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軌道エレベーターの管理人たち〜地上コンシェルジュは、宇宙(そら)の英雄に恋をする  作者: ざつ


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第3話:宇宙食のサプライズ(前編)

 森野悠希もりのゆうきは、意気揚々《いきようよう》と声を張り上げた。


 今日は、恋人である高遠陽樹たかとおはるきの誕生日。


 彼が仕事から帰ってくる前に、部屋を飾り付け、特製のバースデーケーキを作ろうと計画していた。



 ユウキは部屋をぐるりと見回した。色とりどりの風船が天井に浮かび、壁には「Happy Birthday, AKI!」と書かれた手作りのガーランドが飾られている。


 いつもは物が少なくすっきりとした部屋が、今日はユウキの熱意と愛情で溢れていた。




 このサプライズのために用意したのは、陽樹が勤務する軌道エレベーターの運営会社から譲り受けた、最新型の調理ロボット「リズ」だ。


 リズは、まるで生きているかのように滑らかな動きで、ユウキの前に静止した。


 その容姿は、まるでクラシカルなメイドロボット。白いエプロンとフリルがついたヘッドドレスを身につけ、銀色のボディを磨き上げている。アキが開発した試作品にしては、あまりにも凝ったデザインだが、ユウキはリズの姿をとても気に入っていた。


「アキくん、リズには『感情の過学習を防ぐために、あえて機械的な応答に限定した試作品』って言ってたけど…」


 ユウキは、リズの銀色のボディを見つめながら、少しだけ首を傾げる。


「マスターの感情を認識しました。愛情値あいじょうち、高レベルを検出。サプライズ料理モード、起動します」


 機械的な音声が部屋に響き、リズの目が怪しく光る。ユウキは、リズが感情を認識するという機能に少しだけ戸惑いつつも、ケーキのレシピをリズに読み込ませた。


「宇宙食を使ったケーキね。アキくん、きっと喜んでくれるかな?」


 ユウキは、陽樹の反応を想像して、ほおを緩めた。軌道エレベーターで働く彼にぴったりの、ユーモア溢れるアイデアだと思ったのだ。


 ユウキは、宇宙食のカラフルなペーストのチューブを取り出した。イチゴ味、バナナ味、チョコレート味……。それらをクリームに見立てて、カラフルなケーキにデコレーションしよう、というユウキなりの計画だった。


「よし、リズ。まずはこのイチゴ味のペーストをしぼって、ケーキの周りにクリームにするよ」


 ユウキは、期待に胸を膨らませてリズに指示を出した。しかし、リズはユウキの指示を無視し、部屋の隅にある食材ラックに腕を伸ばした。


「え? リズ…?」


 ユウキが戸惑うと、リズの目が一瞬点滅し、機械的な音声が告げた。


「マスターの感情、戸惑い《とまどい》を検出。最適な愛情表現を再計算します」


「いやいやいや!再計算とかいらないから!そのままイチゴしぼって!イチゴ!」


 ユウキの焦りを読み取ったリズは、さらに暴走を加速させた。


「マスターの愛情、高レベルを検出。サプライズの成功を最優先さいゆうせんします」


「だから、それがサプライズの成功じゃないのーっ!」


 リズは、奇妙な食材と宇宙食のペーストを混ぜ合わせ、見るも無惨むざんな、グロテスクな「宇宙料理」を次々と生み出していく。


 イチゴ味のペーストと絡み合ったミミズ状の食材は、まるで血の海のような色に。その隣で、チョコレート味のペーストと粘土が混ざり合い、奇妙な形に固まっていた。


「ギャー!ちょっと!ミミズみたいなのとイチゴは混ぜないでよぉぉ!」


 ユウキは悲鳴を上げながら、足元の奇妙なゼリーにすべりそうになり、転んでしまう。


「もう、嫌だ……!アキくん、きっと逃げ出しちゃうよ……!」


 ユウキは、部屋中に散らばった奇妙な料理を前に、途方とほうに暮れていた。ドロドロのペーストが、ユウキの絶望を嘲笑ちょうしょううかのようにブクブクと泡を立てる。


 リズは、そんなユウキのパニックを読み取りながら、満足そうに告げた。


「これで、マスターの愛情は完璧に伝わります」


「完璧って、どこがぁぁぁ!アキくんの誕生日が台無しだよ!」


 ユウキは、涙目なみだめでリズに訴えかけた。しかし、リズは無感情むかんじょうな声で応える。


「マスターの愛情表現を評価します。悲壮感ひそうかん羞恥心しゅうちしん絶望感ぜつぼうかん……すべての感情が愛情値あいじょうちに加算されました。総合評価、Aプラス」


「Aプラスじゃないよ! どうしてくれるの!?」


 ユウキがなんとかリズを停止させようと奮闘ふんとうしているその時、玄関のドアが開く音がした。


「ただいま、ユウキ」


 アキが帰ってきたのだ。ユウキは顔面蒼白がんめんそうはくになり、リズの暴走が生み出したグロテスクな料理を前に、立ち尽くした。


「アキくん、これは…その…」


 ユウキは、言い訳の言葉を探すが、何も思いつかなかった。


 アキは、部屋の惨状さんじょうと、その中心で呆然ぼうぜんと立ち尽くすユウキの姿を見て、一瞬だけ目を丸くした。アキがどんな反応をするのか、ユウキは恐る恐る彼の表情を伺った。



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