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18:マブダチトリオの協定

あれよあれよという間に連れて―――否、連行された王宮内王族のプライベートエリアの居室で、ステラは正直固まっていた。

今まで6年間過ごしてきた世界と、この1か月の世界の変わりようが、環境の変化がエグすぎるからだ。


貧民街と魔の森がステラの生きる世界だったのに、そこから何故か侯爵家本邸へ、そして今、国のトップと言える、王宮の中枢へ―――。

何でどうしてこうなった。と声を大にして聞きたいステラである。




侯爵の「王宮に行こう」発言の直後は、目の回る展開だった。アイザック母の号令の下、髪は美しく編み込み整えられ、アイザックの瞳に似た青色と白を基調にした可愛らしいドレスに着替えさせられた。サイズがぴったりで首を傾げたら、アイザック母とローズがハイタッチしていたのが謎だった。


王宮に着くと自分を逃がさないためかネイトに抱き上げられ、アイザックに奪い取られ、何故か侯爵が最終的に自分を勝ち取り抱っこしたまま、ここまで強制連行された。

華麗で豪華な部屋に似合った優美なソファーに座る侯爵の膝に抱かれ、左にはアイザック。背後には護衛のクザンとネイト。更には侯爵の侍従長アーロンが主に付き従っている。

ステラは、人生初の転移ゲートを潜った影響で、頭と目が回っている感じがしていたけれど、王宮の豪華さに一気に目が覚めた。




「―――――――双子の危機だと、速攻で帰宅した割に、それを超える速さで戻ってきたと思ったら………その美幼女は、一体誰なんだ、ウィル?」




ライオンの(たてがみ)を思わせる光輝く見事な金髪の下、エメラルドに斑に金が散る瞳がステラを射た。

表情も物腰も優美で柔らかいが、その目は決して優しいものではない。


これが王様。

獅子王の異名を持つ、クリストファー・ダニエル・ステイビアを前にし、ステラは引き下がることをせず、目の前の王を睨みつけた。


自分を、侮られている気がしたからだ。


侯爵も最初は自分を図る目で見ていたが、こんな風に侮蔑と物色を含んだような失礼な目を向けられたことはない。

王宮への出発時に「侮られたら喧嘩の一つも売ってきなさい」とステラを送り出してくれた、アイザック母の言葉を思い出す。あの人はこれを予想していたのだろうか?でもあの言葉は師匠にちょっと似た所があって、ステラは正直懐かしく嬉しかった。



自分を侮る相手など、一蹴しろ。

それが師匠からステラが受けた、教育だ。

目の前の相手が王様でもここは、引く訳にはいかない。



「ほぉ、この私に向かって生意気にも睨みつけてくるとは、いい度胸―――」

「私の娘だ。当たり前のことを言うな」


侯爵の言葉に王様の獅子の風貌が、予期せぬ水を食らった猫みたいな顔に変わった。

「は?」

「私の娘。と言った。()()()だからな。お前は手出し口出し無用だぞ。更にお前は、この子に今、侮蔑の目を向けただろう?な?」


ふいに向けられた侯爵の同意要望にステラはひとまずこくりと頷き、次に同意要望を振られたアイザックが力のこもった頷きを返す。


()()()にそんな態度を取るなど、我らは生涯許すことはない。よって、お前は今後()()()には一切関わるな。それに同意しろ」

「父上、念書の取り交わしをお願いいたします」

「うん。すぐに用意をしよう。アーロン」

流石アイザック。と嫡男を褒める侯爵に指示されて、侍従長アーロンが一礼と共にさっと念書作成の魔術を手元で展開させる。

そんなスタンレイ陣営に対し、王陛下はその威厳を崩し、生涯の親友に何を言い出すかと詰め寄った。


「む、娘だと?!何を言い出す?おまけに、生意気な子だから、生意気と言ったのみ。私はこれでもこの国の王だぞ。その私を睨みつけるなど―――」

「また言ったな。2ペナ追加だ。この子を侮り侮蔑の目を向けるから、怒らせたんだ。当たり前のことだろう?この子を見て何も気付かない、お前が悪い」


侯爵の言い分も大概だが、確かに侯爵は最初から自分の事には気付いてはいた。とステラは思う。

アイザックとアイザック母が自分を擁護してくれたからというのもあるが、正体不明の自分をスタンレイに置いてくれたのは、剣だけではなく、所作や言葉、話し方などから、師匠の痕跡を感じていたことの表れだったと、今は分かるからだ。


「意味がわからん!何がどうなって、こうなったか、最初から話せ、ウィル!!」

「累積ペナルティ5で、お前には聞かせてやらんからな。残り2ペナだ。せっかくわざわざ王宮(ここ)まで来てやったというのに」

「念書の準備が整いました主様(あるじさま)

話に割って入りながらもそれを感じさせない穏やかな所作で、作成したばかりの念書とスタンレイ当主の封蝋印準備をテーブルに整えたアーロンに侯爵が頷いた。

「流石の速さだな、アーロン。よし、ここに記名しろ、クリス」

常に左の親指に嵌めているスタンレイ紋が刻まれたシグネットリングを封蝋に押し付け、侯爵は念書を反転させ王陛下に押し付けた。


「説明もなしに念書に記名とは随分だな?!いったいなにっ――――――」


文句を言いながらも念書の文面にさっと目を通した王陛下の目が、落ちそうなほどに見開かれる。

声を無くし、微かに身震いしながら、その文面を口先にこぼす。


「以下記載の者に生涯関わりを持たないことをここに宣誓する。スタンレイ侯爵家養女―――――――――ステラスタ………?」


ステラスタ。と再度その名を呟いて、王陛下は静かに顔を上げ、ステラにそのエメラルドに金が散る瞳を向けた。

その瞳には、先刻までの侮蔑と物色の色はなく、信じられないと瞬きすらせず、ひたすらにステラを見つめてきた。


「リアムから私達への伝言を伝えてくれる、リアムの子にお前は大変失礼な態度を取った、クリス」

「お、おまえなあああああ―――――――!!」


「先に言え!」という王陛下の叫びに「気付かないお前が悪い!」との侯爵の雄叫びが響き渡り、いい年の大人で、国のトップとセカンドの立場に位置する、王陛下と侯爵閣下の取っ組み合いの喧嘩が始まった。

