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37:【閑話】ネイサンのここだけの話

ここだけの話です。

兄上は、ズルい。と思います。


いつもいつもいつもいつも―――――――!!

ステラを独占して、ぎゅうぎゅうに抱きしめて、誰にも渡さないと、寄り付く男を牽制し、潰しまくり、決して側には近付けない。

それは、対外的な虫除けには大変有効で有難いのも確かだけれど、内部的もそうだから始末に負えない。




本当に、ここだけの話です。

僕は、ステラに焦がれている。




いつからかなんて知らない。

最初の自覚は、ステラがベルトランのワームホールに落ちて行方不明になった時だ。


ステラを見失い兄上に殺される!と焦るイーサンの隣で、僕は、違う想いを抱いていた。


胸にぽっかり空いた喪失感と焦燥。

早く見付けなければと、胸が痛くて心臓が止まりそうだった。


ステラを見つけた時は嬉しくてどうしようもなくて、兄上の腕の中から奪い取って――――恥ずかしい位にぎゃん泣きした………。


あの時、ステラへの恋慕をなんとはなしに自覚した。

ただ、ステラの無事が嬉しくて、その姿を見ただけで、心臓が早鐘を打った。


今までいつも同じものを好きになり、同じものを嫌いになり、言動も行動も考えも一緒だったイーサンと僕は、別の人間なのだと自覚したのも、あの時だった。



「ステラが好きだって―――――?!何でまた………そんな厄介な相手に恋なんてするんだよ!ネイサン」



ステラへの恋心を自覚してから早数年。

セオドア王子からの避難で滞在している別邸の一室で、僕はイーサンにステラへの気持ちを告げた。


何故かって?


イーサンは何といっても、母上のお腹の中からずっと一緒だった大親友だからね。

そして、自分の初恋を最初に知らせる相手はイーサンがやはり最適だった。だってね、イーサンの気持ちは読めるから。絶対に敵にはならないし、なんなら味方に引き込める。


「好きになるものが一緒の僕に告げるのは、牽制か?」

「イーサンは違うってわかるからさ。ステラを好きなのは知ってるけど、イーサンの好きは、僕の好きとは違う」

イーサンが片眉をあげた。

図星を指された時の彼の癖だ。

「僕にはイーサンがわかる。同じく、イーサンも僕がわかるだろ?」


ニヤリと視線を向けると、イーサンが諦めたように両手を上げて息を吐いた。

「うん。わかる―――けどさ。お前はかなり前からっていうか、多分初見でステラに一目惚れ。だっただろ?僕も気付いたのは最近で、いつからか遡って考えてみたら、多分、最初からなんだろうって結論がでた」

「――――それは、違うんじゃないかな」

まさかそれはないだろう。と、首を傾げると、自分とそっくり同じ顔が首を振った。


「違わない。だから僕はネイサンを取られる!って焦って最初の頃ステラを苛めまくったんだなって、腑に落ちたよ。お前は、好きな女の子にどうして良いか分からなくって、ひとまずいじめて関心を自分に向けようっていう、ガキ大将心理だったと思うよ」

「うううう―――――。ん?」

情けない話だが、言われてみると、そんな気がしなくもない。


「うん。ネイサンの言う通り僕もステラが好きだよ。口に出して言うのは初めてだけど、可愛いと思うし守ってあげたいし誰にもやりたくないね。でも、確かに、ネイサンの気持ちと僕の気持ちは、違うと思う。僕はステラと一緒に居られれば嬉しくて幸せだ。ステラが幸せで笑っていてくれればそれでいいし、うちにずっと変わらずに居て欲しい。嫁とか、他の男には取られたくないけど、兄上かネイサンならば許せる」

「ステラが嫁―――――相手が誰でも絶対にイヤだな。考るのもイヤだ」

「本当に生まれて初めて考えが分かれたね」


はあああ。っとイーサンが溜息をついた。

「兄上に知られたら殺されるぞ。第一、兄上がいる限り絶対にステラは無理だし、なんでまた今になってそんなこと言い出したんだ?」

「兄上は難攻不落の壁だけど、恋敵じゃない」

「ほほう。はっきり言うねえ――――その心は?」


腕を組んでにやりと笑うイーサンに、言うか言うまいか逡巡し、親友になら告げてもいいと結論を出す。


「なんていうか、兄上のステラに向く気持ちは、イーサンのに近いと思う。更に倍率増々だけど。敵って言うならむしろセオドア王子とレオ叔父上じゃないかと」

「――――言わんとする所は理解出来るけど。僕とも、方向が違う気がするけどね」




「あなた、本当に男前になったわね。ネイサン」




ふいに響いた声に口から心臓が飛び出す程にびっくりした。

何故、母上がここに居るのですか?

扉の方向に振り返ることも出来ずに背を丸めるしかなかった自分に、イーサンは立ち上がって声を上げた。


「母上!これはですね――――」

「ああ。アイザックはね、ああ見えて中身がほとんど赤ちゃんなのよ。違うかしら?獣?本能のまま生きてるから、恋や愛を理解してない?持ってない?う~んと、生存本能のまま、自分が生きていく為にステラを離さない?っていうのが一番近いかしらね」

母上の言葉は全て疑問形ですね………。

でも、なんとはなしに、なんとなく言おうとすることは、解かる気がする。


でも、だからこそ、許せない。

兄上はステラを縛り付けておきながら、違う方向に大切にしていて、女性としては愛してはいないような気が、する。

その癖、ステラを好きで大切にしようとする自分達をとことんまで廃してくるもんだから、始末に負えない。




兄上は本当に、ズルい。




「しばらくの期間、こちらが捻くれてといっても、ステラをいじめてきた僕らだ。スタート地点に到達するだけでも大分かかるよ。最初から周回遅れ決定だ。それでも名乗りを上げるの、ネイサン?」


イーサンが尋ねてくるが気持ちは決まっている。

好きなものは好きなのだ。

兄上にも王子殿下にも叔父上にも渡したくない。

ステラは、自分にとって世界で唯一の女の子なのだ。


「今までは、兄上は自分で気付いていないだけで、ステラを好きだと―――思っていて、ステラを見つけてきたのは兄上だから、引かないといけないと思って、気付かないフリをして、この気持ちに蓋をしていた。でも―――」

「「うん?」」

イーサンと母上が、似たような背中を押すような不敵な笑顔を向けてくる。

家族間での面倒くさい事態になりそうだというのに、二人は自分を止める気はなさそうだ。


まあ、ここで止められても、もうどうしようもないところまで来ている。

今更、諦めることも、もうできない。




「僕は、もう引くことは止めます。兄上に、遠慮するのはもう止めた!」




仁王立ちで立ち上がるネイサンに、ギャラリーの二人が「おお!」と声を上げて手を叩いた。

「いいのですか、母上?家の中がとんでもなく面倒な事態になって、嵐が吹き荒れますよ?」

「私はあなたと一緒なのよ、イーサン。ステラが私の側に居て笑ってくれていれば、相手がアイザックでもネイサンでもどっちでもいいの。他の家の男に持っていかれなければ最高です。あの子は『私の娘』ですからね~」

「――――――――どこから聞いてたんですか、母上?」


コロコロと鈴の様な笑い声を上げた母は美しかったが、同時に少々怖くもあった。

イーサンと顔を見合わせ、二人して苦笑いした。

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