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【最悪仕様のチート魔法】お嬢様な【俺】と、たたれし恋のメヌエットはデラ・アイロニック  作者: 庭廷梛和
第一章 カエルの顕騒曲 【身代わり蛙があらわれた!】

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【tp19】俺を挟んでとりかわされる、笙真&レベッカ様の「妙にナマクラで、圧がマシマシ」対話記録:ホップ・ステップな二日目 其の八


「お待たせしました。もういいですよ」


 慌ただしい衣擦れの音に続いて、頭上から笙真の声が降ってきた。

 それを合図に、目隠しをやめた俺の視界に再び光が射す。


 遮るものが何一つない、オート三輪の荷台に降り注ぐ陽光は、開いたばかりの目には眩しくて、俺は思わず下げかけた手を(ひさし)のように(かざ)してしまった。


 けれども、そうやって俺が設けた小さな日陰は、弾かれたように首を巡らせたレベッカお嬢様の所作によって、一秒も保たずに消えてなくなる。


 彼女の意思に付き合わされた視界に映る、緊張を隠しきれない宮代笙真――俺にとっては、もうすっかり馴染みになってしまった先生(ししょー)そっくりな十四歳の少年――の姿を、吹き荒ぶ風に身を晒しながら、じっくりと観察したあとで、不思議そうに彼女は呟いた。


「へんね。思ったより、お兄ちゃんじゃないわ⋯⋯っくしゅん」

「もう。そんな格好でいるからですよ、レベッカ様。失礼(つかまつ)ります」


 袖を通したばかりの上着を、くしゃみをした小さなお嬢様の頭や、長い髪で彩られた(はだ)けたままのブラウスの上から(かぶ)せるように着せこまれる。


 仕上げとばかりに、余った身頃を掻き合せるようにして、俺たちの全身をしっかりと(くる)み終えると、短く嘆息を吐いた笙真が、薄手の生地越しに、俺という居候ごと彼女の身体を抱き上げてきた。

 

「こんなものしかなくて、申し訳ございません。寒くはありませんか? マーゴットがいれば、もっときちんとお支度をさせてあげられるんですけれど」


「⋯⋯もちろん、寒いわ。どうして、お洋服のボタンはとめてくれなかったの?」


「それは流石に。ボタンくらい、ご自身でできるでしょう?」


「できないもん」


 心外そうにつぶやくと、全くサイズの合っていない上着の袖を口元に寄せ、お嬢様は、またふんすと鼻を鳴らした。


 彼女と俺が見つめても、笙真はいつも俺にするように、無遠慮に瞳を覗き込もうとは、決してしてこなかった。


 気絶してないレベッカお嬢様の心なら「読める」。そう言ったはあんたなのに、どうしてなんだい? 難しい話というのは、どうせ俺のことか、彼女をこんな背格好に変えた事件のことだろうに。


 思っていると、お嬢様は、俺の考えをそのまま口にしてきた。


「難しいおはなしって、リベとこの(へーん)なうるさいひとのどっちか、よね? じけんはわからないけど⋯⋯がんばってきくから、教えて?」


 裏表なんて、(ハナ)から存在しなさそうなお嬢様の言葉に、笙真は少しの間、蒼天を仰いでから、ゆっくりとこちらを見下ろしてきた。

 

 ったく、なんで、そんな難しそうな顔をするんだ?

 俺、今回は泣かずに頑張ったんだけど。


 俺たちの心がずっとざわめきっぱなしだったことを、目の前の少年が見逃すわけはないから、応じるつもりで思い浮かべると、案の定、最初にそのことを指摘された。

  

「頑張り過ぎなんですよ。なんてものを見せるんだ。あんなことを真面目にやるなんて、どういう神経を⋯⋯違います、レベッカ様は、今回はお礼を言う側ですよ。そもそもキミが⋯⋯! ああもう、『読み』にくいな。どちらかでいいから、何も考えないでください、頼みますから! 悪いけど、朝抜きだから、上手く頭と魔法が噛み合わないんです⋯⋯!」

 

 鼠姿の時に見せてたのと同じ、ひどい気怠(けだる)さが、途中から纏わりついたような長台詞。


 お嬢様と一緒になって、吸い込まれるように見つめていた彼の茶色の瞳から、努力して視線を外してみれば、彼の顔色はお世辞にも良いとは言えなかった。


 そういや⋯⋯。俺は、出水家から出かけてきた、理由を思い出した。


「自覚があんなら、はやく飯にしなよ。見てる分には、面白いけどさ。魔法がそこまでひどくなるまで我慢するなんて、(ボン)にしては珍しかないか?」


「ラウラの言う通りだぞ。それさ、お嬢様と一緒に落ちてたから、さっさと食っちまえよ。まァ、見てくれは、お(めえ)さんたちくらい、ひっでえことになっちゃってるけどねえ」


