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兄上。このままでは私は嫁にいけません。  作者: MINORI


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91:セオドアの初恋2


「来てしまったものは仕方ないにしても……他の人間はどこに置いて来たんだネイサン! カイとベルと―――カールって?!」

「ステラ、落ち着け。こっちに来る直前に祖父様が言ってた、異常世界対策に有効な魔導士の名が、確か『カール』じゃなかったか?」

「あ、お祖父様が育てたとか言ってた、魔導士か……」



アイザックの指摘に、はああっと、大きな溜息を吐いてステラが頭を抱えた。「プロポーズ」案件に関し、ぷりぷりと怒った様子を見せていたネイサンは、ステラとアイザックにバレないタイミングで、ステラだけを見つめうっすらと頬を染めている。


今も昔もネイサンは、自分と同じくステラに弱い。


あの時もそうだったな、と、セオドアは思い返す。

自分めがけて飛んでくる暗器に、死を覚悟した幼いあの日。庭石に頭を強打し意識を失い、スタンレイ邸の客間で目を覚ましたセオドアは、ステラに対しての度を超えた双子の悪戯に、自分が巻き込まれたことを知った。


「他人を巻き込むな」とステラに強く戒められた双子が、土下座で不貞腐れていた姿に、あれが悪戯……と、正直開いた口が塞がらなかったものだが、思い返してみると、そっぽを向いていたネイサンの頬は、赤らんでいた覚えがある。


ネイサンも自分と同じだ。

ずっと、ずっと……ステラに、恋をしているのだ。



「―――邪魔者が増えた。全員吹っ飛ばせるか、真白?」

『出来るけど。いい、ステラ?』

「良くない……。待て、真白」



ああ……。アイザック()今も昔も変わらないな。全く一緒で、こんな感じだった。

あの時も、目が醒めるなり言われたんだよな。「帰れ」って、一言。


勝手に邸に来て、勝手に頭を打って気絶したんだから、お前が悪いと。ステラに近付くなと、追い払われた。お前は本当に、ず~~~っと変わらんな、アイザック。ああ、ネイサン。お前が今、何を考えているか、俺にはわかるぞ。アイザックの後頭部をぶっ叩きたいんだろう? 俺も同じくだよ。いけ! ぶっ叩いてしまえ!!


ところで、その人語を話す(?)真っ白で馬鹿でかい狼は何者なのだ? 

真白って、ステラの愛馬の名前じゃなかったっけ?



「坊ちゃん。かいつまんで、状況をお聞きしても? でないと、若様と真白にUターンさせられますよ?」

「単独で抜け駆けしたネイトには言われたくないが」



ネイトを睨みつけ、ネイサンがやれやれと息を吐き続ける。



「カイがカールを連れて来て、それからベルトランと一緒に、王宮正門に転移してさ、そしたら大変だったんだよ! あ、さっきも言ったけど、母上の許可は貰っているからね! ステラ!」

「ひとまずはわかった。引率はカイなんだな。で、カイはどこにいる? なんでネイサンだけ単独でココにいるんだ?」



カイを見つけて吊るし上げてくれる! と腕を捲るステラの前で、ネイサンがツラっと爆弾を落としてきた。



「父上たちの方の()父上と、()教皇と、()王陛下がヤバそうだから、って飛んでった。()()()にはステラと兄上が居るから合流して指示を仰げって」

「……カイが丸投げしたのはわかったが、何なんだその、()父上と()教皇? って、何がなんだか」

「その辺りはカールに聞けって」

「その()()()をどこに置いてきた? それに、何が大変だったんだ? こっちだって真白のお陰で、セオとレオ叔父上の闇化をやっと解呪したばっかりで―――って、あ、そういうことか」



話しながら何かに気付いたのか、ステラが、アイザックとネイトを見やった。

何かが腑に落ちたように、三人が腕を組んで頷き合う。



闇化。

ああ、確かに。


自分の心は、アイザックへの悪意に捕らわれていた。

ステラを奪うアイザックが憎くて、ステラが真っ直ぐに見つめるアイザックを消し去りたくて、心を闇に捕らわれて、真っ黒になって―――。アイザックを、殺そうとした。


ぶるりっとセオドアの全身が冷たく震える。

負の心を全身に広げられ思考を絡め捕られて、暗闇よりも暗い真っ黒な何かに、自分は、闇の傀儡とされていた。金色の目をしたバケモノに、自分は喰われかけた。その事実を正しく理解して、心臓が凍るほどの恐怖にセオドアは両手で胸を掻きむしった。その時だった。



「セオ。もう大丈夫だ」



ふわりっと、ステラの腕が自分を包み込み、やわらかく抱き締めてきた。



心臓が、止まるかと思った。

ステラが、自分を抱き締めてくれた。


その事実が、セオドアのすべての時を止めた。



「金瞳の闇は、真白が払ってくれた。もう、大丈夫」



ステラの手が髪を撫でて、背をポンポンと癒してくれる度に、闇によって捻じ曲げられたアイザックへの悪意が払われていく。光に満たされるみたいに、体が、あたたかくなってくる。




ああ、そうだ。

あの時も、そうだったと、セオドアは思い出す。




幼いステラを、スタンレイから排除しようとした双子の悪意に驚いて、顔を青くした自分をどうとったのか……。小さなステラの手が自分を抱き締めて、やさしく背を撫でてくれた。


物心がついた時から、母上にだって、こんな風に抱き締めて貰った事はなかったから、本当に驚いたんだ。


自分は次代の王となるために、厳しく育てられてきたから。


こんな風に誰かに抱き締めて貰ったのなんて、いつ以来だろう。それも、こんな、自分よりも幼い小さな女の子に―――。


ステラの小さな手に抱き締められて、何故だろうか胸に込み上げてくるものがあって、涙が滲んできた。


自分は、母親の温もりに飢えていたんだと、その時に自覚した。


でも、そんなこと言葉に出して言えるはずもなく、どうしてよいか分からず石の様に体を固くした自分に、ステラは言ったんだ。




「私が守るから。もう大丈夫」




顔を上げたら、ステラが優しく笑っていた。

その顔も、言葉も、あたたかさも……幼い時から変わらない。


いや、女神みたいに、綺麗になった。

けれど、お日様みたいに輝いて、あったかいその笑顔は、やっぱり、あの時と一緒だ。



あの時―――自分は、ステラにもう一回恋をした。



―王子殿下が、オレの何を好きだと言っているのかがわからない



幼い君はそう言ったけれど、これで惚れるなって方が、難しいとは思わないのかい? 『私が守る』なんて殺し文句を言われたら……胸を射抜かれて、惚れるしかないだろう。




「あああ~~~?! 王子殿下だけッ!! ズルい!! ステラ!! 私にもっ!私にもハグとぽんぽんしてくれっ!!」




アイザックに追いやられ、瓦礫の中に埋もれて屍と化していたレオナルドが、疾風の様に飛びついてきて、辺りに響き渡る雄叫びを上げる。


レオナルドは腕の良い信頼のおける騎士団長で護衛ではあるものの、ちょっと、空気を読む勉強をして欲しいトコロである。なんて考える間もなく、レオナルドを超える速度で現れた、アイザックとネイトにより、憐れ、レオナルドは再度排除された……。


レオナルドは、回廊上部のテラスの上まで、飛ばされた。



ああ、次の標的は、自分のようだ……。



自分に振り向くアイザックとネイトの目は、嫉妬に爛々と輝いていた。

次は我が身であるのは理解したが、ステラの腕の中は離れがたくて、セオドアは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


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