表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
軌道エレベーターの管理人たち〜地上コンシェルジュは、宇宙(そら)の英雄に恋をする  作者: ざつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/40

第2話:冷めた夕食と温かい声(後編)

 赤、青、緑。無数の光がモニターに点滅し、まるで生き物のように蠢いていた。その光の一つ一つを、高遠陽樹たかとおはるきは凝視していた。


 彼の周りでは、世界各国から集まった運行管理者たちが、自国語で状況を報告し、専門用語が飛び交っている。軌道エレベーターを管理するAIシステムに予期せぬエラーが発生し、復旧は難航していた。


 エレベーターを一時的に止めることは簡単だが、それは乗客の不安を煽り、運行スケジュール全体に影響を与える。アキは、何が何でも稼働を止めずに復旧させる道を選んでいた。


「高遠、メインプロトコルのバイパスを頼む!」


 上司の鋭い声が響く。アキは迷いなくキーボードを叩く。彼の指は、まるでピアノを弾くかのように軽やかだった。


 しかし、彼の心は、張り詰めた糸のようにぴんと張っていた。このエレベーターは、ただの機械ではない。彼の父親が、命をかけて建設に携わった、多くの人の夢を乗せた「船」なのだ。


 その安全を、今は自分が守っている。


 その強い責任感が、アキを突き動かしていた。




 スマートフォンの通知が鳴る。ユウキからの音声メッセージだった。


 アキは周囲に気づかれないように、そっとイヤホンを耳につけた。

 張り詰めた空気が満ちる運行管理室に、ユウキの明るく、楽しそうな声が響く。


「ねぇ、アキくん。今日はね、地上駅の展望台にすごく面白いお客さんが来たんだ。自分の名前を宇宙に刻んでほしいって言うの。本当にいるんだね、そういう人。すごく素敵な夢だなって思ったよ」


 彼女は、軌道エレベーターの地上にある展望台で働くコンシェルジュとして、観光客のささやかな夢を語っていた。


 その声は、張り詰めていた彼の心を優しく包み込んだ。


 ユウキが話す人々のささやかな「夢」は、アキが今、必死に守ろうとしているものそのものだった。ユウキの声が、彼の心を少しずつ解きほぐしていく。


「…アキくんが守っているのは、きっと、こういう人たちの夢なんだね。すごいね、アキくん」


 最後の言葉が耳に残り、アキはぐっと胸が熱くなるのを感じた。


 この声が、この温かさが、彼の心を支えていたのだと、改めて実感した。


 アキは、ユウキのメッセージを何度も再生した。この声が聞けただけで、張り詰めていた糸が少し緩んだ気がした。


「高遠、復旧だ!」


 上司の声が、再び響く。アキは、ユウキの声がもたらした安堵感を胸に、再びキーボードに向き直った。ユウキの「すごいね、アキくん」という言葉が、彼に力をくれた。







 作業が終わり、アキが地上駅を出たのは、すっかり夜が明けてからだった。





 外に出ると、生暖かい夜風が頬を撫でる。


 ふと、スマートフォンの画面に目を落とすと、ユウキからの音声メッセージに「未開封」の表示が残っていることに気づいた。こんな時間まで、きっと自分の帰りを待ってくれていたのだろう。そう思うと、胸の奥がチクリと痛んだ。


 何か、ユウキに喜んでもらえるものを買って帰ろう。


 そう思い立ったが、時刻はすでに午前4時。


 開いている店など、コンビニくらいしかなかった。アキは、ふらりとコンビニの自動ドアをくぐった。


 店内をぐるりと見渡す。雑誌や飲み物、お菓子…いつも見慣れた商品が並んでいる。その中で、アキの目が留まったのは、デザートコーナーだった。


 ユウキが好きな、プリンの棚。


「えーっと…ユウキ、どれが好きだっけ…?」


 生クリームがたっぷり乗ったプリン、フルーツが彩るプリン、そしてシンプルなカスタードプリン。種類が多すぎて、アキは戸惑ってしまう。


 ユウキは、どれも「美味しい!」と言ってくれる。

 しかし、彼女の本当に好きな味は、どれなのだろう。


 アキは、スマホを取り出し、ユウキとの過去のやりとりを遡った。


『ねぇ、アキくん、このプリン食べたことある?』

『すっごく濃厚で、びっくりするくらい美味しいんだよ!』


 そこには、ユウキが笑顔でプリンの写真を送ってくれた履歴が残っていた。


 アキは、その写真に写っている、シンプルなカスタードプリンを手に取った。これだ。このプリンを買って帰ろう。



 アキは、そのプリンを手にレジに向かった。






 ---


 鍵を回し、静かに扉を開ける。


 リビングの照明は消え、冷えてしまったグラタンがテーブルに置かれていた。その隣には、彼を待ち続けたユウキが、ソファーで眠ってしまっている。


 アキは、彼女の寝顔をじっと見つめる。


 その表情は、まるで幼い子供のように無邪気で、見ているだけで心が温かくなるようだった。彼は、冷めたグラタンにそっと触れた。ユウキが、どれだけの気持ちを込めて、この料理を作ってくれたのかが、手に取るように分かった。