 鸚鵡と烏の特徴を兼ね備えた大きな鳥たちは、二人でおしゃべりしている間も、俺たちのやりとりにずっと意識を傾けていたらしい。


 狙いすましたようなタイミングで、ケケッと笑いながら二羽そろって旋回して、緑色のロゴがプリントされたレジ袋を放り投げてきた。


 俺の知らない《鳥》の魔法の力で、落下速度を緩めた荷物を、お嬢様が身を乗り出して、ぎりぎりでキャッチする。


 うーん。これを食わせるのは、忍びなくないか? 俺なら、勘弁したいぞ。いくら腹ペコでも⋯⋯。


 中を(あらた)めるまでもなく、白いビニルから立ち昇る、ちゃぷちゃぷしている液体の匂いと感触に俺は思った。けれども。


「ん!」

 

 短い鼻にかかる一音とともに突き出された、ぶかぶかの袖に包まれた手のひらから、荷物を受け取った笙真は、俺やラウラたちと同じで、中身のぶちまけられ加減に気づいていないことは確実にないだろうに、わざわざ袋の内側を覗いて、「わあ、美味しそうですね」と引きつり気味の小さな笑みを浮かべてきやがった。


 折り悪く、俺たちの空っぽに近い胃袋からも、虫の鳴き声が上がる。

 

「レベッカ様、もしよろしければですけれど、朝食を御一緒いたしませんか?」

「うん」


 奴の役に立てたことが、ただひたすらに嬉しくて、素直なお返事をした身体が、袋の取っ手を口に咥えて両手を空けた、笙真のエスコートで荷台に降ろされた。


 被らされていた上着の前を広げ、丸い指でボタン掛けに取り組みだした俺たちと、小さな車座を組むような位置に腰を下ろして、いそいそと食事の支度を始めた笙真の斜め後ろから、プーカとラウラが、またケケケッと嗤う声がした。


      ◇


 味はまあまあ無事だった朝食を終え、やっとひと心地のついた俺は、お嬢様への情報開示をするため、笙真に向けて口を開いた。


「なあ、そろそろ俺の自己紹介、させてもらえないかな?」

「レベッカ様、あの日、(すばる)と出かけた夜のことをどれくらい覚えていますか?」


 笙真は笙真で、似たようなつもりでいたらしい。

 示し合わせたように、かち合った台詞を受け、お嬢様にどっちの話題を先にするか、心の中で問いかけてみる。


「お出かけなんて知らないから、あなたのことを教えてほしいな」


 視線を彷徨わせながらな彼女の答えに、視界の端のほうで一瞬だけ口元を歪ませた笙真は、何も言わずに頷いた。

 彼の承認を得た俺は、まずは名前を告げることにする。


「俺は、ポーリャ。ポーリャ・“ツェツァ”・スヴェトラーナ。ポーリャでも、ツェツァでも好きに呼んで。理由(わけ)はわからないけど、君に取り憑いているみたいなんだ。仲良くしてくれると、嬉しい、かな?」


「彼は、ボクらと同じ『明かし』の魔法使いですよ。ただし、この世界の『明かし』ではなさそうなんです。それなりに腕は立つし、一応、害はないと思うから、我慢してもらえるとボクとしても助かるんですけれど」


「笙真君がそういうなら、がんばってみる。ねえ、リベも聞いていい?」


 あっさりとした返答とともに、ずっと俺に圧をかけてきていた彼女の魔力が和らぐ。心の奥で俺はこっそりと息を吐いた。

 そんな俺をよそに、彼女が口にした問いかけに笙真はすぐさま首を縦に振って、さらにお嬢様を促した。


「どうぞ。ボクに答えられることなら」


「なんで笙真君は、お兄ちゃんになっちゃったの?」


「ボクが、じゃなくて、レベッカ様が小さくおなりに、なられたんです」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 圧が、戻ってきた。お嬢様からのとばっちりを受けて、どうしようという思いが心の底のほうから浮かび上がってくる。


「とても、申し上げにくいのですが、レベッカ様。どうか⋯⋯どうか、お願いします。心を落ち着かせて、聞いてくださいね」


「――辞めとこうぜ。笙真君。この子、多分、無理だよ」


 再び矢面に立たされかけて、俺は警告する。 


 さっきみたいな芸当は、今日はもう、本当に無理。出来るんなら、こんな盛大な白旗、振らないから。


 お嬢様の(ひわ)色の瞳で睨みつけながら、俺はこの世界へ寄越された日と同じように、必死に彼に訴えかけた。


 ポシェットに入れられたままの、俺のスマホがりりり、と()いた。

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