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軌道エレベーターの管理人たち〜地上コンシェルジュは、宇宙(そら)の英雄に恋をする  作者: ざつ


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第5話:地上から見上げる星空の約束(前編)

 カチ、カチ、と壁時計の針が刻む音が、いつもより重く響く。


 森野悠希もりのゆうきは、ソファで眠ってしまった高遠陽樹たかとおはるきの寝顔をじっと見つめていた。


 彼の表情は、ここ数日ずっと険しいままだ。


 エレベーターのシステムトラブルが頻発し、彼は連日帰宅が遅くなっていた。そのせいで、二人の会話も減り、部屋には冷たい空気が漂っていた。


 ユウキは、そっとアキの頭に触れる。その柔らかな髪に、ユウキは、彼の仕事の重みを、まるで自分のことのように感じていた。


「アキくん、疲れてるんだね…」


 ユウキは、どうすれば彼の疲れを癒せるだろうかと、頭の中で様々なことを考えた。

 温かい料理?

 ゆっくりお風呂?

 それとも、ただそばにいることだろうか。


 どれも、彼の重圧を根本的に解決するものではないような気がした。


 ユウキは、静かに立ち上がり、窓の外を見つめた。夜空に浮かぶ無数の星々。その真ん中を、軌道エレベーターの光の柱が、真っすぐに宇宙へと伸びている。


 あの光の中に、アキくんの仕事がある。

 そして、その光が、アキくんをこんなに疲れさせている。


 そう思うと、ユウキは、エレベーターの光を、少しだけ恨めしく感じてしまう。


 しかし、ユウキは、すぐにその考えを振り払った。


 違う。


 アキくんは、この仕事に情熱を注いでいる。


 彼の仕事は、何万もの人々の夢を宇宙へと届ける、素晴らしい仕事だ。


「そうだ…」


 ユウキは、ふと、あることを思いついた。


 スマートフォンを手に取り、同僚のルナに電話をかける。


『もしもし、ユウキさん?こんな時間にどうしたんですか?』


 ルナの透き通るような声が、受話器越しに響く。


「ルナ、ごめんね。こんな時間に。アキくんがすごく疲れてて…何か、気分転換になるようなこと、ないかなと思って…」


『う~ん…そうだなぁ…そうだ!ユウキさん、前に言ってた丘、行ってみたらどうですか?』


 ルナは、ユウキの悩みを理解したように、優しくアドバイスをくれた。


「丘…?二人だけの秘密の…?」

『はい!そこから見える星空、すっごくきれいだってユウキさん言ってましたよね?』


 ルナの言葉に、ユウキは目を輝かせた。


 そうだ、この丘だ。

 二人が付き合い始めて、初めて二人だけで訪れた場所。


「ありがとう、ルナ!行ってくるね!」

『はい!アキさんと、たくさんお話ししてきてくださいね!』


 ユウキは、電話を切ると、アキとの写真フォルダを開く。


 そこには、二人が付き合い始めてから、様々な場所で撮った写真が残されていた。


 水族館で笑うアキの横顔、誕生日ケーキを前に照れたような笑顔。

 そして、二人が初めて付き合った頃に訪れた、あの秘密の場所。


「アキくん…行こう。あの場所に」


 ユウキは、静かにアキの肩を揺すった。アキは、眉をひそめながら、ゆっくりと目を開ける。


「ん…ユウキ…?どうしたの…?」


 寝ぼけた声で、アキが尋ねる。


「アキくん、今から、私と二人だけの秘密の場所に、行かない?」


 アキは、ユウキの言葉に少し驚いた顔をした。


 こんな夜中に、一体どこへ?


 しかし、ユウキの真剣な眼差しに、アキは、彼女が何か大切なことを伝えようとしているのだと悟った。


「…分かった。行こう」


 アキは、疲れた体を引きずって、ゆっくりと立ち上がった。


 ユウキは、ベッドルームのクローゼットから、薄手のパーカーを二枚取り出す。赤道直下とはいえ、夜風は肌寒い。


 ユウキは、アキの肩にそっとパーカーを羽織らせて、そのファスナーをゆっくりと上げた。アキは、黙ってその優しさを受け入れた。


「大丈夫。きっと、すぐに元気になるから」


 ユウキは、そう言って、アキの手をそっと握りしめる。


 その手は、冷たく、そして少し震えていた。

 ユウキは、アキの手に自分の温かい手を重ね、優しく微笑んだ。ユウキの温かさが、アキの心をじんわりと温めていく。




 二人は、静かな夜の道を歩き始めた。


 街の光が次第に遠ざかり、代わりに夜空がその姿を現し始める。


 ユウキは、アキの疲れた表情が少しでも和らぐようにと、今日あった出来事を話し続けた。アキは何も言わず、ただユウキの声に耳を傾けていた。


 その沈黙は、居心地の悪いものではなく、互いの存在を確かめ合う、静かで温かい時間だった。



 向かう先は、二人だけの秘密の丘だった。



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