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36:スタンレイの野郎ども

「辞世の句は聞いてやる」

「僕が介錯します。兄上どうぞ」




ド修羅場です。

兄上が剣を上段に構え、ネイサンはネイトから奪った剣を中段に構えた。

二つの剣先が向かう先は、ベルトランだ。

そして、その腕の中には、何故だか自分がいる。

あれ―――?


自分がこの「ド修羅場」を止めねばならぬ立場にいることは、重々理解しているものの、今は、頭が全然働きません―――。




一体、何がどうなって、こうなった?




まずは、それを整理しないと、頭が起動しない。

ステラは、今しがた自分の身に起きた「コト」に記憶を巻き戻した。






◇◇◇






「あの『ごく潰し』の腰巾着で、『ごく潰し』と『無能女』の命令に逆らえない影の薄いお前が、ステラを助ける理由は何だ――――?」


兄上。例えにも言い方ってモノがあるでしょう?

王家とスタンレイより爵位は一応上の公爵家の実在人物にその呼び名は……不敬罪を言い渡されても否と言えませんよ。


「ステラが美しく可憐だからでしょう。ですが、二人きりの対面は許し難い。万死に値します」


ネイサンまで、何を言い出すんだ?

ベルトランには助けてもらった礼はあれど、万死ってなんだい。まったく。


「お嬢の肉祭り出席には100年早いっすね」


ネイト―――。

お前……どんだけ腹減ってたんだ?ここにきて早々から両手に串を持ち続けて未だ両手に何本串持ってるんだ。5本と5本で10本て、まだ食う気なのか?




スタンレイの野郎どもは兄上の魔術で作った座席からベルトランを見下ろし睨みを利かせる。もちろん肉を食しながらだ………。


対するベルトランは地べたに正座である。


これは流石に待遇が酷すぎるのだが、ちょっとでも庇えば打首に処されそうで、ステラは口を挟む事すら出来ない。

そんな自分の席は、兄上の左足の上7割とネイサンの右足の上3割です。

この比率の意味が分かりませんが、二人の妥協点だそうです。

正直不安定で、ツライです。




「挙げ句に―――」

兄上の地響きする声に続き。


「「「ベルだと?」」」


3人の声が同調し、3人の冷たい殺気を同時に浴びたベルトランは瞬時に震えあがった。

()()そこに戻るんですかね?


「ステラに愛称呼びさせるなど、許した覚えはない」

「あり得ませんね」

「うちの騎士団にケンカ売ってるんですかね?」


何なんだろう。

襲撃に関しての聴き取りは何処に行ったのでしょうか。

え?まだ、食後になってないって?すっとぼけるのもいい加減にしろ、兄上。


「ええと、襲撃に関しての話しを進めませんか?」

「それは後でいい」

「っすね」

「ステラに要らぬ秋波を向けているか否かの確認が、今は重要です」

「「その通りだ」」

ネイサンの言葉に、兄上とネイトが同調する。


はい?

今度は何を言い出した、この人たち。



「ベル…トランが、私を?」



蛇のようなしつこさの3人に、ステラは言葉を選びながら、口を開いた。

「あり得ないな。ベルトランが私を助けてくれてたのは、ちょっとした反抗心からだろう?あの馬鹿ったれと気位高い女王様への。それ以外の他意なんてないだろう」

あ、兄上の事を言えない呼称で尊い人を名指ししてしまったが、まあ、良しとしよう。


「「反抗心?」」

兄上とネイサンの問いが同調する。

「長年抑え込まれた相手への反骨精神とでも言うつもりっすか、お嬢?」

「そんな感じだろう。あいつらのターゲットをわざと隠してひと泡吹かせる。な、ベルトラン?」


話を合わせてくれよ?という思いを込めて、やんわりと話の流れを振ると、ベルトランは正座の膝上で拳を握り締め顔を伏せていた。

流石にこの3人の的外れな詰問に苛立ちを隠せないらしい。



だよなあ。と思う。

恐らく学院での襲撃と誘拐からステラを助けてくれたのだろうに、3人からの扱いは酷すぎるし、詰問も的外れで、怒りと苛立ちに苛まれているのだろう。



もうそろそろ近付いても大丈夫かと、スタンレイの野郎どもの顔を見やってから、ステラは兄達の膝から降りて未だに地べたに正座するベルトランの側に膝をついた。


顔を上げて貰おうと、手を伸ばす。

「いつも、あの馬鹿共から回避させてくれて、無駄に喧嘩を買わずに本当に助かっている。いつもありがとうベル。でも、今回に限ってはお前にリスクが―――」

「―――違うっ」

ベルトランに伸ばした右手を、がしっ!と掴まれた。




「―――ベル?」

「スー………僕は―――――――――」




目の前が真っ暗になった。

理由は、ベルトランの胸の中に抱き込まれたからと理解するまで、少々の時間を要した。






回想終了しましたが、大変マズい。状況です。






「僕は…………」


ベルトランの体が震えている。

こちらも、もう心臓が止まりそうです………。

何でどうしてこうなって、ベルトランが何を思っているかなんてさっぱり分かりませんが、これだけは、分かります。


()()()()顔を向けれません。

空気だけで人死が出そうな恐ろしくドス黒い闇の気が、()()()()渦巻いてます。




「―――ベル。落ち着け。本気で殺されるぞ………命を大切にしろ」

「僕は――――スーを、渡したくないんだ。スーは、僕のたったひとつ、唯一の」




「斬るか」

「スパっとどうぞ。兄上」

「じゃあ、俺が骨を拾いますね」


いい加減にしろ。そこの3人。

ベルトランの様子がどう考えてもおかしい。


ベルトランに抱き込まれながら、なんとか右腕を抜け出して手のひらで3人を制す。

こちらの「待て!」のサインを理解してくれたのか、一番ヤバい兄上の殺気が少し緩んだ。


ベルトランは確かに公爵家の嫡男としては気が弱い。

幼い時から生みの母にも実妹にも、更には従兄弟の年下の王子にも虐待に近い不当な扱いを受け、駒として良いように使われているのが事実だ。


それは貴族界隈では暗黙の了解で知られており、公爵家公子であるにも関わらず、ベルトランは侮られる事が、正直多い。


だけれども、ステラだけは、彼本人すらも気付けない、ベルトランの性根の強さを知っている。

そうでなければ、毎回第二王子達にターゲットにされるステラを、自作のワームホールを使い退避させ、それを知られない様に行動することなど出来はしない。


ベルトランは、自分を駒として扱う彼らに気付かれないように立ち回りながら、自分の信念を曲げることは決してない。


自分の考える理不尽を、人に課すことはしない。

それが、ステラの知るベルトラン・ブリザック・ウィスラーという男である。




()()()に―――絶対に渡しはしない………。僕の、命に代えても」




ベルトランの溢した絞り出すような一言に、兄上の、気配が変わった。

「兄上?」

「若様?」

二人の問いかけに構わず、兄上は魔法電信の術式を展開すると息を吹き込みそれを宙に飛ばした。




「――――状況は理解した。タウンハウスに戻る。お前も同行しろ、ウィスラー公子。否とは言わせん」




兄上がばりっとベルトランを引き剥がして、ぎゅうぎゅうと骨が軋むほどに抱きしめてきた。

ちょっと、いや………かなり、痛いです、兄上。

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