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第5章: 星明かりの下で

その夜、僕たちは眠りにつく準備をしていたが、エリがふいに話しかけてきた。


「ねえ、外に出ない?」


僕は時計を見る。午前二時。こんな時間に外へ行こうと言う彼女の言葉に驚いたが、どこかで同じように外の静けさを求めていた自分がいた。


「分かった。どこへ行く?」


「公園。たぶん、あそこなら星が綺麗に見えるよ。」


静かに玄関の鍵を開け、僕たちは夜の街へと足を踏み出した。家々は闇に沈み、月明かりだけが薄ぼんやりと道を照らしていた。エリは僕の腕を軽く掴みながら、確かな足取りで公園へと向かう。


静寂の公園


公園に到着すると、そこには誰もいなかった。錆びついたブランコが風に揺れ、かすかに軋む音が響く。僕たちは芝生の上に座り込むと、空を見上げた。


「わあ……すごい。」


エリの声は歓声にも似ていた。満天の星空が広がり、その無数の光が静寂の夜を彩っていた。


「こんなにたくさんの星を見るの、いつ以来だろう……。」


僕は黙って頷いた。都会の明かりが消えたこの世界では、星空がこれほど鮮明に見えるのだと初めて知った。


エリは少しの間、黙って星を見上げていた。そして、ぽつりと呟くように言った。


「本当に来ちゃったんだね、世界の終わり。」


その言葉は夜の静けさに吸い込まれるように消えたが、僕の胸には深く刻まれた。


「でも、終わりの中にも新しい始まりがあるかもしれない。」


僕はそう言ってみた。どこかで自分に言い聞かせるような気持ちだったが、エリは僕をじっと見つめて微笑んだ。


「そうだね。」


エリの過去


「私、ずっと家族と上手くいってなかったんだ。」


エリは視線を星空に向けたまま、静かに語り始めた。


「学校もあまり行かなくて、引きこもりみたいな生活をしてた。家族も、私をどう扱ったらいいのか分からなかったみたいで……だから、いつも一人だった。」


その言葉に僕は何も言えなかった。彼女の言葉の裏にある孤独を、痛いほど感じたからだ。


「でも、こんなことになるなんて思わなかった。家族ともっとちゃんと話しておけばよかったな……。」


エリの声が震える。僕はそっと彼女の手を握った。


「エリ、今は僕がいる。君は一人じゃないよ。」


その言葉に彼女は小さく頷き、涙を拭った。そして少し照れくさそうに笑みを浮かべた。


「ありがとう。」


星空の約束


しばらくの間、僕たちは何も言わずに星空を見つめていた。冷たい夜風が頬を撫でるが、その静けさがどこか心地よかった。


「ねえ、これからも一緒にいられるよね?」


エリの問いに僕は力強く頷いた。


「もちろん。ずっと一緒だよ。」


その言葉に彼女は満足そうに笑い、僕の肩に頭を預けた。僕たちはそのまましばらく星空を眺めていた。


公園からの帰り道、エリは何度も空を見上げていた。その瞳には、少しだけ希望の光が宿っているように見えた。


「ありがとう、誘ってくれて。」


僕がそう言うと、エリは小さく微笑んだ。


「星空がきれいだから、きっとまた見に行こうね。」


僕たちは手を繋ぎながら、静かな夜の街を歩いて家へと帰った。


家に着くと、エリは少し眠たそうに欠伸をしながらソファに座り込んだ。

「疲れたけど、楽しかった。」

「じゃあ、そろそろ休もうか。」


僕たちはそれぞれ布団に潜り込む。外の静寂は心地よく、エリの呼吸の音が微かに耳に届く。星空を思い出しながら、僕も目を閉じた。

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