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45:レオナルド天使と出会う3

ステラは風を切るように走った。

こんな全力疾走は久しぶりで、流れる汗を拭い笑顔をこぼす。


王宮のゲートの場所は把握済で、どうすれば何処に繋がるかは()()()()()理解している。


なんと言っても、国内のゲート製作に関し尽力したのは他ならぬお祖父様で、魔術式構築は()()()()()だけれどもだいたい読める。

ステラは首から下げた師匠からの形見だけあれば、あとは何処でもどうにか生きていける。




ステラはほとほと貴族階級の人間達に呆れ果てていた。

兄上に拾われて早二年。

スタンレイ一族とスタンレイの治める領地の人間は、皆んな良い人達だけれども、王都の人間で更に貴族は本当に、嫌いだ。


なんとか今まで我慢してきたが、もう堪忍袋の緒が切れた。


魔獣とはいえ、こんなに小さな子を面白可笑しく殺すのが高貴な人間の所作であるのならば、自分はこちらの世界で生きていくのは絶対に無理である。


走るステラの肩口に乗って、爪を立ててドレスに齧りついている真っ白の小さな魔獣に、肩から血が滲むのも構わずにステラは口を開いた。


真白(ましろ)!もうちょっと我慢して」

「―――キ?」

「ん?今付けた、お前の名前だ。私?私は、ステラだ!」

3点飛びで樹から樹へと徐々に高く飛び、遂には王城の高い壁の上に飛び上がったステラの肩口で、「真白」は嬉しそうに声を上げて頬に擦り寄ってきた。


「キッ!」

「気に入った?良かった良かった」

耳の間から喉元まで撫でてやるステラに、真白はうっとりと目を細めた。



「何者だ?!」

「――――子供?!」



外郭警備の騎士達が小さな侵入者に気付き集まりだし、その姿に驚き動きを止める。


綺麗に結われていた青を映す腰まで届く長い銀の髪は全て解け、風に舞う。

ドレスは元の形状を成さないものの、ステラの不思議な魅力を損なわず、スラリと伸びた白く細い足を際立たせていた。



「「ご、ご令嬢?」」

ステラを見知っていたらしい騎士の尋ねに、ステラは男前な顔をしてニヤリと笑った。

「さっきまでな」

その立ち姿は、幼いながらも気品ある令嬢というよりは、気品溢れる貴公子の風格だ。



「スタンレイの養女です!保護してくだい!!」

どう移動して来たのか?

更に、どうして追ってきたのか?

レオナルドの姿に、ステラは首を傾げた。



「貴方は、私を追い払えてラッキー。だろうに。何故ここまで?」

「―――――――――――君はっ」

「後の事は宜しくとお伝えしました。――――真白入って」

「ギ!」

襟元を引っ張ったステラの言葉に、魔獣の幼体はレオナルドの位置からでもわかるほど喜んで、ステラの服の中に飛び込んだ。




「ま―――――――――――っ!!」

レオナルドが待てと言う間もなく、ステラは外郭から()()に向け飛んだ。




通常は宙に浮かんでいる、王宮外郭ゲート。

使用許諾が下りた場合にのみ、専任専属魔法師により所定の位置に移動する仕組みとなっている水面(みなも)のように七色に揺れる(ゲート)に、ステラは躊躇なく飛び込んだ。


危険すぎるにも程がある!


そう言葉を発するよりも早く、レオナルドはステラの後を追い、無我夢中でゲートに飛び込んでいた。




・・・




そこは、真っ暗だった。

宙に浮かぶゲートはいつも虹みたいに七色の色を揺らめかせていたというのに、飛び込んでみたら色なんて何もない。真っ暗だ。


水の中というよりは、泥の中の様に、ねっとりとした空気がまとわりつき、体の自由があまり利かない。

何も見えない、何の音も聞こえない、恐怖。

自分の心臓の音だけが痛いほどに、耳を打つ。


「ぐうう―――――っ」

吐き気が込みあげる。

騎士になる為、精神は鍛え上げてきたはずだ。だというのに、自分は、こんなにも弱い。




…………、助けて――――!!

今はもう居ない、ただ一人の人に助けを求めて心で叫ぶ。




近いのか、遥か遠くなのか?

小さな青い光が灯る。

必死に手を伸ばす。

肩が抜ける程に見えない自らの手を伸ばし続けた。




「ひとりの想定だったから飛び込んだのに、二人はやっぱりまだ無理だった。やってくれましたね、叔父上?」

幼い子供の声とは思えない落ち着いた声と、温かく小さな手がレオナルドを両手で包み込んだ。



ふわり。と辺りが明るくなった。

それは、ステラの光。

ステラの全身から発せられる青いぼんやりとした光が、レオナルドをも包み込んだ。



「ゲートの魔術式内のエアポケットに捕まったみたいだ。大丈夫か?」

「な、なにが、大丈夫か、なんだ―――」


真っ暗闇はなくなった。

もう、暗闇ではない。


こんな自分よりも十は幼い子供に、暗闇が怖いなど、悟られるわけにはいかない。

母が亡くなった夜から、暗闇を恐れ克服できない自分がいるなど、知られるわけにはいかないのだ。



虚勢は張ったものの、がちがちと体が震えるレオナルドを静かに見つめて、ステラが右手を伸ばしてきた。

「――――――っ、何を?!」

「よしよし」

「は?」


ステラのまだ幼い手が、レオナルドの髪を柔らかく優しく撫でた。

「っやめろ」

「はいはい」


ステラは今度は両手を伸ばしてレオナルドの頭を抱え込み、背中をぽんぽんと宥めてくる。

じんわりと幼い体温がレオナルドを温めた。


「――――笑えばいいだろう……お前に暴言を吐き続けたこの俺が」

暗闇が怖いなど。口が裂けてもいえない。

「笑わない。落ち着くまで、くっついている」

「キ!」

ステラの懐から真っ白い魔獣が顔を出した。


「真白もいるってさ」

くすくす笑ってステラは、歌うように言った。

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