プロローグ
まだ夜が明けていない、薄暗い時間帯。
壁にもたれかかって寝ている人や、酒の飲みすぎで酔いつぶれているのか地面に横たわっている人など、いろんな人でごった返していた。
大通りよりやや小さい通りでは裏取引や、奴隷商売、無数の法が守られていない無法地帯があった。
国の上の者もそこの存在は知っていたものの、一切関与せず、国の中に別の国が存在しているようだった。
「いや~お兄さん、ここは初めてですかい?」
ボロボロの古臭い服を着た少年がすり寄ってきた。
笑顔でニコニコと尋ねてきたが、両手は背中にまわしている。
「ここは、世界で唯一の何でもできる場所ですぜ。」
そう言って、少年の横からぞろぞろと大柄な大人が集まってきた。
少年の両手には、とても鋭いナイフと、誰のものか判別がつかない頭蓋骨が握られていた。
「こいつは俺の獲物だ。後で可愛がってやるから、おまえら先に味見して来い。」
ここら辺の者はいつもの光景なのか誰も口を出さず、興味を示さなかった。
「へへっ、あんちゃんわりぃな。失礼するぜっ!」
右から素早い殴りが飛んでくる。
重く、痺れるようなパンチだった。
でもその程度だった。
「は、はぁ?なんでそこに立ってるんだ!?」
「なんでと言われても...、なんででしょうね?」
「おいもう刺しちまえ!」
腹部にナイフが何本か刺さったがそこから血は出ることなく、ここら辺の者もいつもと違う光景に興味を示し始めていた。
「こ、こんなひょろガキ程度に...!まさかお前、あの商品か!?」
「例のあれだったら相手が悪すぎる。引くぞ!」
後ろでふんぞり返っていた少年は突然仲間に裏切られ、動揺していた。
大柄な大人たちが全員逃げ出したところで少年に尋ねてみた。
「なんだっけ、ここでは何してもいいんだよね?」
「い、いや。それは言葉の綾というやつで...。」
「俺は真に受けてしまうんだ。」
少年の肩に軽く手を置き、俺はその場を立ち去る。
顔の痣を撫で、腹部に刺さったナイフを抜きそこら辺に捨てた。
ナイフが刺さっていた穴はみるみるうちに塞がっていった。
「にしても例のあれって何だったんだろう。」
俺はあいつらが言っていた言葉のことを疑問に思いながら、指を鳴らした。
普段は静かで、ほぼ無音に近いその場所で驚きと叫びの声が響き渡ることになった。
後々新聞で見て見たが、頭部が爆発するように飛び散り、周りにいた人の心臓が止まる奇妙な事件が起きたようだった。