49:デイビットの行方・・・
兄上が、帰ってこない。
あの一件から、すでに1週間。
襲撃者の氷柱群調査を大体済ませた父上は、その全てを解凍せずに、そのまま、国王陛下に送り付けた………。
無論、第二王子殿下の氷漬けも一緒にである。
父上の本気の怒りと、スタンレイ一門末端に至るまでの一族郎党全ての一斉攻撃プラス職務一斉ボイコットにより、王宮を含む王都全域の都市機能は一時停止していたらしい。
スタンレイ一族―――――恐るべし。である。
事態を重く見た国王陛下は、父上の希望通り、第二王子殿下と襲撃者一同を、王宮正門から伸びる中央回廊に、本当に展示した……。
展示期間が、氷が溶けるまでって、本気ですかね。父上?
あのお祖父様制作の氷漬けですよ?
下手をしたら、来年位まで溶けないかもしれません………。
あげく、展示先が中央回廊とは―――見せしめの意味でも、これ以上の場所はないですね。
王宮に集う者が必ず通らねば先に進めない要所。それが、中央回廊である。
すなわち、王宮に勤める者、見学などで訪れた者、商業的な目的な者、政治的な目的で来た者―――――全ての衆人の目に晒される一番の特等席に、デイビット第二王子とその仲間たちが展示されたのである。
それも、ご丁寧に立看板つき。らしい。
「それはそれは見事な装飾が施された、りっ、立派な、看板でした………」
ふるふると肩を震わせて口元を両手で隠し、ビアトリスがその髪色と同色なほど顔を赤らめている。
理由は、わかる。わかりますとも。
「――――見に行ってきたんだ。ビー………」
ステラとビアトリスは、愛称で呼び合えるほどに仲良くなっていた。
小さく息を吐きながらステラが言葉を零すと、ビアトリスはもう我慢できないとばかりに大きく笑い出した。
「あの間抜け面―――もとい、日頃いつも上から目線で取り澄ましていらっしゃる第二王子殿下の、あのお顔は――――――――見ておかねばならないと!遂に辺境からのツアーまであるらしいですわよ?!」
哀れデイビッド。
彼の氷柱は今や王都の一大観光スポットだ。
幼い頃からあれだけ偉そうに敵ばかり作ってきたあの馬鹿者は、出会ってからの年数と比例する位の回数を兄上に氷柱にされてきたけれど、今回の制作者はお祖父様だ。仕上がりが流石に違う。
魔王を前にして腰を抜かし命乞いのスキすらない恐怖を超越し、鼻水を垂らしたマヌケ顔は――――彼の内面を大変わかりやすく表していると言っていい。
今まで、周囲に甘やかされて誰にも行く手を阻まれず、傍若無人に誰も彼もを傷付けてきた、全てのツケが、一気に返ってきたんだろうね、デイビット。
哀れとは思うが同情はしない。
ざまあみろ感が勝ってしまうのだ。
これからは今回の「評判」を背負って生きて行ってください。マル。
「ステラは、見に行かないの?」
「家で散々見たしね。今はさすがに邸から出るなって、父上達からの厳命が降りてる」
「ああ、それで監視役がこんなに居るのね。可哀想に」
本当にそうなんだよ。ビー。
わかってくれるんだね?
さすがの女友達だ!
今やステラは初めてできた女友達に夢中である。
でも、女同士のみの楽しい茶会を行うなんてことは、まだまだ、無理なんだろうね?
ステラはちらりと周囲に視線を回した。
ステラは3人掛けのソファーに座っているのだが、両脇には双子と末っ子のジョシュ。4人一緒に座れば流石にギチギチである。
ソファー後ろには当たり前の顔をしたネイトと、今回の一件以来増やされた、護衛騎士が2人。
対するビアトリスの後ろにも、これまた護衛騎士2人がすまし顔で控えている。
「しばらくは、諦めて下さい。お嬢」
「「「ネイトの言う通りだ。ステラ」」」
男三兄弟の声が揃う。
こういうときだけ、息が合うよね君達三人は………。
「ところで、赤狐。その傑作だったって立看板。氷柱のお題目が凄いって噂で聞いたけど、何て書いてあったんだ?」
「鬼双子兄!いい質問だわ!」
ところで君達のお互いの呼称は、それで良いのかな?
誰からも、異議申し立てもないのは知っているけど。
ねえ、ビー?イーサン?
すくっと立ち上がったビアトリスが、えへんと胸を張って発表した。
「新旧魔王共同作品『逆鱗に触れる』」
そのままズバリだな―――――――――――。
誰だいそんなタイムリーな名言付けたヤツは?
「命名は、第一王子殿下デス」
げらげら笑う双子の笑い声の中、後ろから教えてくれたネイトの言葉に、ステラは乾いた笑いを零すしかなかった。