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【最悪仕様のチート魔法】お嬢様な【俺】と、たたれし恋のメヌエットはデラ・アイロニック  作者: 庭廷梛和
カエルの顕騒曲 【身代わり蛙があらわれた!】
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【tp7】滅茶苦茶な交換条件! 急転直下の暗転と【膝枕エプロンドレス】からの

 引き換えにって⋯⋯、そんなこと言われても困るんだけど。早く未来へ戻らないといけないのに。


 ――()だなあ、聞きたくない。


 そう思った俺の心を「読んで」分かっているだろうに、応じてくれるつもりは更々ないらしい。


 憮然として立ち尽くしている俺から目を離すと、先生(ししょー)は再び、マットレスに腰を据えた。


 こちらの掌に押し付けたスマホの画面の中の残り三人を指さしながら、一方的に話しだす。

 

「見れば分かるとは思うけど、一応教えとくね。これが、ボク。真ん中がレベッカ嬢。それから、一番右がマーゴット。ボクらと変わらなく見えるかもしれないけど、マーゴットは十八歳だよ。昴は十七だったよね。良かったね、マーゴット。昴よりも『お姉さん』だよ」


「『変わらなく』も、『良かったね』も余計だ。宮代笙真」


 今しがたの先生の言葉だけでなく、先ほどの二人のやりとりを()の当たりにしたせいで、若い女というよりも、完全に少女にしか見えなくなってしまったマーゴットが口を挟んでくる。


 先生の軽口に気を取られている彼女を、俺は下から上まで、横目で素早く盗み見た。


 よく分からないけれど、(とし)を五つ加えるという効能は、きっと本当なのだろう。目の前の相手は、ベゼルの中で澄ましていた姿に比べて、背が伸びて全体的にすらりとしているし、顔だってずっと大人びているように見える。


 まあ、それでも二十三には見えないな。せいぜい俺と同い年(実年齢)くらいがいいところだ。


 童顔ってのは、こういう()のことを言うんだろうな。そう結論付けて、絶対に手間を掛けて結われたに違いない彼女のブロンドから視線を剥がす。


 すると、同じくらいのタイミングで先生から目を逸らしたマーゴットと、また目線が重なってしまった。


 なだらかに押し上げられたエプロンドレスの胸元の少し下で、組まれた腕。


 苛立ちのためか、その二の腕をリズムをとって叩く四本の指は相変わらずだったが、先生にくれていた時よりは幾らか角の取れている視線を辿り、彼女の心の(うち)を「読もう」として、見事に失敗する。


 だめだな。やっぱり「読み」が使えないって、すんげえ、やりにくい。


 物心がついたときから、片時も離れたことなんてなかった魔法(「読み」)を、全く振るえなくなった悔しさで、目眩(めまい)がして、掠れ気味のため息が漏れた。


 それをどんな風に捉えたのか、マーゴットが突然しゃがみ込んで、俺の目の前に膝をついた。


 しかも俺の前髪をかき上げて、こちらの目をじぃっと覗き込んでくる。


 吐息が掛かりかねないくらい、近い距離。思わず心臓が跳ねそうになる。


「な、なに⋯⋯?」


「なるほど、宮代笙真の言うことも、たまには一理あるな。魔法の使い方がここまで下手くそでは間違いようがない。貴殿は確かに、お嬢様が悪ふざけをしているわけでも、宮代統が()いているわけでもなさそうだ」


 な⋯⋯ッ――、下手くそって、どういう――⋯⋯!?


 ドギマギしてしまった俺を小馬鹿にするような、失礼な物言い。


 さすがに腹が立って、俺は結構腕の立つ方なんだけどと、彼女に反論しようとしたところで、いきなり膝からガクンと力が抜ける。


 あっと思う間もなく、俺の意識が、暗転した。




       ◇




「⋯⋯大丈夫か? 動かないで、じっとしてろ。魔力切れで倒れたんだ。あんまり動くと――ほら、頭が痛むんだろう」


 どれくらい時間が経ってしまったのだろう?


 (よじ)るように身じろぎすると、制止する声とともに肩を軽く押さえつけられる。


 絞ったタオルでも載せられているのか、額のあたりが、そこだけはひんやりとして、少しだけ心地いい。


 それ以外は、信じられないくらいズキズキする頭に鞭を打って、俺が辛うじて薄目を開けると、涙でぼやけた視界の中で、先生とマーゴットがこちらを覗き込んでいるみたいだった。


「未来のボクから何を教わってきたか知らないけどさ、そんな小さな体で息をするみたいに魔法を使ってたら、すぐ倒れちゃうのは当然だよ。マーゴットが気づかなかったら、頭を打ってたところなんだからね」


 淡々とした中に、呆れが混ざった、変声期前の先生の声。


 その声に、なんのことだろう? 「読み」は一度も上手くいかなかったのに、という疑問が勝手に浮かび上がった。 


「――もしかして魔法を使ってる自覚がないの? 今だって、なけなしの魔力をひっきりなしに振り回してて、見てられないくらいなのに。それさ、その変な形のスマホに頼りすぎてる弊害とかじゃないよね?」


 何言ってるの?


 弊害も何も、EAPもなしにそんな立て続けに魔法が使えるはずないんだけど。


 だいたいどうして、なけなしだなんて分かるわけ? 昔は、いちいちスマホを向けないと魔法を感知できなかったって言ってたのは、先生じゃん⋯⋯。


「ねえ、宮代笙真。お嬢様⋯⋯ポーリャ殿は、今朝もこんな感じで森から?」


「うん、ぼんやりした様子で庭先に現れた時も、そうだった。だから、誰かに見つかる前に思わず師匠んちに上げちゃったんだ」


「じゃあ、レベッカお嬢様はやっぱり、まだ――」


「それこそまだ分からないよ。身体の特徴は、彼女に間違いないって、びしょ濡れだったリベを着替えさせたキミが言ってたじゃん。それにしても、一日に二度も倒れちゃうなんて」


「これはこれで、憂慮すべきことだな。出水先生を呼んだ方がいい?」


「呼ぶも何も、ポーリャちゃんを膝に抱えてどうやって動くつもり? あ、こら、起きちゃだめ。魔法を使おうとするのもだ」


 ひとつ上の女の子(マーゴット)に、膝枕されてる!


 先生の言葉で、ようやくそれに気付いた俺は、慌てて()ね起きようとして、頭の中を駆け抜けた激痛にこっぴどく打ちのめされた。


 情けないことに、思わず、痛い!!と子どもみたいな悲鳴まで口を衝いて出る始末だ。


 そんな俺を易々(やすやす)と太腿の上に連れ戻したマーゴットは、今の騒ぎで俺が弾き飛ばしてしまった冷えピタを、腕と上半身を目一杯伸ばして拾おうとして、諦めたらしい。


 俺の身体にぎりぎり触れないくらいまで姿勢を低くした彼女の眼差しを受けて、先生が水色のジェルシートを拾い上げてくれた。


 そのころにはすっかり背筋をしゃん(・・・)と伸ばし直していた彼女は、先生から一応シートを受け取ったものの、だめだなとばかりに左右に首を振った。


 エプロンドレスを、何故かやたらとごそごそさせて、新しいパッケージを取り出すと、封を切り、そちらの方を俺の額に貼ろうとしてくる。


 また前髪をかき上げられるのは、さすがに男としてのプライドから認めるわけにはいかない。

 俺はなんとか自分の力で前髪を()けた。

 再び上体を屈めてくる少女の細い指に身を委ねる。

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