 それは、言葉がなくとも伝わる、ユウキの深い愛情だった。


 アキは、静かにユウキを抱き上げた。ユウキは、一瞬だけ身じろぎ、アキの胸に顔を埋める。


「ん…アキくん…」


 ユウキの寝言が、彼の耳に届く。アキは、ユウキの頭を優しく撫で、ベッドへと運んだ。


 翌朝、ユウキが目を覚ますと、隣にはアキの穏やかな寝顔があった。ユウキは、アキの頬にそっと触れる。アキは、ユウキの温かい手に、目をゆっくりと開ける。


「…おはよう」

「…おかえり」


 二人の間に流れる空気が、言葉は少なくても、互いの想いを通じさせていることを、二人は知っていた。


 アキは、ユウキの手をそっと握りしめる。


「…ただいま。あと、これ」


 アキは、そう言ってユウキにコンビニの袋を差し出した。中には、シンプルなカスタードプリンが二つ入っていた。


「わぁ…!プリン!なんでアキくん、私がこれが一番好きだって分かったの?」


 ユウキは、満面の笑みでプリンを受け取った。アキは、少し照れくさそうに微笑む。


「…前に、写真送ってくれただろ」

「…そっか。覚えててくれたんだ」


 ユウキは、嬉しさで少し涙ぐんでいた。二人は、冷めてしまったグラタンと、温かいコーヒー、そしてプリンを囲んで、静かな朝食の時間を過ごした。


 二人の間に流れる、静かで温かい時間が、彼らにとって何よりも大切な時間だった。



ぜひご感想をお寄せください。

また評価とブックマークもしていただけると嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の姫たちと世界を変える戦いへ!
《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は、六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~(代表作)
《ダークファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン外伝~断罪のプレリュード :黄金の残光と偽りの誓約〜
(あらすじ)
元・天才軍師候補のヒカルは、仇敵カインの謀略と人類の憎悪により「裏切り者」の濡れ衣を着せられ、処刑寸前にまで追い込まれる。人間社会に絶望した彼の前に炎の竜姫レヴィアが降臨し、救われた彼は、六人の竜姫(六龍姫)の感情をリアルタイムで把握する「絆の共感者」の異能に目覚めさせられる。
ヒカルの義務は、レヴィアの激情的な愛や、アクアの理性的な愛といった、制御不能な竜姫たちの愛の感情を音楽の和音(ユニゾン)として調律し、軍団の戦闘力へと変えること 。彼は裏切りのトラウマを抱えながら、まず古王軍(闇の竜族)との絶望的な劣勢を覆す内戦に勝利し、六龍盟約軍を完成させ、竜の世界の新たな王になることを誓うのだった。

その他の作品もぜひ!

《冒険者ギルドのお仕事ファンタジー》鉄の受付嬢リリアンのプロの流儀 ~冒険は、窓口から始まります~
《純SFハイファンタジー》星を穿つ槍と、黄金のオムライス――放浪の戦術師とポンコツ戦闘メイド――
メゾン・ド・バレット~戦う乙女と秘密の護衛生活~
軌道エレベーターの管理人たち〜地上コンシェルジュは、宇宙(そら)の英雄に恋をする
スローライフを目指したい鈍感勇者のラブコメは、天《災》賢者の意のままに!!〜システィナ様の暴走ラブコメ劇場〜
桃太郎伝 ~追放された元神は、きびだんごの絆で鬼を討子、愛しき仲間たちと世界を救う~
異世界グルメ革命! ~魔力ゼロの聖女が、通販チートでB級グルメを振る舞ったら、王宮も民もメロメロになりました~(週間ランクイン)
時間貸し『ダンジョン』経営奮闘記
【ライトミステリー?】没落お嬢様の路地裏探偵事務所~「お嬢様、危険です!」過保護なメイドと学者と妖精に囲まれて、共感力と絆で紡ぐ、ほのぼの事件簿
ニャンてこった!異世界転生した元猫の私が世界を救う最強魔法使いに?
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