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【最悪仕様のチート魔法】お嬢様な【俺】と、たたれし恋のメヌエットはデラ・アイロニック  作者: 庭廷梛和
第一章 カエルの顕騒曲 【身代わり蛙があらわれた!】

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【tp20】超テリブルな一日の終わりと、あくる朝のおはよう:ホップ・ステップな二日目は其の九でおしまい! もう十分だっただろ?

次回から、第二章「狐の懸想曲 赤狐さまはご執心」

掲載予定です☆彡



「⋯⋯わかったよ。さっきも言ったでしょ? ポーリャちゃんは、頑張りすぎなんだよって」


 あの日と違って、即座に俺の意を汲み取ったことを、彼は返事の中に込めてくれた。

 ポカンとされること、なく。

 それだけで、心が一杯になった俺に向かって、彼は、いつもより少しだけ皮肉が混ざってない、落ちつき払った声で尋ねてきた。


「ねえ、電話。でなくていいの?」


 細やかそうでいて、輪郭のある着信音。鳴り続けるその音色の存在を、先生とそっくりな柔らかい口調を覗かせた笙真から促された俺は、ポシェットのスマホを取り出すと、着信相手を確かめた。


 ⋯⋯ペギーだ。


 ほんの少しの落胆とともに、躊躇(ちゅうちょ)した俺に構わず、お嬢様が電話に出てしまう。

 あーあ。思うけれど、お嬢様からの圧が結果的には解けているので、よしとするしかない。

 違う相手を期待していた自分を改めて自覚しながら、本物のお嬢様の話し声を俺は聞いた。

 吹いた風が、目元をそっと撫で乾かしてゆく。


「リベだよ。だあれ?」


 向こう側から、ペギーの息を呑む音が聞こえた。それきり、無言。


 火傷の件があったばかりだし、無理もないよな。


 思いながらも、LINE一本だけで出掛けてしまった負い目から、俺だって口を挟めない。

 沈黙する銀色(ぎん)の端末を横目に見つめながら、お嬢様が不思議そうに呟きを漏らした。


「んん? お話しなくなっちゃった⋯⋯」

「貸してくれる? スピーカーは?」


 割って入ったラウラの慣れた口ぶりに気圧(けお)されて、思わずスマホの通話をスピーカーモードに切り替えてしまう。


 すると、《鳥》の魔法を使われたらしい。

 俺の意図とは無関係に、プカリ。スマホが浮かび上がった。


 ラウラの魔法で、EAPとしての機能を取り戻したみたいな振る舞いを、小さなスマートフォンが示したことに、なんとなく悔しくなってしまう。 


 そんな俺を完全によそにして、ラウラが口を開いた、

 胡桃くらいなら簡単に砕けそうに見える、彼女の嘴。そいつとは相当不釣り合いな、少しだけ華やいだ「もしもし」が、回線の先のペギーへと向かう。


「やあ、真珠様?」

『ラウラ!? どうしてあなたがそこにいるのよ? レベッカ様はご無事なんでしょうね?』

「もちろん無事だよ? 宮代のところの坊も一緒。みんな一杯々々なようだけどさ! それより、お届け物はご覧いただけて?」

『見たに決まってるでしょ! 兄様も心配性ねって今したためてもらってたところよ』

「もらってたあ? どうかしたわけ?」

『どうもしてない! 今のは内緒よ。弁えてるわよね?』

「弁えておりますとも。で、なんの用?」

『三人に伝えて。私たちがとーっても心配してるから、早くお戻りください、って』

「聞こえてるよ。怒らないって保証を要求してあげてもいい?」


 俺達二人を視界に入れながら、空に浮かんだスマホ越しに、宮代笙真は、いつもとまるきり違う口調を顕わにしたレベッカお嬢様の侍女に向かって、茶目っ気たっぷりな声で尋ねてくれた。


       ◇


「レベッカ様!」


 日暮れが近づいた空の下、空飛ぶオート三輪から出水邸宅の庭先に降ろされた俺達を待っていたのは、ペギーと知恵先生だった。

 芝の上に立ち尽くしたまま、菫色の瞳を硬くして、包帯の巻かれた指でエプロンドレスのふちを握りしめている彼女は、こちらへ向かって駆け出していいのか迷っているようにしか、俺には見えなかった。

 

「⋯⋯⋯⋯ペギーが、ほんとうにお姉ちゃんになってる」


 信じられない、と言いたげに呟いた声が、お嬢様と共有するしかない耳朶(じだ)を叩いた。

 ますます不安そうに、笙真のジーンズにしがみついた痩せぎすの両腕に向かって、俺は、大丈夫だよ。行ってあげなよ、と心のなかで声を上げた。


「さっき、知らない人って言っちゃったから」

「なら、俺が一緒に謝ってあげようか?」

「ポーリャちゃんは、レベッカ様とは別にマーゴットへ謝ることかあるんじゃないの?」


 赤いスマホから目を上げて、笙真が(うそぶ)いた。今度は俺が固まってしまう。


 普通さ、今それを言うか?


