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【最悪仕様のチート魔法】お嬢様な【俺】と、たたれし恋のメヌエットはデラ・アイロニック  作者: 庭廷梛和
カエルの顕騒曲 【身代わり蛙があらわれた!】
2/16

【tp1】 ひいふうみい! 四、五、――今だッ!

  二〇五〇年、初夏の東京都心。

  宮代家の所有する

  ◤統合型リゾートホテル「K」◢


  その屋上にて、彼は、

  【敵と隠れ鬼】の最中にあった。



 頼むよ。手筈(てはず)通りに!


「――行け、隠れてろ」


 囁きともに、諾を念押した俺の心に沿うように、午後の明るい天気雨の中で燐光を纏っていた流線型の銀色(ぎん)の筐体は、掌から浮き上がるや否や、にわかにその姿を消した。



 回線の向こうで、俺と同じように空飛ぶスマホを従わせているはずの面倒くさがり屋の先生から、先ほど切り上げたばかりの会話を、あとでそのまま聞かされるに違いない小鳥(アイツ)の姿が、心に浮かんだ。


 幼馴染の少女に要らぬ心配をさせないよう、余計なバッググラウンドノイズなしの音声だけが送られていることを、景色に溶け込ませたEAP(スマホ)とのリンク経由で確かめる。


 一秒にも満たない時間で、いくつかのアプリとのやりとりを終えた俺は、(から)になった掌と、そこから伸びる指の一本一本に改めて意識を集中させて、そのうちに訪れるはずのタイミングを待っていた。



 ――EAP嫌いの(やっこ)さんが一回分の魔法を使い切った瞬間に、ここから飛び出して、今隠したばかりのスマホで目眩ましを喰らわせてやりながら、あの爆弾を攫うことができれば、俺の勝ち。


 

 言葉にしてみれば、実に簡単な内容である。


 成年間近な宮代(みやしろ)家の弟子に課された仕事としては、それこそ朝飯前だって言ってもいいくらいだ。


 早鐘を打つ心臓を宥めるため、爆弾の前に立ちはだかっている奴――人殺しを生業(なりわい)にする《狐の鋏》の女――の殺傷能力に特化した魔法を一発でも喰らったらオダブツだという絶対普遍の事実だけを、都合良く頭の隅の方へ押込みながら、俺は自分にしか聞こえない|呟き声で大丈夫と繰り返す。


 その証拠に、動き回って負った擦過傷はともかくとして、今のところ怪我ひとつ負わされていないじゃねーか。

 あの《狐》が飛ばす《鋏》相手に。

  

 (魔法使い)(支援)(プロセッサ)の恩恵を受けて、生来の魔法に、“血が通わなくて、冷たい”という意味の「チル」と呼ばれる人工の魔法を組み合わせての、“速くて、柔軟な手”を打つことが可能な、俺たちフツーの魔法使い。


 それとは違い、(かたく)なに生まれ持った“(かせ)つきで遅い”力しか使おうとしない相手とその魔法のことを、これ以上縮めようもない呼称(なまえ)で呼びながら、少しだけ気を良くした俺は、胸の中でもう少しだけ独り()ちた。


 これはきっと、先生が言った通り、ううん、それよりもずっと上手にEAPを使いこなして俺が状況を「読め」ているからに違いない。


 けどなあ、このままここで息を潜め続けるのは、正直言ってちょっとしんどい。


 下手に動いて補助端の二の舞みたいな「蜂の巣」にはされたくない俺と、こっちの手数の多さに苛立っているに違いない相手(おんな)


 《(ひとごろし)》に比べれば、荒事に慣れていないためだろう。


 奴との間に横たわったヒリヒリするような膠着感。

 

 心に圧をかけるソレに、とうとう耐えきれなくなった俺は、気を紛らわせようと高架水槽に身を隠したままスマホのバッテリー残量をリンク越しに確かめる。


 八十四パーセント。


 げ。補助端(ほじょたん)なしだとこんなにバッテリーの減りが早いのかよ!?


 前のバージョンよりも段違い(だんち)で直感的な操作が可能ってのはいいけどさあ。


 こいつはいただけねえな。


 危なっかしすぎる。「要改善要望」、出さねえと、だな。


 そう思って眉を寄せた瞬間に、俺を守ってくれているはずのステンレスパネル製の頑丈な水槽が、


 ぐわん! 揺れた。


 (ひぃ)


 よっしゃ。タイミング!


 あっちのほうが、先に痺れを切らせてくれやがった!


 相手の「余裕」の乏しさを示す轟音とともに、俺の手元に、チャンスが転がり込んできた。

 

 早くも身を(ひるがえ)し始めながら、EAP支援環境の(もと)、枷をほとんど無視するように、既に連続起動済みの「読み」を駆使。


 空気中から伝わってきた、手に取るように視える「感触」だけを頼りに相手の魔法が途切れる瞬間を探る。


 ……(ふう)(みい)――(よう)(いつ)、今っ!


 ここがキリになるという、いつか習った先生の教えに従って、五(ちょう)目の《鋏》の射出を合図に、彼我の間を隔てていたステンレスパネルの陰から、俺は身を躍らせた。


 ついた勢いそのままに、コンクリートの床を蹴り、更に速度を上げる俺。


 そんな俺の視界に飛び込んで来たのは、


 俺がずっと解体(バラ)したがっていた「ラス1の爆弾」を、さも“大切な宝物”みたいに腕の(うち)にかき抱いた女の姿。


 しまった!


 鋏にばっか気を取られて、俺、奴の動きを「読み」損ねてた――!?


 じゃなくて、「目眩まし」!  



 《狐》にしては珍しい守りの姿勢と、苦手意識のある目視での「読み」を省きがちな俺の悪癖。


 揃い踏みになったその二つのせいで一瞬だけ真っ白になった思考。


 俺は明らかに狼狽うろたえつつも、あくまでも当初の予定通り、爆弾を狙うことだけを「再決定」。


 風景に擬態しているはずのスマホに向かって、心の中で、


 ちょッ、何してるんだよっ? 遅い!

 光って! 早く早く!!


 そう声を荒らげる。


 そんな俺をせせら笑うかのように、枷――生来の魔法を練るために必要な、時間という重石(おもし)――をたったの「二秒足らず」で難なく引き千切り終えた女。


 奴は、目深に被ったフードから覗く唇を引き上げて、水たまりの中から、「新たな鋏の群れ」を喚び出した!

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