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47:金瞳の魔人

見上げた空は群青色で、星が輝いていた。




時間軸がどうなっているのか、よくわからない。

王宮外郭のゲートに飛び込んだ時は、ガーデンパーティの終盤もいいところだったので、日暮れ前の時刻だったはずだ。



あの異空間。

文字通りの不思議空間だったのだろうか?



こればっかりは仕方があるまい。と考えても無駄なことを考えるのは止めて、現状確認にステラは周囲に意識を向けた。

「キ?」

右肩に乗った真白が「どうしたの?」と言わんばかりに、頬にすり寄ってきた。


「うん?現状把握しようと思って。私の魔術転移術がうまく出来てれば、ここは、スタンレイ領のゲート近くの森のはずなんだけど――――――」


思いの外、様子が違う。

スタンレイ領ゲート近くの森は、スタンレイにより管理されていて、「森」とは言えども木々の下枝は払われ、木々の下草も刈られているはずだ。

だというのに、ここは、それとはまったく違う。


木々も下草も鬱蒼と茂り、人の手が入っているとはとてもではないが言える状態ではない。

今立つ場所は小川があり、川に沿って少々開けているので、夜空を仰ぐことが出来るが、その先は月明かりも差さない真っ暗な森が広がっている。


「あれ?」


この小川には、見覚えがある。

「ここ――――――」


小さな川ではあるが川べりには平たい大きな岩が段々に重なり、薄く水が流れていて―――夏の暑い時期などにそこに横になりさらさらと水を浴びるのが、ステラは、好きだった。

階段状になったそこの岩から西に向かって森を進むと、古い断層のズレか隆起かで壁みたいにそそり立つ岩壁があり、洞穴ー秘密基地ーが、ある。


「魔の森か?」


そう考えるか否かの瞬間に、ステラの足は走り出していた。

戻ってきたのだろうか?

自分の「家」ともいえる、師匠と暮らしたこの森に。



「ギッ――――――!!」



右肩に乗った真白が警戒心剝き出しに毛を逆立てて、牙を向ける。

暗闇の魔の森には、闇という闇に、魔獣が潜む。

赤い目、紫の目、黄色の目――――――すべては警戒せねばならぬ、危険魔獣の色だ。


ステラは首から下げた肌身離さずのチェーンを引きちぎった。

ペンダントトップにしていた師匠形見の長剣が、ステラの手の中で輝きを以て本来の姿へと戻る。


剣を構え魔獣に対峙しようとしたステラだったが、ふと眉を寄せ、剣の構えそのままに闇に鈍く光る魔獣の目を睨み据えた。



魔の色の瞳には、生気が見受けられないのだ。



「――――――――死んでる?」

「お前の目、魔の色だな」



森の闇よりも濃い、地の底からの響きを感じさせる声が、冷たく呟いた。



「アメジスト。お前は、魔物か?」

闇が固まり人型を取ったように抜け出てきた声の主は、冷笑を浮かべながらステラを瞳の色で呼んだ。


ステラの事を魔物扱いする声の主は、闇の塊みたいに現れた割に、髪は雪の様に白く、瞳は―――夜空に輝く月の様な金色をした、綺麗な青年だった。

こんな場所で会わなければ、高位貴族の子息といった、眉目秀麗な姿ではあるものの、ステラは近寄ることを躊躇した。


彼の全身は、血塗れだ。

真っ白の髪は右半分は魔獣の返り血で真っ赤に染まり、白い肌にもその鮮血が流れている。


その手には狩ったばかりだろう魔獣の首。

魔獣の紫の双眼には生気が完全に消えていた。



金瞳(きんめ)。あなたこそ、魔人か?」



ステラは、この森で初めてアイザックと会ったあの日の事を思い出していた。

アイザックは無表情で氷の人形かこれっぽっちも動かない彫像のようで、人間?と聞きたくなる程ではあったが、人であることだけは理解できた。


あんなに冷たい顔で表情なんて全く動かなかったけれど、兄上の暗青色のサファイアの瞳は、自分を見つけた時に――――光を灯したから………。


対してこの目の前の金瞳はどうだ?

―――人と呼ぶにはかけ離れ過ぎた、稀有な闇の生き物に見える。



「ほお。良くも言ってくれる」



手にしていた魔獣の首をつまらなそうに足元に投げ捨て、それを踏みつけて頭蓋を砕くと、彼はゆっくりとステラに近付いてきた。


「お前、見かけは子供のくせに――――――様々な命を絶ったことがあるな?」

「自分の、命を守る為、命の糧を得るために」

「綺麗ごとを―――。そうではない、獣でも、魔獣でもない、血の匂いがするぞ?」

ステラはぴくりと肩を揺らした。




「――――――――清廉な姿でありながら、隠しきれない汚濁が見える。お前は、俺と、同種だな?だというのに………その剣は、()()を継ぐものでもある。清濁混じりあうお前が、これより、何者になるのか、見物(みもの)だな」




金瞳が微かに目元を緩めて、するりとステラの青を映す銀髪をひと房すくうと、それを口元に当てて冷たく笑った。

「アメジスト。お前の肩に居る()()()()魔獣が、これからどれだけ闇に染まるか…………楽しみに俺は、待つ。それまで――――――」




瞬間、ステラは理解した。




この目の前の金瞳こそが、師匠が「片付け残したモノ」と言った―――――――――怨嗟(えんさ)の闇の魔物だ。

師匠の剣を無意識に、師匠に習った型の通りに体が振り抜いたが、そこには何の感触も、何の手応えもない。




『アメジスト。お前も、楽しみに俺を待つがいい――――――』






・・・






見上げたそこは――――――見慣れた、スタンレイ邸自室の寝台天蓋だった。



「ステラ」



兄上の声が耳を打つ。

視界に兄上の顔が割って入り、無表情の氷の鉄仮面のくせに、暗青色の瞳がこれ以上ない程に心配な色を湛えていて――――――視界が、ぼやけていく。

「ステラ―――」

ぎゅうっと抱きしめてくるアイザックの腕の中で、ステラは声を殺し息を潜めて、泣いた。




泣くことしか、出来なかった――――――。



【読んで頂いている皆様へ】

仕事が繁忙期に入ってしまった為、12月中頃まで投稿が今までよりも遅くなると思います。

今後は・・・もとのモードに戻りアイザックが暴走(あらゆる意味で・・・)するお話に進む予定です。

投稿間隔が空きますが、これからもお付き合い頂けましたら、大変嬉しいです。

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