いたようで、しばらくの間を挟んだあと、再び話してくれた。


『最初は本当に、オンラインゲームで世界を知りたかっただけだったんだ。でも、このミレで君と知り合って、スヒョン……君に会いたくなった』


それだけで、もうテオが何をしようとしているのか大体予想がついた。スヒョンに会いたい。そのために韓国に行く。それはつまり、北朝鮮から出たいということだ。

テオは、脱北しようとしている?


「ど、どうやってゲームなんかできてるの?」

『母国のH学校という所で、サイバー部隊の研修生をしていてな。ずっとネット自体には監視付きだったが入れていたんだ。だが、ある日間違って、政府の監視なしでネットに潜ってしまった』


コントラバスの弦を撫でるような心地いい声が、スヒョンの頭に流れこんでくる。

そんなこと有り得るのか、テオがスパイなんじゃないか、もう全部どうでもいい。

僕がテオを助けてあげたい。その思考は毒のように、スヒョンの頭に充満していった。


『すぐ消すべきだとわかっていたんだ。こんなのがバレたら刑務所行きになる。それでも……韓国語でなんて言えばいい?감화됐어……感化、されてしまった』

「ミレに?」

『ああ。そしてお前に』


スヒョンは胸が高鳴るのを抑えられなかった。

テオが、憧れのヒョンが、僕に感化されていた?僕にだけ、本当のことを話してくれた。

やっぱり、テオをなんとかしてあげられるのは僕だけだ。スヒョンは、さらにテオの核心を突きたがった。


「それで、ヒョン、僕になにかできることはある?お願い、教えてよ。僕、ヒョンを助けたいんだって」


テオはまたしても沈黙に沈んでいく。

どう答えるべきかわからないのだろう。悩めく息づかいだけが聞こえる。スヒョンは急かさずに返事を待った。

やがて、テオが苦々しく呟いた。


『ひとつだけわかってくれ、スヒョン。これだけは勘違いして欲しくない……君を利用しようと思って話しかけたんじゃない。今までそんなことを思ったことは一度もない。私はただ、君に惹かれていただけで』

「テオ」


利用するつもりだったとか、そんなつもりなかったとか、そんなことはどうだっていい。

僕が聞きたいのはそういうことじゃない。ねえ、早く。本当のことを言って。

僕に何をして欲しいの?



「言って」



何がしたいのか、言って。





























『北朝鮮から出て、きみに会いたい』




スヒョンは、興奮で顔の熱が冷めなかった。





続く予定です

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