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【最悪仕様のチート魔法】お嬢様な【俺】と、たたれし恋のメヌエットはデラ・アイロニック  作者: 庭廷梛和
第二章 狐の懸想曲【赤狐さまはご執心】

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【tp28】正直なほどツミな三日目の帰路。投げ落とされしは、彼方遥かの記憶(おもいで)を抱えさせられたままな俺の身柄、それから 〜Foreign Fallin’ Frog Puzzle〜

「へえ、ゆきの息子って、触覚(フレ)が得意なんだ。珍しいね。旦那さん似? 元気がないみたいだけど、どうした?」

「“カエルの手のひら”って寄ってたかって園で言われたから、少しいじけちゃってるのよ。目が悪いわけじゃないから、きちんとした相手に任せられれば伸びるはずだけど、セミのあたしやあの人じゃ限度があるから」

「それは聞き捨てならないね。ボクに任せてみる? どうせそのつもりで来たんでしょ?」

「違うわよ。半分は笙真と小鳥ちゃんの為に来たんだから。ほら、これが『あなまほ』の判定結果。悪くないどころか、結構イケてるでしょ、うちの昴」

「どれ。……。ホントだ。鍛えたら間違いなしだね。ボクが保証するよ。宮代(うち)の他の連中より、いい結果にできる自信あるけど。どうする? 預かろうか?」

「昴が気に入るならよ。ね、昴」

「…………」


 おれは目の前にたっていた、おじさんのかおを、じいっと見た。パパとちがって、茶色のかみのよわそうなおじさん。このひとがすごい魔法使いなんて、ほんとうなのかな?


「弱そう?」


 おじさんがゆった。ママのゆってたとおりだ。ほんとに魔法がつかえるなんて、すごい。

 でも、パパがくまさんみたいなんて、ちょっといじわるかも。


「ね、ゆき。この子さ、もう『読め』てない?」


 おじさんが、すわりながら、ぼくのほうを見てゆった。

 ちょっとこえがこわい。かおもこわくなった。


「『読め』てるわよ。でも、触覚がネックみたいでみいんな教えたくないって尻込みするのよ。うちの魔法使いどもってホント、骨がなくて嫌んなっちゃう」

「だからここに来た、と?」「違うわよ、さっきも言ったでしょ、半分はあんたと小鳥ちゃんの為って。あたしのことは相変わらず『読ま』ないのね、笙真って」

「仕方ないでしょ。昔からそうだったんだから。小鳥ー、おいで? お客様だよ。ごあいさつして?」


 おじさんが、うしろをむいて、おうちのほうをよんでみた。あいてたドアのむこうから、ぱたぱたと音がして、おれとおなじくらいのおんなのこがはしってきた。ママが、おれの手のひらをぎゅっとにぎってきた。なんでかわかんないけど、ママ、びっくりしてるみたい――。


       ◆


「ポーリャ? ポーリャってば。そんなに頑張って思い出さなくても、いいのよ。ちょっと聞いてみただけなんだから」


 声を詰まらせて、しばらく返答できなかった俺に、お嬢様がツンとした口ぶりで言いさしてきた。

 雨の音が、意識に上って、手の中には相変わらず、動かない笙真の、かさついた軽い毛並み。


 まずはこの子を優先しなきゃ。


 俺は心の中で、(かぶり)を振って、先生と全然別の、鼠の笙真から視線を引き剥がした。

 正常に立ち上がらなかった「読み」の魔法が、俺のものではない手のひらの中で、微かに油膜の色を帯びて、視界の一番下で、直ぐに(ほど)けた。

 

 予想通り、《鋏》より低い閾値(しきいち)を越えて光る他には、何一つ満足の行く結果を返してくれない俺の魔法(「読み」)を、意識から無理やり追い払う。ペギーが言ったように、レベッカを支えて、笙真を知恵先生の元へと連れて帰る。それ以外は、全てが余計事だ。

 五歳児には推し量りきれない考えに圧倒されたのか、レベッカが、「そうよね、早く帰って笙真君を休ませなきゃ、だわ」と俺に追従(ついしょう)して呟き声を上げた。

 

「ペギー。先生の家は、どっち?」

「道の左手の先、ですわ。出水先生が、迎えに来てくださるそうです」


 斜面の下を走るカラーコンクリートを、再び覗き込んだレベッカや俺の真後ろから、ペギーが告げてきた。その言葉をなぞるようにレベッカが首を巡らせる。

 

 どん。

 背中を押されたのは、次の瞬間だった。視界が、崩れるように、裏返しになる。

 な――――、喉が反応するより早く、風が俺たちの身体を、|かき(いだ)いた。


 ペギーの、《鳥》の魔法!? 


