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64:異常世界4ーリアムとステラ


巧妙に隠された異次元空間の処刑部屋に、蟲毒の檻は、あった。

だが、そこに、リアムの痕跡の欠片を、見つける事は、出来なかった。


――あら、残念。

  もう、溶けてしまったのねえ。


「あの女の、あの言葉は、絶対に許しはしない」


ケラケラと甲高い笑いを響かせて、貴族用の刑罰塔に連行されていく、エリザベスの声音が、今も耳にこびり付いている。と、シリウスは冷たく笑う。


「あの魔女と魔人は、どうして今も生きているんだ?」

「当時、王宮は時代の王を誰にするかで、二派に分かれていてね、第一王子派が、擁護して―――リアムは、平民よりも下の階級からの出身だから……誰もかれも、彼の死を、黙認したんだ。更に、あの魔女とフレドは、王家の血が濃いからと、無罪放免にされた」

「……腐ってるな」

「ああ。あんなにも神に祝福された高貴な魂なんてないのにね、誰も、それに気付きもしなかった……我々以外にはね」


涙を流さないだけで、シリウスの顔は悲しみに打ちひしがれていた。

魔人の狙いは、そこにあるのだろう。

悲しみ、憎しみ、そして憎悪の塊となって、魔に落ちて来るのを狙い、こんな異常な世界で、見たくない最悪の記憶を見続けさせるのだ。


だが、魔人は知らないのだ。


「そんなに、大切だったのか?」

「ああ、愛していたよ。誰よりも、世界の何よりも。君なら、わかるだろう?」


大切な光。ステラを思い出すだけで、なかったはずの心に明かりが灯る。

闇を照らす光が、自分達を、守ってくれる。

あたたかな光が、自分を、あるべき場所に、導いてくれるのだ。


「僕達みたいに、少々一般と違った人間にとって、リアムは、光だった。僕らは―――諦めなかった。リアムが、あの美しい魂が、たかが蟲毒の檻程度で、消せるわけがないから」




アイザックの目の前で、世界の情景が変わっていく。




父上がお祖父様を動かし、ただ一人の人を探している。

王となった、クリストファー叔父上も、膨大な政務と同時進行で、常にその人を探している。

まだ早いという周囲をねじ伏せて魔塔主の位に付いたカイ・フォーダムが、魂を探す魔道具の研究を急ピッチで行いだした。

そして、神聖神殿の教皇となったシリウスは、持てる全ての力を使い、リアムを探していた。




「リアムは、蟲毒の毒に全身を犯されながらも、自力で作った異空間に、逃げ込んでいたようでね。でも、自分の生存が公になる事をよしとせず、その身を隠した。僕達を、守ってくれたんだよ、自分が表に出なければ、このままクリスの治世が続くから……」




スタンレイ邸から、王宮、魔塔、神殿と次々に流れる情景が、王国の外縁に飛び、家とも言えないバラックが立ち並ぶ貧民街の川縁のゴミの山を映し出した。


ぼろぼろの衣服をまとった男がひとり、そこに立ち尽くしている。

どう見ても最貧民にしか見えないのに、背筋はしゃんとしていて、その立ち姿だけで、彼が教育を受けたひとかどの人物であるだろうことがわかる。


伸び放題の汚れた白髪を後ろに無造作に結んだその男が、ゆっくりと膝を付いて、何かを抱き上げた。


生まれたばかりだろう、赤子だ。

鳴き声を上げないところを見ると、もう、その命は尽きているのかもしれない。


王国市民から見たらゴミ溜めである貧民街の、更にその中のゴミ捨て場に打ち捨てられた、薄汚れた赤ん坊。

命とは、祝福を受けるものであるはずなのに……あまりに悲しく哀れな状況を目にして、アイザックはそれから、目を反らそうとして、シリウスに顔を引っ張り戻された。




「目を、反らすな」

「………?」




白髪の男の腕の中の赤子の髪は、薄汚れてはいるが、青をうつす銀色をしていて、まだ生きていたのか、微かに震え開いた瞼の中から、美しいアメジストの瞳が、現れた。


『むささき……』


赤子を抱く男の口から、言葉が零れた。

その声に聞き覚えがある。

赤子のアメジストの瞳を、驚愕の表情で見つめる彼の瞳もまた、紫のアメジストの色をしていた。


白髪の男ーリアムの震える口元に、赤子の小さな紅葉みたいな手が、触れた。


『―――あたたかい……』


赤子の両手が、リアムの顔に触れた。瓦礫の中から抱き上げられた汚れた、それなのに、生まれて生きていることが奇跡のような、美しい赤ん坊が、光みたいな無垢な笑顔を浮かべた。


