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54:兄上への糸口


「フレド!(わたくし)は、お前の言う通り、お前があの下賤の女を生贄にして、今の王宮を粛正し、正しき血の元に全てを正すと、そう約束したから―――その為に、デイビッドも全てを使って―――?!」


わあ。可哀想にデイビッド第二王子殿下。

随分なことを叔母君がおっしゃっておりますよ?


デイビッドも全てを使ってって、学院での強襲もデイビッドの暴挙も、あなたの指示ってことになるのだろうか、エリザベス殿?

そうなると、スタンレイがウィスラーを更地にする理由としては満点の言質を取れたことになる。


「録音した?」

「完璧」

「ついでに、父上とお祖父上に同時通電中だ」

双子の安定の返答にステラがひとつ頷いた。さすが双子、この辺りに抜かりはないようだ。

ウィスラー公爵家、スタンレー(うち)にも王家にも邪魔だったもんね。


床に倒れ伏しながら金瞳の「フレド」の足に縋り付き、それでも甘えた女のイヤらしい視線を彼に向けて、エリザベスが彼に向け声を上げる。

「フレド。わたくしは」

「お母様?!お兄様を使うって、一体……?!」

ブリザードが治まったとはいえ惨劇の状態の只中にある大階段を駆け上がり、母に詰め寄るレティシアの顔色は真っ青だった。

「デイビッドなど、どうでも良いのです。あれなど聖なる血を持たない女の腹から生まれた、半分下賤の血が入った者ですもの。レティ。正しき王家の血を正しくその身に宿すのは、わたくしと……の可愛い娘である貴女と―――」


向う側では得体のしれない謎の茶番劇がスタートしているが、そちらの事はこちらにはどうでも良い。正直生々しくて聞くに堪えない。好きに進めてもらって構いません。



自分が知りたいのは、たったひとつ。



「金瞳。兄上をどこへやった?」

「兄上―――ね。ひとつ聞きたいのだけれど、()()()は、お前の何なんだ?アメジスト」



相変わらず金瞳とは階上と階下と距離が離れているというのに、すぐ側でのような会話が成り立つ。

先程までの上機嫌はどこかに消え失せた、残忍な笑みを浮かべた金瞳のフレドがステラを射てきた。

「兄上は兄上だ。なら、お前は何だって言うんだ?」

「私?私は私だよ。昔から、変わらない。そして、()()()もな―――。()()()()―――邪魔なんだよね、あの男。いっつも、アメジストと私の邪魔をする」


昔っから。

いっつも。


自分の正体を明かしもせずに、何言ってんだこいつ?

一応は司祭に擬態し、ウィスラー公爵家の庇護を受けているらしい事だけは一見してわかるが、予想出来るのはそこまでで限界だ。というか、それ以上は考えたくも、知りたくもない。


自分と金瞳の邂逅は、記憶にある限りだと過去に一度だけ。それも、対峙した時の完全な記憶が、ステラには何故かない。知っているとすれば、この場にはただ一人しか、該当者はいない。


「ネイト」

「う~ん。確かに()()()、若は大喧嘩してましたがね。それだけって感じじゃないですよ、あちらさん」


周囲のウィスラー家の家臣団をつらりと見渡して、威圧と牽制で全てを黙らしたのちに金瞳のフレドがゆっくりと口を開いた。


「私が欲しいのは、今も昔もお前だけだ、アメジスト。お前が私のモノになれば、お前の兄上とやらもこの世界に戻してやるし、()()()、お前の望み通りすべてを無に帰してやる」

「――――戻す、だと?やはり、お前が兄上を」

「邪魔だったんだ。お前を得るのに」

「フレド!!あなたは、何を言っているの?こんな下賤とも呼べない人とも言えない最下層の生き物がなんだというのですか―――?!あなたがこの下賤の女を生贄にするというから、私は、狩場を用意したというのに……!フレドリック・チャールズ・ステイビア!貴方はこの国の王になるべく生まれた、私と―――」

「煩いご婦人だ」

「ひいっ―――!!


金瞳はエリザベスの顎を彼女の輪郭が歪むほどに握り上げ、その体を高く掲げ上げた。

彼女の両足が床から離れ、ころりと豪奢なハイヒールが脱げ落ちる。


「ご苦労だった。()()()()を這いあがれない深淵に突き落とせた功労については、褒めてやる。だがなあ、それだけだ。お前たちの功など、ただ、それだけ」


フレドリック・チャールズ・ステイビア。

って、それがフレドと呼ばれる金瞳の名なのだろうか?

ステイビアを冠することが出来るのは、王家の直系男子のみ。

それが本当の名だとすると―――あまり考えたくない事態の突然の推移に、ステラは頭を抱えた。

「考えたくない……」

「俺もっす」

「「「同じく」」」

一同全員でこの場を去りたい気持ちが合致する。


「ひとまずもう一回言うけど。退避してくれないかな?」

「「「「嫌です」」」」


じゃあ。もう知らないよ?

2回聞いたからね。この後は自己責任でお願いします。


ステラは向う側で続いている茶番劇に付き合いきれなくなったので、このスキにっと、大切な人達への結界守護の術式を展開しだした。

「お嬢?」

「なんかもう、馬鹿馬鹿しくなってきた。大分真面目に怒ってたし、大分真面目に更地にする気だったんだけど、あっちの茶番でかなり頭が冷えてきた」


てんてんてん。と空間に魔術陣の印をついて、あれ?とステラは首を傾げた。

ステラの目には空間に微々たる亀裂が見えていた。

自分の大切な人達を守るために敷いた魔術陣に、何かが反応している。


空間の亀裂は言ってしまえば、蜘蛛の糸を思わせる程の薄く細い線でしかなく、目を凝らさなければそれとは気付かない程のものだった。

でもそれは、ステラの目には見えていた。


プラチナの微かな一筋。


それは、アイザックの髪の色と同じ。

手にしても見えない程の、薄い光の線。

ステラの小指にやんわりと纏わりついてきた銀糸の光が、彼女を呼んだ。



「あにうえ―――?」



辺りには、エリザベスの断末魔の金切り声が響き渡っていた。

「アメジストと私の邪魔をするなど、一瞬で消し炭にしその存在をこの世から消し去る事も生ぬるい。怨嗟の地獄で、生涯消えぬ業火で焼き尽くしてやろうか。焼き尽くし、また元に戻し、更に焼き尽くし―――一生地獄の輪廻から出ることは叶わない。犬畜生にも劣る所業で俺をこの世に生み出したお前には、お似合いな結末だなあ」

「お母様?!」

「更にこの女と血を繋げ、血を濃くしろなど?本当にイカれたブリーダーだよ、あんたは」


金瞳の冷たい侮蔑の視線に震え上がりながらも、レティシアは渾身の力を込め声を上げた。


「お母様を離しなさい!例えお母様が重用した司祭と言えども許しません!!」

「お前などの許しなど不要だ。汚れた女の産んだ、この世の汚泥のような、妹よ」

「え………?」


う~~~ん。向うからの声と言葉で情報過多になり過ぎですが、今はこっちが重要だ。


小指に絡みついた光の糸をついっと引っ張るステラのその先に、空間の亀裂が伸びて行った。


前回、投稿間隔を戻すと言っておきながら、更新間隔が空いてしまいまして大変申し訳ありませんでした。

のっぴきならない事情が終わった後で、大風邪を引き寝込んでおりました。

やっとちょっとPC画面前に居ることが出来るくらいに体調が戻りました・・・

風邪・・・恐るべし・・・皆様もご自愛ください。今年の風邪は半端なく辛いです・・・。

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