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【最悪仕様のチート魔法】お嬢様な【俺】と、たたれし恋のメヌエットはデラ・アイロニック  作者: 庭廷梛和
カエルの顕騒曲 【身代わり蛙があらわれた!】
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【tp5】 爆弾のてんまつは 【 びぃ、これくてぃっど 】つまり、万々歳ってこと! 〜幼女な俺の名乗りかた〜


 ――そうだ。俺の叫び声を聞きつけて、すぐさま部屋に入ってきた知恵さんに、この子、レベッカ・ルキーニシュナ・ペトロワなのかって尋ねられて、とっさにEAP(コイツ)の名前を名乗り返したんだっけ。


 「顕し」のせいでこうなってしまった身には、どうしたって「宮代昴」の名前は不釣り合いだったからなんだけど、結局すぐに洗いざらい二人に話しちゃったからあんまり意味なかったよな。



 だっせえよなぁ、俺。

 


 ⋯⋯。


 ⋯⋯⋯⋯。


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


「だからさ! 本当なんだってば!」


 苛立った俺が、ほとんどキンキン声で叫んでいるというのに、知恵さんと一緒に部屋に飛び込んできた茶髪茶眼のその少年――俺が見間違えるわけない、どう見ても若い頃の笙真先生(しょうまししょー)――は、俺から押し付けられた銀色(ぎん)のスマホを手に、ぽかんとしていた。


 俺はますます()(たま)れない気分になって、先生の襟元に、情けないくらい小さな右手を掛ける。


 そうやって、触れた瞬間。睨みつける俺の涙目と指先越しに、ようやく俺の真意を「読んで」くれたんだろう。


 目を(しばたた)かせていた先生が、俺の知らない困り果てたような顔で、視線を逸らせたんだ。


 爆弾に関する一部始終を伝えるために、ひどいなんてもんじゃない取り乱し方を見せた、さっきまでの自分の(ザマ)を思い出して、俺、宮代昴は、夕日が差し込んだ階段を上がる足は止めないまま、少しだけ熱を帯びた頰を(はた)く。


 大丈夫。忘れてない。俺は俺が誰だかちゃんとわかってる。


 十七歳、高校二年生。「明かし」と呼ばれる、宮代家の魔法使いで、今を時めく大魔法使い「宮代笙真(しょうま)」の一番弟子。


 そんでもって、今夜のレセプションの中で行われる、成人を控えた弟子たちの披露(デビュタント)で明かされることになっていた、幼馴染のドレス姿が、本当は楽しみで楽しみで仕方がなかった――おっと、今から会う相手には、これは内緒にしとかなきゃな。


 誰にも告げたことのない気持ちを、よもやこんなタイミングで「読まれる」なんてこと、男が廃るにもほどがあるってもんだ。


 トントントンとリズミカルに響く軽い足音をあげて階段を登りつつ、男女同権を政府がしつこく喧伝する昨今にしては、(はなは)だ時勢遅れに違いない言い回しを頭の中で思い浮かべた俺は、すぐに辿り着いた目的のドアの前で、今度は足を止めた。


 心の中の一番守りが堅い場所、「読み」の魔法でもやすやすとは覗くことができない、究極のプライベートゾーンである「祠」にしっかりと鍵を掛けると、小さく息を吸って、目の前のドアノブを掴む。


 「読み」が扱える五感の中で、得手とする者が宮代家にはほとんどいない「触感(フレ)」を珍しく最得意にしている、「カエルの手のひら」である俺は、いつもの癖でドアノブの先にいる相手の存在を「読もう」として、再びおっと、と思いなおす。

 

 違った。今の俺は「読み」が使えない身体だったんだった。


 改めて手首をひねると、鍵の掛かっていないドアは、素直に開いた。


 ドアの向こうから、ノックぐらいしろよなと、声変わり前のボーイソプラノの声が飛んでくる。


 その声の主に、ごめんと軽く謝って、俺は部屋に足を踏み入れる。


 先生と母さんの生まれ育った場所である、甲府盆地を南側から見下ろす出窓を背にして、ベッドに腰掛ける、私服姿の中学生くらいの少年――俺の先生になるよりも、ずっと昔の宮代笙真がそこにはいた。


 その手には、電池が切れてしまっていたはずの俺のEAPが握られている。


「顛末はわかったよ。スマホ、ちょっとだけだけど、充電しておいたし、ロックも解除済みだからね」


 少しだけ沈み込んだ、ぞんざいな口調で告げると、彼は、流線型の銀色の筐体を、俺に向けて投げて寄越してきた。


「無事に帰って、落ち着いてからでいいから、そのスマホのアンロック方法をキープしてくれていた、未来のボクにきちんとお礼を言ってよね。絶対に忘れないで待ってるから。じゃなきゃ、ホントに破門にするよ?」


 斜め上の方から降ってくる、一転してからかうような口調になった彼に頷きながら、俺は両手でキャッチしたばかりのスマートフォン――市場投入前の超最新モデルであるEAP、正式名称「Enchanter Assistance Processor」の画面を覗き込む。



"Be corrected.”



 笙真先生の魔力で稼働していたさっきとは違う、くっきりとした白いバックライトに照らされたその画面には、爆弾の状態が正常に戻ったことを意味する、簡潔で短い英文によって締めくくられた、ログが映し出されていた。

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