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配給制

 ご主人様に買われて、半年が経過する。


 未だに外へは出ていないけど、それでも不自由に思うことはなかった。


 家事をして、暇な時間には本を読んでいる。


 この生活が私の当たり前になった。


 それから、本を読むようになって、この世界の戦争のことも理解する。


 この世界の戦争は空戦が主らしい。


 魔力によって浮かせた戦艦を並べて、空中で艦隊戦を行う。


 ご主人様に書いてもらった戦艦は飛行船みたいだった。


 私が思っているよりもこの世界の技術は進んでいるようだ。


「ご主人様は整備士とかなのですか?」


 優しいご主人様が最前線で戦うイメージが出来ない。


 だから、裏方だと思った。


 でも、私の質問に対して

「小型戦闘艇乗りです」

と言われたので、意外だった。


 小型飛行艇の絵もご主人様は書いてくれた。

 歴史の授業で見た昔の戦闘機みたいだ。


 燃料は魔力らしい。


「これじゃすぐに撃墜されてしまいそうです」


 私が不安の言葉を口にするとご主人様は笑った。


「意外と耐久力があるんですよ。装甲は薄そうに思うかもしれませんけど、魔力障壁を作れば、大抵の攻撃は弾き返せます」


「そうなんですね」


 私は魔法のイメージがあまりできない。


 だって、私が使うことが出来ないから……


 今でも思うけどさ、こうやって異世界転移した場合ってとんでもない力を貰えるものじゃないの?


 まぁ、下手に力を持って、勇者とか英雄になるよりは今の方がマシかもしれない。

 正直、力があるからって人を殺したりは出来る勇気が無い。


 そう考えるとなろう系の主人公は結構、躊躇いなく、人を殺すよね。



 さらに一カ月が経過する。


「配給制ですか?」


 帰宅したご主人様から今後は食料や物資が配給制になることを説明された。

 

 戦時中で配給制が始まると、本当に苦しくなっているのだと察することが出来る。


「そのことでいろはさんに頼みたいことがあって……無理強いはしないんですけど……」


 ご主人様はかなり申し訳なさそうに言う。


「ご主人様、私はあなたの奴隷です。遠慮せず、言ってください。その上で私に難しいことなら、お言葉に甘えて断りますから」


「そう言ってもらえると助かります。配給は午前中に行われます。僕は軍に行っているので取りに行くことが出来ません。代わりにいろはさんが配給を取りに行ってほしいんです」


 ご主人様が心配そうだったから、拍子抜けしてしまった。


 簡単な〝おつかい〟だ。


「そんなことでしたら、喜んで……」


 途中で言葉を止めて、色々なことを考える。


 私は奴隷だ。

 奴隷が一人で外を歩くのは危ない。


 それにご主人様の話だとこの国は男尊女卑が酷いらしい。

 女が一人で外を歩くのも危ないかもしれない。


 そして、一番の問題は私が半年以上、外に出ていないことだ。


 ううん、半年どころじゃない。


 私はこの世界に来てからまともに外を歩いたことなんてなかった。


 この世界に着た直後、盗賊に捕まった。

 それ以降は奴隷としての生活。


 私のこの世界の外界を知らなかった。


「ご、ごめんなさい。やっぱり大丈夫です」


 ご主人様が慌てて言う。


「奴隷や女性が一人で歩かない方が良い、って言ったのは僕ですし、怖がらせておいて、こんなことを頼むのは酷いですよね。配給は僕が早朝、取りに行きますから安心してください」


 それは駄目だと思った。


 最近、ご主人様はどんどん帰って来るのが遅れているし、疲れているのが分かる。


 その上、私の我儘で朝早く起きてもらうなんて……


「大丈夫です。やります。やらせてください!」


 体が震える。

 多分、ご主人様は私の心理を正確に理解しているだろう。


 外は怖い。

 家の中に居たい。


 でも、絶対に引き下がる気はなかった。


 私も出来ることをしないといけない。


「…………」


 ご主人様は何かを言いかけた。


 その言葉を飲み込んで、代わりに、

「それではお願いします」

と言う。


「任せてください」


「無理そうだったら、帰って来て構いませんからね。…………そうだ、ちょっとこっちへ来てくれますか?」


 ご主人様は私を隣に呼んだ。


 なんだろう、と思いながら、近づく。


「じっとしていてくださいね。ちょっとだけ痛いかもしれません」


 ご主人様はそう言いながら、私の首輪に触れた。


 その瞬間、ピリッとした痛みが走り、首輪が外れる。


「ご主人様、どうして首輪を外したのですか?」


「首輪をした奴隷が一人で外を歩いていたら目立ちますから」


「でも、首輪が無かったら、私は逃げるかもしれませんよ」


 主と奴隷を繋ぐために首輪は不可欠だ。


 首輪が無ければ、全てから解放される。


「いろはさんは逃げたいのですか?」


 ご主人様が少し心配そうに尋ねた。


「そんなことはありません」

 

 私は首を横に振り、即答した。


「もしも逃げたい、と思われていたら、仕方ないと諦めます。本当はもっと早く首輪を外そうと思っていたんですけど、突然外したら、それはそれで警戒されると思って……」


 ご主人様は苦笑する。


「首輪があっても、無くても私はご主人様から離れません。そもそも、行く当ても帰る場所もありませんから」


 私も苦笑した。

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