『あったかい……』


リアムがぽつりと涙を溢した。

ぽつりぽつりと零れ落ちるリアムの涙は、赤ん坊の顔に落ちて、その子が、また笑った。


『俺の、ステラだ。逢える日がくるとは、思ってもみなかった。君の名は、今日から、ステラスタだ。男共をなぎ倒す、カッコいい女に育ててやるからね!』


夜空に一番に輝く星の名。


世界でただ一つの宝物を見つけたみたいに、リアムはステラを抱き締めた。




「僕たちの光が、それにも勝る光を、見つけた日だよ」

「―――……まさか、本当に、ステラ……なのか?」


いや、アレは、間違いない、俺の、ステラだ。


「あんな、場所に……捨てられて、いた……?」

あの、何よりも大切な、俺のステラが。あんな、ゴミ同然に―――。

どうにもできない、誰に当たり散らすことも出来ない怒りが、アイザックの中に渦巻いていた。


ーー師匠に拾われる前のことは、何にもしらない。


ステラ……。

ステラに、逢いたい。

逢って、抱き締めて、俺の為に、この世界に生まれて来てくれたのだと、お前の生まれを祝福して、上書きしてやりたい。


「これは、リアムとステラの出会いの過去で、真実だ。こんなことで、そんなに心を真っ黒気に落とすんじゃあない。二人に、失礼だ」

「――――――」




二人は、ゴミ溜めの中で生きていた。

たった二人だけの世界で、身を寄せて、唯一持つ体温でお互いを温め合って、笑っている。

今日の食べ物もないようなギリギリを通り越した、生活とも言えない、生を、生きる。

それも、ただ、生きるのではない。


リアムはステラに教育を施し、剣を教え、武を伝える。

ステラは、それを、砂が水を吸い込む様に吸収し、汚れた世界と汚れた体とは真逆に、どんどん魂を輝かせていく。


ステラは、輝いていた。

その魂は何よりも清浄で、光り輝き、人の生きる最下層の貧民街の中で、そこに生きる人たちの希望となっていた。




「二人は、魂で繋がっていたんだ……」

シリウスの言葉の後に、世界が、暗転した。




ステラが川縁の闇の中に、立っていた。

まだ、年の頃は4~5歳位だろうか?

その表情は、無、だった。

何も映さないアメジストの瞳に炎が映り、それがゴウゴウと燃えている。


炎の中には、動かない人影がある。

その人影は―――。




「リアムが、死んだ日だ」

「――――――あの、炎の、中……は」

「ステラが、一人で、荼毘に付したんだ……。火葬にしないと、獣に、食われてしまうからね……」


あの幼さで、ただ一人の家族を、たった一人の人を見送るだなんて、どれだけ……。


「この記憶は、あのくそったれ魔人が、死したリアムの魂から抜き取ったモノらしい……。死者を愚弄するにも、程がある」

「リアムの……ステラの師匠の、死因も、アイツの?」

「いや……リアムは、蟲毒の檻で全身を蝕まれていて……。アイツらの罠と檻から自力で抜け出せたものの、命の期限は、長くなかったのだろう……」




そうして、ステラは一人になった。

アイザックとの出会いが、目前に迫っている。


わたくし・・・左手首を、折っちゃいまして(泣)

お陰さまで、タイピングがかなりツラク・・・作品投下が少々遅れています。


「何やらかした?!」と思われる方は、活動報告の方をご覧ください。

情けない事の顛末を書いております・・・。(本当に情けない・・・)

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