それを合図にするように現れた王妃陛下と王子殿下二人からスタンレイ陣営にお茶が振る舞われ、喧嘩を肴にしてのお茶会が喧嘩現場のすぐ横で始まった。




「クロエから電信魔法が来まして。そろそろお茶のタイミングかしらと準備させていたのです」

あっちは収まるまでほおっておきましょう。とコロコロ笑い、王妃殿下は伴った両脇の王子達の肩を抱いた。

「私はジュリアと申します。この子は、セオドア。アイザックと同い年です。そして、デイビット。セオの2歳下になります。ステラスタ、ステラと呼んでよいかしら?」


ブルネットの髪を優美に巻いた王妃はどこまで知っているのか、ステラにケーキを勧めながら優しく微笑んできて、ひとまずステラは頷くことしか出来なかった。


セオドアと呼ばれた王子は、王陛下と同じエメラルドに金が散る瞳を極限まで見開いてステラを見てくるし、デイビットと呼ばれた王子は、一目でわかる侮蔑の馬鹿にするような暗い目をステラに向けてくる。


どちらの視線もステラには大変居心地が悪い。

自分の年齢はさておき、子供の対応は面倒くさくてステラは大人二人の喧嘩場に視線を流した。

それに気付いたアイザックがステラを膝の上に抱き込み、王妃陛下に向け口を開く。


「リアム様からステラが受けた伝言を王妃殿下に伝えて、我々は邸に戻って宜しいでしょうか?」

「もうちょっとだけ待ってくれるかしら、アイザック。二人とも、女の子にそんな不躾な目を向けてはいけません」

アイザックの言いたいことに半分気付いた王妃陛下が、王子二人を窘めてくれる。

残り半分は言葉通りの帰宅申込だろとステラは思ったが、アイザックには違う意味でも早くステラを連れ帰りたい理由があることには気付かなかった。


「失礼しました………こんな綺麗な子は、初めて見ましたので」

セオドアが頬を染めてそんなことを呟いた。


その言葉にステラは首を傾げアイザックを見上げた。

アイザックも、初めて王子殿下に会ったのだろうか?

この顔ならば、こんなことを言われても仕方がないのかもしれない。とステラはそんなことを思っていたのだが、アイザックは微かに眉を寄せてセオドアを睨みつけた。


「僕の妹に何を言うんだ、セオ」


愛称呼びである。

ということは二人は知り合いということで「綺麗」は自分に向けられた言葉なのか?

ステラはドン引きした。


「多少見目は良くても、生まれと育ちは隠しきれません。そんな者を養女にするなど、スタンレイも地に落ちましたね」

見下げた目を向け辛辣な言葉を突き付けるデイビットに「おっしゃる通り」とステラが満面の笑みを浮かべ、今度はデイビットがドン引きする。が、そのドン引きはステラの笑顔だけにではない。


ステラは気付いていないが、アイザックと、後ろの護衛ズ。侍従長アーロンまでもが今にも殺さんばかりの殺気をデイビットに向けているからだ。



「―――第二王子殿下の発言は2ペナだ。合計5ペナになったから、帰るぞ」

あの状況でどうして聞こえたのか?聞きたくなるが、一気に王陛下を近くのカウチに投げ捨てて、覇気を纏ったままの侯爵は居住まいを正すとつかつかとお茶会会場に近付き、ステラを抱き上げた。


口元に一筋の血が流れ、顔の数か所にあざが出来ている………。

ステラがドレスの袖で口元の血を拭い、治癒魔法を添えた手で侯爵の頬に触れると、侯爵は穏やかに笑んだ。

侯爵は最早、出来たばかりの娘にめろめろのでろでろである。


「デイビット!!訂正しろ!!今すぐだ!!」

獅子王の咆哮に震え上がった第二王子が詫びの言葉を口先だけで呟くが、スタンレイ陣営はすでに背を向けていた。




そこに、セオドアの静かな心なし嬉し気な声が聞こえた。

「ステラスタ………はリアム叔父上に女児が生まれた時に付けると決めた名。と、父上は言っておられましたね。では、父上達の協定から、私はステラと婚姻を結ぶことになるのですね?」




マブダチトリオの協定とは―――生涯の親友である自分達に子供が出来たら、結婚させ、血を繋げる。という、大恋愛の末、結婚することが出来なかった悲恋の恋人達が考えるような、乙女な約束らしい。いい年の男が引きずるものか?と大きな声で尋ねたくなる。


師匠、父上、国王のマブダチトリオは幼い頃からの約束であり協定を叶える日を、長い年月待ちわびていたらしい。


国王クリストファー・ダニエルには、男子が二人。

スタンレイ侯爵ウィリアムには、男子が4人。

師匠であるリアムは、子供どころか結婚もせず、鬼籍に入っている。


これでは、マブダチトリオの血を繋げる。という、彼らの大望は叶わない。

そう―――ウィリアムとクリストファーは、交わした約束を諦めていた。


今日のこの時まで―――――――――。

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