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39:ステラ襲撃の答え合わせ2

夜も更けたスタンレイ邸ガーデンは、香ばしい肉の焼ける薫りで充満していた。


そんな中で、ステラは何故か邸の料理人と共に、ひたすらに肉を捌き、焼き、集まった関係者にそれを振る舞っていた。




―――どうしてこうなったのか、誰か説明してください。




それもこれも、「肉祭り」がいかに素晴らしいかを吹聴したネイトとネイサン、急遽肉を()()()()()スタンレイ騎士団が悪い。

騎士団は、肉祭りに目がないからな………。


「ステラ襲撃に関しての考察が終了したので、打ち上げには丁度いいな」という父上の手打ちも悪かった。


ほらみろ。

普通に上流階級でお育ちの麗しい紳士淑女であるゲスト達が、ドン引きではないか?


うん。ごめんね?ビアトリス、ヴィクター―――。

串刺し肉は、口でぐわっと齧りついてください。

ソレが、肉祭りでの作法です。



・・・



焼き手が一段落ついたところでステラは気付いた。

お祖父様、兄上、ベルトランと、解凍されたままだった黒装束の8人目の姿がない。


「ステラ」


宴もたけなわの肉祭り会場の端、本来はガーデンを見渡せるテラス席に陣取った父上から手招きされた。


特別(テラス)席に集うのは、父上の他に、セオドアとヴィクター、いつの間に来ていたのかレオ叔父上の姿も在った。


「ネイサンとイーサンは呼ばなくて良いのですか、父上?」

恐らく答え合わせの時間なのだろう。

ビアトリスには聞かせられないにしても、ここで省くと双子の激高が予想出来ますよ。


「ビアトリス嬢につかせるため概要は話してある。大丈夫だろう」

少々込み入った話になるからね。と続ける父上の右隣にひとつ空いた席を促されて座ろうとするも、更に右隣に座していたレオ叔父上に満面の笑みで手を引かれた。


「僕の膝においで!夜になって座面が冷たいよ」

「謹んで御遠慮します」


私を何歳だと思っているんですか叔父上?と若干の睨みを利かして微笑むと、今度は王子殿下が声を上げてきて、面倒くさいに尽きる。


「レオは放っておいていい。こっちへどうぞステラ」

「アイザックがいたら殺されてるぞ二人とも。そして、セオ。君は今回特例だからね?レポート30枚で今回一回だけ許してやれと父上―――前侯爵から言付かっている」

父上の間髪入れないツッコミに、「はい……」と小さな返事を零しセオドアが背を丸めた。


「父上本題をどうぞ」

本題に戻そうとステラが口火を切ると、軽く頷いて父上が話し出した。

「うん。まずね、今回の件は馬鹿(デイビット)の単独行動と、周到な襲撃計画によるものの2つが同時多発的に起きた事がわかった」




デイビットの「王太子になるためにステラを妃にする」宣言は、彼らしい阿呆な何も考えていない単独での思いつきの行動で間違いがないらしい。


デイビットに対しての処断は、すでに国王陛下から父上が一任されてるとのことで、愚行の見せしめでしばらく氷柱のまま王宮ゲートに飾ろうと思う。と父上はこの上なく黒い笑顔を見せてくれた。


「この件に関しては、ステラを嫁にする者を王太子にするなんて言い出した、クリスが悪いからね。あいつにはキチンと落とし前をつけてもらう。君もよくよく理解するように、セオ」


流石、父上。

セオへの戒め忘れないとは、アッパレです。




「問題は、もう一組の方だ。今回生け捕った黒装束への詰問で、奴らが―――10年前アイザックと双子を断続的に襲撃した旧王兄派の新勢力である可能性が出てきた。全ての残党をあの時に潰し壊滅させたはずが、一部貴族を隠れ蓑にして、生き残っていたとは―――スタンレイも舐められたものだ。一族の威信を掛けて、匿った奴らを全て洗い出し、消し炭も残さず一族郎党皆殺しにしてくれる」


うん。父上が本気です。

レオ叔父上が力強く頷いているが、セオとヴィクターは、血の気が引いてますね?

これがスタンレイです。逃げるなら今だけど、もう遅いだろうな。


旧王兄派の狙いはステラで、その理由は詳細までは明らかに出来ていないらしいが、スタンレイに深い恨みを持つ彼らの事である。スタンレイ一族が盲目的に溺愛している養女を誘拐し、スタンレイに打撃を与えることも目的の一つなのは確実だと父上が教えてくれた。


ステラが学院で単独行動となる講義への移動時間を狙い、学院のガードを搔い潜り警備が来るまでの間に誘拐することが狙いだったらしいが、馬鹿(デイビット)のいらぬ行動に足を引っ張られ、ステラの側はあろうことかスタンレイの二大狂犬が守りを固めており、更にはステラと縁が濃かったベルトランの寝返りもあって、事態は彼らの望み通りには進まなかった。



「ベルトランと黒装束には情報漏洩防止の強固な抑制禁呪が掛けられているらしく、口を割ろうとすると自決する。ベルトランと8人目の二人は、こちらに情報提供する意思が見えたから、父上が魔塔に連れて行ったんだ。あそこには、禁呪解除のスペシャリストが居るからね」



解凍と再冷凍を繰り返していると思ったら、口を割りそうな者を見定めていたとは、お祖父様も兄上も見極めが早いというか凄いというか……。恐るべしである。


「兄上も同行されたんですか?」

「アイザックには、黒装束がステラを転移させようとした転移先を調べに行ってもらった。ポイントは父上が割出した―――。その後は神聖神殿の教皇猊下の元にお使いを頼んでいるから、戻りは数日後になるかもしれない」

「ちょっと待ってください。ウィリアム叔父上!」

力の限りの挙手をして、セオドアが立ち上がった。


「魔塔主と教皇猊下とは――――――――父上と叔父上は、ええっと、その、何というか……」

勢い任せに立ち上がった割に、もごもごと口ごもり困り顔でレオ叔父上に助けを求めるセオドアに、父上は面白そうに笑って言った。

「大変な犬猿の仲で、4人が顔を合わせると国が亡ぶ。ってあれかい?」

ああ、それ。自分も聞いたことがあるなあ。とステラも思い出した。



同年代に近い彼ら4人は、実は、王立学院で同じく学ぶ時期があったそうだ。

が――――――。

互いに個性も能力も知力も強く、相容れることは決してなく、更には将来の希望職種もそれぞれに違った彼らは―――寄ると触ると火花を散らし、彼らの荒ぶった後には草も生えないとの伝説を残している。


国王陛下と父上がそのメンバーに入っているということは、マブダチトリオのメンバーだった師匠も、そこに交じっていたろう事は想像するのも容易い。




「ステイビア王国は三権分立を謳っているから、王制と神殿と魔塔が仲が悪いのは良い事だ。問題ないよ」




何故だろうか。言っている言葉は辛辣なのに、父上の顔はなんだか嬉しそうに見える。

それは、師匠の思い出を語る時の、寂しいけれども幸せだった時を想う、何とも表現しにくい儚い憂いを含んだ嬉しそうな顔と同じだった。

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