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3話 フィアラは侯爵家で念のために対策を考える

 私は地図を頼りに、歩いて侯爵邸へ向かっている。

 迎えが来るのかと期待してしまった自分が情けない。

 幸い持っていく荷物などなにひとつないため、身軽だ。

 私が今着ている服以外は、ミミに挨拶したときにほぼ全て奪われてしまった。


『出てっちゃうのー? 困るんだけど! 私の頼みを聞いてくれる人がいなくなっちゃうなんて。でも、最後にお願い。お姉ちゃんの下着以外の服は全部置いてってね。私が着るから』


 そんなことを言われたのがミミとの最後の会話だった。

 今までのことを思い出しながらひたすら歩く。

 そもそも、どうして侯爵が大金を払ってまで私を引き取ろうとしていたのだろうか。

 この疑問だけは残るが、さすがに侯爵様本人に聞くわけにもいかないだろう。

 なにをされるかわからないし。


 毎日家事をやってきた体力のおかげで、遠く離れた侯爵邸まで日が暮れる前にはたどり着いた。


「でか……」


 まず侯爵邸の前に来て思ったことが、そのまま口に出てしまった。

 デジョレーン子爵邸の十倍近くはありそうな庭。

 奥に見える建物を見ながら想定すると、部屋が二十近くはありそうな気がする。


 もしも私だけでこの家全てを掃除したりすると考えたら、寝る時間も全く貰えない気がする。

 これはお父様……いや、デジョレーン子爵の発言も冗談ではなかったのかもしれない。

 この先が思いやられるが、ひとまず家の前に立っている門番に挨拶をした。


「ガルディック侯爵邸で間違いありませんか?」

「……誰だ?」

「本日より専属使用人としてお世話になりますフィアラと申します」


 二人の門番が疑い深そうな目で私をジロジロと見てくる。

 ボロボロの服で侯爵邸に入ろうとしているのだから、警戒して当然か。


「少し待ってもらう。確認をするのでな」


 そう言って門番は一人だけ残して屋敷へ向かっていった。

 待ってから数十分。

 屋敷方面から馬車がこちらに向かってきた。

 出てきたのは……。


「キミがデジョレーン子爵のところの?」


 年はお父様と同じく四十歳くらいだろう。

 清楚な服を着こなし、顔が生き生きとしていてカッコよく見える。

 馬車から出てきたことも考えると、おそらくここの執事長もしくはゼル=ガルディック侯爵様のどちらかだろう。


「フィアラと申します」

「この家の当主、ゼル=ガルディックだ。子爵は迎えなどせずともこちらから連れていくと言っていたが……。一人で歩いてきたのか?」

「は、はい」

「あの腑抜けものめ……」


 かなり機嫌の悪そうな顔を見せている。

 怒らせたら大変なことになりそうだ。

 今すぐにでも逃げたほうがいいのかもしれない。


「ひとまず乗りたまえ。キミが専属使用人として働いてもらうための契約関連や任務は明日から行うとしよう。今日のところはいったん風呂に入り、服を着替えゆっくり休みたまえ」

「へ?」

「なにを驚いている?」

「いえ、申し訳ありません」


 こういうとき、今までの経験から私は危険な方向へ考えてしまうのだ。

 おそらく、翌日はとんでもなく大変な業務が待っているのかもしれないと考えた。

 今までも、珍しく休息やまともな食事を与えられたあとに待っているのは、三日間は寝る暇などないくらいの過酷な仕事の山だった。


 もちろん顔には出さないように心がけながらも、ビクビク震えていた。


「最初は緊張するだろうが、そう身構える必要はない」


 ダメだ。やっぱり私は思っていることが顔に出てしまうらしい。


「そう言われましても……」

「期待している」

「は、はい……」


 あぁ、これは過酷な仕事の前兆だ……。

 実際に仕事をやってみてから、逃げられるようならすぐに逃げてしまおう。

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