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55:兄上現る

新年あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。


ーステラー



じわじわと広がっていく空間の亀裂から伸びてくる、小指に絡みついた銀糸の光の糸から、自分を呼ぶ声がする。

それが誰かなんて、ステラには考えなくてもわかる。

それは自分にとり、なりよりも大切な人の声だから。


「なんでまた……こんなとこに閉じ込められているんだ」


ステラがぽつりと銀糸の糸に向かって呟く。

本当になんてところに居てくれやがるんですか。どこを探しても見つからないはずだ。

どれだけ心配して、どれだけ私の心が死にそうに痛かったかなんて、知らないでしょう?



ー俺を呼べー



「兄上らしくもない」

亀裂に向かって、ステラが呼び掛ける。

亀裂は今や線ではなく、指を掛けられそうにその幅を広げつつある。


「お迎えに参りました。これ以上もたもたしてるんなら、私は、魔の森に帰りますよ。賭けは、私の勝ちとなりますが、よろしいですか?」


やっと見つけた。

凍り付いた心臓が、どんどん溶けていくのがわかる。



ー………駄目に決まっているー



「早く出て来て。アイザック」

全ての想いを込めてその名を呼ぶ。


ばりん!っと、音を立てて、亀裂が一気に広がりステラが施した魔術陣全てが、ガラスが弾けるように粉々に散った。


魔術陣が砕けた破片は刃となり、一斉にある一人に向け降り注いだ。


「なっ―――?!」

標的となったフレドが、それに気付き声を上げる。

エリザベスとレティシアを奈落の底に叩き込むことに悦楽を感じ、ステラが味方に向け結界守護の魔術を施しているのを放置していたことが徒となった。



「アメジストの魔力を―――呼び水にしただと―――?!」



魔術陣が砕けたそこは空間亀裂と同調し、ヒビを広げ、光の閃光が周囲を切り裂く。

光が眩し過ぎて誰もが目を開いていられない。

全身を焼き付ける様な光から身を隠し蹲る人達の中で、ステラは一人そこに立ち続け、光の中から現れた人影に向け、両腕を開いた。



「おかえりなさい」



腕の中の質量は、体が覚えているものと全く同じ。

温かさもなにもかも……涙が出る程に、同じだ。


ぎゅうっと背中に回した両腕に力を込めたら、本当に泣けてきた。

兄上がここに居る。

やっと、戻ってきた。


顔を上げることが出来なくて、その胸に顔を押し付けていたら、自分が抱き着く以上の力で痛い程に抱き込まれてしまった。

背がしなり、息が止まりそうだ。

息も出来ない位に抱き締めてくるその腕が、微かに震えていると思ったのは、気のせいではないと思う。



「―――……ステラ」



頭上から聞こえてくる兄上の声も、震えている。

あの兄上が?

抱き締めた腕を伸ばして、さらりとした銀糸の髪に触れてみる。

手を滑らして、頬に触れると、吃驚するくらいに冷たくて、驚きに顔を上げようとしても、上げられない。

抱き込む腕の力は緩むことはなく、骨が軋むほどに、更に力が込められてゆく。


「……ステラ」


名を呼ばれているだけなのに、背中がぞくりとする。

このままでは、兄上の中に自分のこの身が取り込まれてしまうのではないか。と恐怖すら浮かぶほどの、渇望を感じる。


「ステラ」

「はい」


やっと二文字だけ声を絞り出せた。

そんなステラに、アイザックがぽつりと一言呟いた。


「死にそうだ」

「はい?」


兄上がこんなことを今までに言ったことなんてない。

金瞳のいう深淵に落とされ囚われて、一体どれだけツラい時を過ごしてきたのか。

あの野郎。ただではおかない。

ステラが決意を固めたその時に発された思いもよらないアイザックの言葉に、今度はステラが凍り付いた。


「ステラが足りなくて、死ぬ」


時が止まったかと思った。

「は?」

「どれだけステラに触れることが出来なかったと思っている。本気で死ぬかと思った」


この人、本当に兄上か?

自分の知る兄上は、こんなことを言うような人では、なかったと記憶している。


別人?ではないな。

この腕の感触と、全身に感じるあたたかさと、匂いは、間違いなく兄上だ。

別世界に落とされて、まさかの別人に変わって戻ってきたとか、言わないよな?



「ああ~~~。戻ってこれた。ラッキーラッキー」



兄上の背後から聞こえてきた、聞いたことの無い声。

声から想像すると、割と若めの男性のようではあるが、如何せん目を向けることが出来ません。

顔を上げて覗き見したいのだが、兄上が自分を抱き込む力は更に増し、身動き一つ出来ないので、無理でした。


「「兄上!そろそろステラを離して下さい!!って、あんた誰?」」

「流石、若。よくぞご無事で。って、どなたですかこの方?」

「憎まれっ子世に憚るっていいますものね。ところで、どちら様ですか?」


全員が全員初対面なのは確かなようだ。

ステラの視界は今の時点、アイザックの胸板だけなので、周囲は全く見えないままである。



「教皇―――……!」



地獄の魔王の様な地響きがするような低い声が、正体不明の声の主を呼んだ。

呼んだ。は、いいけど、教皇?教皇って、神聖神殿の教皇猊下のこととか、言わないよね?


「やあ、フレド・クラレンス司祭。随分な目に遭わせて頂いて……お礼申し上げますよ。はっはっは。いやあ~なかなか体験できない異常世界でした。お礼は、百倍返しで宜しいですか?」


とても優しい親愛の情の籠った声音であるが、言葉の端々に棘と毒が出まくっている。

教皇と呼ばれて「否」と言わないところを見ると、もしかしての本物だとは思うが、声だけ聴いていると、黒々とした裏が見えるのは、自分の気のせいではないと思う。


悶々と考えてみても答えは出ないし、何も見えないこの世界をまずは何とかしないといけない。

金瞳だって階上にそのまま居るだろうし、ウィスラー母娘だって、まだそこに居るはずだ。


「兄上。ちょっと、離してもらえると助かる」

「まだステラの充電が満充電になっていないからダメだ」

「―――何言っているんだ、兄上?」


さっきは一瞬本物の兄上かと疑ったりもしたが、やはりこれは本物だ。と、その時ステラは理解した。


やっと兄上復活です。

次回、満充電が完了するのか?(笑)

続きを今年も読んで頂けたら嬉しいです。


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