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送らなかったメール。

作者: 吉高 都司

『バックギャモンという、西洋双六では、自分の駒が振り出しに戻された駒を、再び盤面に戻す事が出来ない、一回休みの状態をダンスいう。そして、自分の駒が振り出しから盤面に戻ることを、エンターと言う。』




 それは、青春期の一片であることは間違いない。人は恋をすると天下無双になる。それが、成就すればなおさらだ、憧れの人の、そのまぶしい笑顔があれば、それでよかった、決して、交わることのない、その交差した線はそこにあれば、よかった、だから余計だ。


 僕は、モブだから。その他大勢のひとりだ。ヒーローでもない主人公にはなれない、だから、自分は自分でありたいし、流されない自分でありたい。と常日頃思っていた。


 得てして、~じゃない方の事の方が物語を語る時に、リアリティーがあるのは、不思議だ。聞いていて、おもしろいのは、~の方だが。


 僕は、どちらかと言えば、~じゃない方。胸を張って、じゃない方と、言える。

 そんな俺が、稀な、成功体験を、少ない成功を、自分の中で濃縮し、繰り返し、繰り返し、反芻するのは、成功者からすれば、滑稽な、喜劇でしかない。

 でも、等の本人はいたって真面目である、大真面目である。


 お互いの気持ちが、分かったのは、古風ではあるが、手紙をもらったからで、後日、メールも貰ったがダンスしたいくらい、小躍りとは、この事。


 貰って、直ぐに読みたいところを、我慢して、家に持って帰り自分の机で開封し、読み始めた、その時の胸の高鳴りは、今思い出しても同じ位、鼓動が高鳴る。


 布団に突っ伏して、布団の中で何度も読み返し、 朝起きて、読み返し、学校に行く前、読み返し、それが夢でない事を何度も確認した。


 彼女は、チェッカー、チェス、リバーシ、など、おおよそ俺にとっては、古いイメージしかないボードゲームを親から、手ほどきを受けていたみたいで、古風なのは、そこにも起因しているんだと分かった。特にバックギャモンがお気に入りの様で、事ある毎に彼女と、そのゲームをしていた。


 自分の駒があと少しで上がりベアオフして、全ての自駒が上がるところで、そこから、逆転負けは、このゲームではよくあることで、そこがこのゲームが面白いところ、と言ってニッと笑っていた。その笑顔は今も忘れられない。


 いつも俺が負けていた、と言っていいほどだった。


 そんな日々も。終わりを告げ。


 学校を卒業し、進学し、生まれ育った都市から、遠く離れた都市に移り住むことになった。


 出発する、その日。


 駅のホームで別れの挨拶をした。彼女と会ったのはそれが最後だった。


 時間が僕たちの距離を遠くし、そして、離れたままとなった。決して、嫌いと言う訳でなく、自分でもびっくりするくらい呆気ない別れだった。 彼女もそうだったに違いない。


 その都市で、それなりの学生生活を送り、そのまま社会人になった。たまに帰郷した時は、懐かしい面々と交友を深めていたが、ついぞ、彼女の事は深く聞くことは無かった、多分怖かったんだと思う、漠然と。

 噂では、違う都市に一人移り住んで、学生をやっていると聞いただけだった。


 社会人の、日々の忙しさをこなしているうちに。

 月日が経ち、違う恋と 愛を見つけ、大事なものを育んだ。


 そして、何年か経ったある日、当時の男友達と呑む機会があり、うわさで、あの彼女がひどい別れ方をしたと、実しやかに聞いた。

 彼は、当時の僕たちの経緯など知る由もなかっただろう、他のクラスメイトの誰々が、事業を起こし青年実業家になっただの、あの子が、漫画家になっただの、委員長が教授になった、目立ってたあいつは、海外展開を画策している、とか、芸人になったやつがいるなど、彼女の事はそのいろんな話の流れの中の一片でしかなかった。



 どうしたの。半分眠たそうに妻は俺に問いかけた、布団の中で、妻が、目を覚ましたのか、うっすらと目を開けているのか、ベッドのランプで、ははっきりとその表情は、見づらかったが、眠たそうに眼を擦っていた、起こして御免と言うと、彼女は続けて明日、娘のダンスの発表会があるから、早めに休むよう促された、何でもない、わかったよ、と妻に返事を返し、ふと見てみると再び眠りに落ちたのだろう、寝息を立てていた。

 先程の自分の返答が彼女の耳に届いていたのか分からない。


 妻との間で、気持ちよさそうに寝ている娘のうつ伏せで寝ているその表情を見ていると。


 寝汗で頬に纏わりついている、長い髪の毛を、ウェットティッシュで汗を拭きとり、髪の毛を整えると、くすぐったのか、少し寝がえりを打った。


 その拍子に手元にあった携帯端末のメール画面が、急に明るくなりそれまで打っていたメールの文字を読み返すことになった。


 もう一度読み返し、そして、音もなくスワイプして、下書きから、ごみ箱に持っていき消去した。そして、カーテンの間から見つけた星をしばらく見た後、二人の寝顔を見てそして、幸せの間にその身をもぐりこませた。


 きっと彼女は大丈夫、あの時の恋は、無双だった、何をするにしても、生活も、学校生活も、勉強も、クラブも、天下無双だった。それを教えてくれたのは、あの恋だった。だから、強くなれた。

 あの時の偽らない二人であるとするため。


 きっと、私の事はいいから自分の事をしっかりしなさい、と怒られるかもしれない。自分の守るべきものを守りなさいと。


 携帯端末を充電器に置きながら、これでいいと思った、彼女はきっと立ち直ることができる。


 今はダンスのままでいい、また、エンターすればいい。


 いつか出会うことがあれば、きっと笑い合って。話せる日が必ず。


 そのときは、逆転勝ちした、二ッと笑ったあの笑顔を見せてくれるに違いない。 了

目を通していただき、誠にありがとうございます。

過去を振り返ろうとした時、時間の流れのどうする事も出来ないもどかしさと、信じること。

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