表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【最悪仕様のチート魔法】お嬢様な【俺】と、たたれし恋のメヌエットはデラ・アイロニック  作者: 庭廷梛和
カエルの顕騒曲 【身代わり蛙があらわれた!】
3/16

【tp2】 サン、ニイ、イチ! 間に合え――ッ!



 ⋯⋯ッ!!



 喰らったらタダで済むはずのない《鋏》を前に、強張る身体。


 身を守るために思わず(かざ)しかけた両手を、俺はどうにか意志の力で引き戻す。


 そうやって中途半端に立ち竦む俺の目の前で、《狐》は、抱えていたはずの危険きわまりない代物(シロモノ)を投擲した。



「え」


 思わず呟きながら、俺は目を(みは)る。



 大きく振り上げられた腕の反動で、《狐》が被っていたフードから、女にしては短い淡色(あわいろ)の髪が(こぼ)れた。


 挙式を終えた花嫁が放り投げるブーケにも似た放物線を描いて飛んでいった爆弾に向かう、真っ直ぐな射線(ライン)が伸びることを俺に予告(つげ)るEAP。


 そこで初めて女の“狙い”に気付いた俺が、踵を返そうとした、その瞬間。

 ようやく姿を見せたスマホの放つ最大光量が、フードから晒された女の目を()いた。


 「読み」で視覚を(ゼロ)にした一時(いっとき)だけの闇の中で、暴力的な(まばゆ)さをやり過ごしながら、俺は(ほぞ)を噛む。


 それとほとんど同時に、俺達二人の頭上を仰ぎ見るEAPから、リンク経由で送られた防眩処理済みの映像(ライブ)のど真ん中で、魔法技術を配線内に幾重にも織り込まれた爆弾が、「本物の魔法」で出来た《鋏》に容赦なく撃ち抜かれた――⋯⋯。


 






 ⋯⋯――ばしゃん!



 爆ぜた光をまともに受けて戦闘不能に陥った女には目もくれず、俺は奴の魔法が爆弾に与えた決定的な影響――起爆時刻が、レセプションの出席者が集い始める午後五時ではなく時刻不詳に変わったこと。つまるところ、爆弾の暴走――が、招くに違いないたった一つの帰結を変えるため、水たまりを跳ね上げながらひた走る。


 ずっと繋ぎ放しだったスマホの先。

 俺が立つこの高級ホテルの屋上の十二階層下で、今夜のレセプション会場となるバンケットルームにいるはずの先生に、


「ししょう!! みんなも! ッ、はやくにげて! マズいことになった!」


 先生たちの後ろで流れているパッフェルベル(カノン)

 

 華やいだ雰囲気のある旋律(しらべ)を、断ち切らんばかりの勢いで叫ぶ。

 

 声の限りに、即時避難の呼びかけを済ませた俺は、()うに落下を終えていた爆弾のもとへ辿り着く。


 直ぐさま、魔力を込めた指先を伸展。

 弾くように、鋏が突き立てられたままの外装に触れる。


 はち切れそうなくらい、研ぎ澄ませた触覚を頼りに「読み」取った爆弾。その内側に仕舞われていた、恐ろしいほどの構造の緻密さと、EAPが叩き出してきた“四十秒も残されていない猶予”に、


「な――マジかよ、嘘だろ⋯⋯!?」


 いよいよ総毛立つ(やばいやばいやばい!)


 ほんの少しの逡巡の末。

 本来の目標だった爆弾をバラす選択肢を、俺は放棄。頭から追い払う。


 EAPと「読み」を組み合わせた総当たりによって、爆弾の正常な動作を阻む要因――《鋏》の解体を決意。もう、否も諾もなかった。


 視野と思考が、針のように先鋭化し、そして。



 瞬くように過ぎ去った、三十と七・五秒後。



 バッテリー(俺自身の魔力)(による)マイナス(強制維持モード)に移行したEAPの画面をびっしりと埋め尽くす「incorrect(正常化失敗)」のログ。


 先生と母さんにしたはずの約束をかなぐり捨てた俺は、生来の魔力で改めていっぱいにした手のひらと指先で、火傷するほどの熱を帯びたスマホをぎゅっと握りしめる。



 あとはただ、ひたすらに(こいねが)うことしか、出来なかった。



 頼む頼む頼む(どうして、こんな、)俺にもっと力があれば(間に合え、間に合え!)誰も死なせ(絶対に――!!)⋯⋯ブづンッ!!


 








 ジッ――――ツーツー⋯⋯ツー⋯⋯⋯⋯

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