 恨めしそうに見上げた視界の真ん中で、当然とばかりに顎を引いた少年が俺達の背を押しかけ、


「怒らない保証は、二人にしかしていないわ」


 知恵先生の平坦な声に、彼の手がぎくりとするかのように止まった。


 笙真君も謝ることがあるみたいじゃん。


 不自然なくらいに仰け反って彼の目に視線を押し付けたまま、俺は、(はら)の底から全力で、思い浮かべてやった。

 


 どちらかといえば、あっさりとペギーから解放された「ポーリャ(俺とお嬢様)」とは裏腹に、笙真はかなり長いこと知恵先生に絞られていたようだった。

 といっても、漏れ聞こえるどころじゃなかった二人の怒号は、彼がただ師匠に叱られていただけとは、とても思えなかったけれど。


「もしかして、待ってた?」


 返すタイミングがなかった上着に(くる)まったまま、向かいの壁を見つめていた俺に向かって、知恵先生のお小言から解放されたばかりの少年が、呟くでもなく尋ねてきた。


「俺は付き添い。笙真君のリベ様なら、頑張ってたけどついさっき寝入っちゃった」


 起こしてほしければ、起こすけど?


 壁から剥がした視線を、お嬢様の丸っこい小さな淡紅色の爪に移しつつ、俺は言外にそう告げた。俺の隣で、壁に背中を預けた笙真の返事を待つ。


「いいや、いいよ」

「話したくないの? お嬢様は話しがってたけど?」


 笙真君から始まり、笙真君で終わる。そうとしか表現できないお嬢様とのおしゃべりを思い出しながら、俺は、どこか遠くへ視線を投げかけている彼の横顔を見上げた。

 

「話したいよ。話したいけどさ。⋯⋯ねえ」

(あん)だよ?」

「昴の世界の『明かし』は、『読み』なしだと、なーんにも察することができないわけ?」

「そう見えるなら、心外。ンなわけないから。人並み以上には、察せられてると思うよ」


 五本の指の間で再び彷徨わせていた目線を壁へと戻しながら、俺は立ち上がった。落ちた沈黙を今一度破って、続ける。


「――お嬢様の誤解は解かなくていいの? 彼女、笙真君が助けてくれたって本当に信じてるぜ」

「解いてほしいなら、努力するけど」「違うって。笙真君はそれでいいのかって、俺が、聞きたいんだよ」


 そっちかよ。

 呟いたきり、天井に目をやった彼は、ずるずると座り込んでしまった。

 俺は、手のひらで目元を覆った彼の背中を、黙ったままポンと叩く。

 俺の先生に負けないくらいに優秀な「明かし」である宮代笙真には、これひとつで、全部「読み」解くことが出来るだろうな、と思いながら。

 

       ◇


 翌朝。

 悪夢ではなく、床の硬さからくる居心地の悪さの中で最初に目を覚ました俺は、握り締めていたEAPから要求されるままに八桁のパスコードを入力する。

 笙真と二人で話し合いながら二インチもないディスプレイへと打ち込んだ内容は、やっぱりたくさんというには程遠い量だったけれど、俺一人での仕事量よりも、何倍も早く進んでいる、そんな気がした。


 廊下を満たしていた朝の冷たい空気と、ペギーの寄越してくれた茶色の毛布に包まれたまま、俺の胸中と隣で、おんなじように寝息を立てているに違いない二人を起こすため、俺は淋しい気持ちを抱えっ(ぱな)しの頭を振った。俺も小鳥に会いたい、と、少しばかりじゃないくらい思う。

 

 ほんの僅かな躊躇(ためらい)ののち、床に散らばるチョコレートの包みを拾い上げた俺は、そいつを口の中で溶かし切ると、二人に向かって上目遣いをしながら、心の内外に響かせるため声を上げた。


「起きてよ、二人とも。もう、朝だよ?」

読み手の皆様へ


あらすじでお示したとおり、このお話は既存別タイトル作品のスマホ向け加工作のため、次話以降は作業済み次第掲載になります。お話自体の続きの回は既存タイトル

にありますのでこちらのURLをご覧ください。

→ https://ncode.syosetu.com/n9427jl/18

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