 そうと気づいた時には、お嬢様と俺の身体は、法面を這うように不自然に囚えられていた。

 不可視の壁に阻まれた、視界のずっと上で、水玉の傘を差したペギーが立ち尽くしている。魔法を行使した証なのだろう。彼女の肢体から伸びた、仄青(ほのあお)く淡い残皓(ざんこう)が、壁の外側で、静かにその輝きを途絶えさせた。


「え、ペギー、これってどういう!」


 安全を確信した俺に遅れをとること、二秒。反射的に身体を丸めかけた彼女が、笙真を(つぶ)してしまわないよう、|同期速度をベ《元の身体であればEAPとの》|ンチマークに《リンクが成立可能なくらい》引き上げ切った思考のまま、指令を叩き込む。


 握るな、間に合え! (あせ)んじゃあ、ねえ!


 宮代家の魔法使いではないレベッカの脳がミシリと悲鳴をあげ、最大級の警戒をフィードバック。

 一度だってEAPと疎通(そつう)したことのない、異世界の五歳児の頭。そんな(ロク)でもない繋ぎ先に結わえ付けられたまま、唯々(ただただ)けんめいで有れと要求された意識が、ピン・ポン・パンの幻聴(けいこく)()り合いになりながら一面を真っ赤に染め上げた。

 

 掌が開く。鶏ガラのような鼠の尻尾と後脚が覗いた。

 レベッカの両足が、泥濘(ぬかる)んだ地表に届く。

 反射的に沈み込んだ膝の働きを、隅の隅で認知しながら、俺はもう辺りを見回していた。

 お嬢様は無事。笙真も追加の異常はなし。

 俺の感覚だけは、掛け値無しの鈍くささに依然として苦情を申し付けたいらしい。(いささ)(もや)が掛かったままになっている。とはいえ、無視してもいいくらいの抵抗レベル。お嬢様に合わせるため、シンプルな思考パターンを最優先で構築し直す。


「想定以上に面白い代物だな。これがあの娘とはね。汚れている以外は実にマアベラス。とても愉快だ」


 乾いた拍手と一緒に、声が響いた。緻密さを()いた反動で、ラグの後に理解が追いつく。

 俺の声じゃない。

 芝居掛かっていても、男の声だから、ペギーではない。勿論、レベッカのものでも。「――なら誰なのよ!?」耐えきれずに溢れたレベッカの甲高い喚き。駆け出そうとした足元が、ふわりと浮き上がって、水たまりに波紋だけが映る。

「誰とは心外だな。私だよ、デイビッド様だ。デイビッド・アデリー。レディ・レベッカ、ミクス(・・・)・スヴェトラーナ。君たちを貰い受けに来た。そうだよな、我が妹殿」


 《鳥》の魔法で、雨を(しの)いでいるのだろう。この天気の中にいたとは思えない程、つま先まで完璧な出で立ちの、日に焼けた偉丈夫が、風の檻に再び囲い込まれた俺たちに向けて、語りかけを寄越す。

 俺やレベッカの反応も待たず、斜面の向こうに(たたず)みっぱなしだったペギーへと、男は琅々(ろうろう)と声を投げかけた。


「兄様!? どうして来たのよ。わたし、聞いて無いんだけど! 出水先生はどこなの?」


 ほんの僅かな時間差に続いて、頭上から侍女の少女の返事が降り注いだ。ラウラと話していた昨日と同じ、飾り気の目立たない真珠みたいな、硬くも柔らかくもある上擦り気味の口調。そいつが、雨音のように耳朶(じだ)に吸い込まれてゆく。


「可愛い妹を見舞ってくれる兄に、ずいぶんと冷たいな。傷付ける心積りかい? 出水殿とは話が付いているよ。当然じゃないか。弟子が戻れば、構わないと言い付かってきた。して、弟子殿はどちらに? 君に突き落とされた、可哀想なお嬢様しか姿が見えないようだが?」

 

 事も無げに、ペギーの声を打ち返したデイビッドが、見透かすためだろうか。視線をこちらに据えてきた。


「《鼠》のままガス欠で、眠っちゃってる。レベッカ様のおいたが過ぎたせいよ。起きてても面倒くさいから、丁度、良かったかもー」


 崖の上から、木霊を伴って間延びしたペギーの声が、ダメ押しするかのように、俺とレベッカ嬢の鼓膜を震わせてくる。

 ペギーよりも醒めた碧眼で、胸元に引き寄せたレベッカの白い握り拳を、しげしげと覗きかけていたデイビッドが、再び視線を上向かせた。

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