振り向いて、出会う
クリスマスの間に投稿しようと思ったのですが、ちょっと間に合いませんでした……汗
ですが、ほんの少しの遅れなので間に合ったということで大目に見て頂ければと……。
それでは、クリスマスの超短編、お読み頂けると嬉しいです!!
――きっと今日の街は恋人で溢れ返るんだろうなぁ……。
そんなことをぼんやりと考えながら私は今日も仕事をこなす。聖夜だろうが何だろうが、誰かが働かなければそれは成り立たない。
私の職場は菓子屋だ。聖夜となると、特注のお菓子を販売するので毎年この時期は大忙しである。中でも一番よく売れるのは、家族や恋人と一緒に食べるための大きなケーキ。次によく売れるのは、私のように一人きりで聖夜を過ごす人や、大きなケーキが食べきれない家族に売れる、一人用のケーキだ。さらには、プレゼント用の焼き菓子など、本当にたくさんのお菓子が売れる。つまりこの時期は稼ぎ時でもあったりする。菓子屋の主人の笑顔も多くなる。
数少ない友達は皆恋人と過ごす聖夜に浮足立っている。しかし、平坦で恋とは無縁の毎日を送っている私には、到底恋人などという存在はいない。世間ではどうやら私のような人のことを『孤独聖夜』と言うらしい。
――今年も、仕事尽くしの聖夜になりそう……。
予測通り、今年もとても忙しい聖夜になった。ケーキが飛ぶように売れていき、主人もニコニコだった。
夜も更け、人がまばらになった頃菓子屋は閉店した。主人と主人の奥さんが出てきて私に声を掛ける。
「お疲れさん」
「毎年ありがとうね、良かったらこれ残りものだけど持って帰って!」
そう言って、渡されたのは一人用のピスタチオのケーキ。
――ピスタチオのケーキは大分前に売り切れたはずなのに。
私の好物がピスタチオだと覚えていて売り切れる前に残しておいてくれたのだろうか、二人の優しさが心に沁みる。
「ありがとう……ございます」
私がおずおずと受け取ると二人は笑顔を浮かべた。
「じゃあ、また明日な」
「街の聖夜樹が装飾されてるらしいから行ってみると良いかも。この時間は綺麗よ!じゃあ良い聖夜を過ごしてね!」
夫婦は仲良く手を繋いで帰っていった。
――せっかくおすすめされたから聖夜樹見に行ってみようかな。この時間にはもうほとんど人はいないでしょ。
恋人も配偶者もいない寂しさを紛らそうと、独り街に向かって歩いて行く。夜の街は静かで、とてもじゃないけれど昼間に多くの恋人たちが過ごしていた空間と同じだとは思えない。
しばらく歩いて、見上げるとそこには綺麗に装飾された聖夜樹がそびえ立っていた。
――わぁ。綺麗……。
色とりどりの光に照らされて、たくさんの可愛らしい飾りが付けられていて、てっぺんには大きなお星様。圧巻の眺めだった。
――そういえば、この聖夜樹を見るのは初めてだな……。
私が子供の頃にはこれよりももっと小さくて地味な聖夜樹しかなかった。この聖夜樹が作られたのは数年前のこと。私が菓子屋での仕事を始めた頃だった。
――仕事を始めてから今まで、聖夜の仕事終わりはへとへとで聖夜樹を見て帰る余裕なんてなかったもんね。そう思えば私も少しは成長したのかも……。
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか聖夜樹の真下まで来ていた。遠くから見ても、真下から見ても、聖夜樹は綺麗だった。
カツ、カツ、カツ、カツ。
ふと、後ろの方から足音が聞こえる。
――こんな時間に、聖夜樹を見に来るなんて、私と同じ、仕事帰りの人なのかな?
すると、足音を鳴らしていた人が後ろで突然歌いだした。
「――♪、――――♪」
――これって……教会の神官だけが歌うことを許された讃美歌……?綺麗なテノールボイス……。彼はおそらく神に仕える方なんだ……。
私は目を閉じて讃美歌を聴いていた。足音がどんどん近づいて来る。
ドンッ。
突然背中に何かがぶつかった。
「「え?」」
私の声と、さっきまで讃美歌を歌っていた声が重なった。
「すみません!」
と後ろから声がかかる。どうやら彼は目を閉じて讃美歌を歌いながら歩いていたようだ。
私はおそるおそる後ろを振り返った。
私と彼の目が合うと同時に、瞳に引き込まれる感覚……、そして
「「あの!」」
二人の声が重なった。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました!!
いかがでしたでしょうか?
少しでもクリスマスを感じて頂けたなら幸いです。
ちなみにですが、この「クリスマス特別短編小説」は猫柳芽ちゃんとの共同企画です!私はもうすでに読了したのですが、素敵でとても考えさせられる短編小説だったので、ぜひぜひ、彼女のホームページをのぞいてみて下さいね~!!
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ほとんど投稿できていませんが、今年の投稿はこれで最後になるかと思います!今年も一年間ありがとうございました。皆様、健康に気を付けて、良い年末をお過ごしください!!