冒険者
「よお!今日もいい天気だな!!」
街中を歩いていると元気な爺さんが挨拶をしてくる。
俺は軽く手を振り、今日も今日とて冒険者ギルドに足を運んだ。
俺の住んでいる場所から冒険者ギルドまではそう遠くない。
街でも特に大きく目立つ扉を開けると、朝なのにとてもにぎわっていた。
「おい、見ろよあいつ。」
「うわまじか。」
いつもと違う視線を大量に浴びたので、俺は何をやらかしたのか疑問に思っていた。
でもよくよく見て見ると俺ではないとこに視線が注目していた。
ふと、横を見ると、深くフードを被った顔の見えない子が立っていた。
身長から見てまだ子供だろう。
そいつはスタスタと中に入っていき受付に向かっていった。
見たことも無い子供によくわからない状況、俺は困惑していたので近くに座っている奴に話を聞いてみた。
「なぁ、今日は朝からどうしちまったんだ?」
「ん?おまえさん、知らないのかい?」
「何がだ。」
「ほれ、これを見な。」
そう言って渡されたのは、今朝の新聞だった。
「あそこの無法地帯で事件なんて日常茶飯事じゃねえのか?」
「今回はそうもいかないみてえでな、無差別だったらしいんだ。」
「あぁ、それもその殺害方法がこれまた酷くてな、どうやら吹き飛ばされたらしいんだ。」
「それであそこの子供と何の関係が?」
「んぁ?んなもん分かるだろう。あの格好、汚れた服装と顔の見えないフード、見るからに怪しいじゃねえかよ。」
「そうか...。」
俺はチップをテーブルに置き酒場に向かった。
「おい、ルーガス、いつものを一杯。」
「あいよ、いつも言ってるがルーガスと呼ぶな。ここではマスターだ。」
白髪の男はめんどくさそうに飲み物を持ってきた。
渡された飲み物をちびちびと飲みながら雑談をした。
「ルーガス、これを見てどう思う?」
「はぁ、もういい。そうだな、醜いとでも言っておこうかな。」
「そうか、俺はかわいそうだな、と思った。」
「似たようなもんだろ。あの子供も濡れ衣着せられてなぁ。」
「まだ出回っていないということでいいのか?」
「あぁ。もうちょい派手にやったって俺はいいと思うんだがな?」
「もうちょいしたらな、んじゃ。」
「あぁ。」
他愛もない雑談を交わし、受付に向かう。
「おはようございます。ゼントさん。」
「あぁ、おはよう。今日はなにか良い依頼は無いか?」
「そうですねぇ、ゼントさんレベルの依頼はそうそうないですからね。」
一応冒険者ギルド内では上位のランクに就いている。
「そうか、ではまた何かあったら。」
「あ、お待ちください。」
「ん。なんだ。」
「これは上位の冒険者さんの全員にお伝えしている情報なんですけど、いつかは分からないのですが、そう近いうちに魔族がこの街に襲いにくるとか。」
「ふむ、分かった。覚えておこう。では。」
街に魔族が襲いに来るのは何も珍しいことではない。
普通、食料と武器や自分たちに足りていない物を奪いに来るか、侵略をしに来たのかのどっちかだからな。
今日はもうやることがないので、近場のダンジョンに潜り素材でも集めるか。
どこの街や国、村の近くには単数、または複数のダンジョンがある。
ダンジョンが踏破されることはなかなか無いが、その区域によって近隣の冒険者ギルドが制限をかけている。例えばこの街の近くにある2つのダンジョンのうち1つは完全初心者向けのダンジョンで、主に冒険者になりたての者や力試しなど練習向きだ。
そしてもう1つのダンジョンは下位から上位まで潜れるようになっている。
上位はほぼ全層潜れるが、中位は半分ほど、下位は最初の2、3層までくらいだ。
ダンジョン近くには小屋が設置されていて、そこに水晶が置いてある。
そこに冒険者証をかざすと記録が保存される。
万が一、ダンジョン内で行方不明、遺体の回収などをする時用の物だ。
命が惜しいものだったら迷わずかざすだろうが、中には自分からスリルを求めるものや自信過剰なものなどさまざまだ。
俺はいつも通り水晶に冒険者証をかざさず、ダンジョン内に潜った。
メリットだらけの物に聞こえるが、デメリットもある。
個人情報がほぼ抜き取られて国に保管されるのだ。
この世で情報という力はどんなに強力な魔族や冒険者、はたまた国の王でさえ、一瞬で殺してしまうこともできかねないモノだからだ。
「ちょっと失礼。」
ダンジョン内の出入り口付近で戦闘しているパーティーの近くを通ったので軽く手を振っておいた。
「見てねえで助けろや!!」
「くそったれ!」
罵詈雑言が飛んできたが、こっちのダンジョンに潜っているんだ、その選択をしたのはお前ら自身だ。
俺には助ける義理も何もない。
同じ冒険者だからと言って情が沸くだとか、切磋琢磨し合うだとかどうでもいい。
誰よりも自分の命が一番だと思っているのが人間だからだ。
後ろの方で悲鳴が聞こえたが無視して引き続き下層を目指す。
ここらへんの層のモンスターは格上相手には戦いを挑まない。
身の程をわきまえているのだ。
ある程度モンスターに遭遇しながら中層ぐらいまで降りてきた頃、一気に難易度が上がることで有名な、7層ボスモンスターに挑んでいるパーティーがいた。
ここのボスモンスターは大きな武器を振り回し遠距離から魔法を撃てばいいと考えるが、それは誤りで壁から罠のギミックが発動するという初見殺しの部屋だ。
それに気が付かない冒険者が次々と罠に引っかかって部屋前に放り出される。
最後の1人が周りから仲間がいないことに気づき、よそ見をした瞬間ボスモンスターに吹き飛ばされれしまった。
「お疲れ、ここは初めてだな。」
「なんなんだ、これは。一気に強すぎだろ!」
「ここから先はあのぐらい当たり前だ。むしろこれまでに罠が無かったのが驚きだ。」
「あんた、上位の冒険者なんだろ?だからと言って、1人で行くのはどうかと思うぜ。」
「俺は基本ソロなんでね。じゃ。」
軽く雑談を交わし俺はボス部屋に入った。
中からは見えないが、外からは中で戦っている人の事が見える新設設計満載のダンジョンだ。
中に入ると先ほどまで動いてたボスは中心で静かに鎮座していた。
罠も新しく補充され最初からということだ。
「GYAAAAAAAAAOOOO!!!」
大きな咆哮と共に武器を両手に持ち動き出した。
武器を構えまっすぐ走ってくるボスに俺は立っていた。
ボスが攻撃をしてくるのでゆっくりと動きボスの脚に手を触れる。
そのままボスは壁に向かって突っ込んでいった。
と思ったら、とんでもない動きで壁を蹴り、その勢いでこっちに飛んできた。
これも初見殺し。見た目の大きさで判断したらいけないという教訓だろうか。
俺とボスの距離が近づいてきた頃、俺は次の階層の扉の前まで歩き、指を鳴らした。
「パチッ。」
広い部屋に響き渡るボスの声は威嚇声から断末魔に変わった。
生暖かい血が部屋全体に飛び散った。
俺は背中に生暖かい感触と、血生臭い臭いを感じた。
少し待つと扉が開き、俺は下層に向かった。
下層の扉をくぐると汚れが落とされるという、ありがたい魔法がかかっているのだ。
武器と武器がぶつかり合う音が鳴る下層へと足を運び続ける。