もやもや土曜日
お昼ご飯のそうめんを食べた後、鴻ちゃんとくーさんと一緒に朱鷺ちゃんが出る配信を見ることにした。
司会のお姉さんと解説のお兄さんとゲストの朱鷺ちゃんが簡単に自己紹介をした後に出場する各チームの紹介へと移っていく。
しばらくそれを見てからふと疑問を抱く。
「メーカー公式のチームはないの?」
「そういえばそうだね」
そんな私たちの疑問に対して答えてくれたのはくーさんだ。
「メーカーは主催だからチームを作って出場ってことはしないよ」
「他が主催しないとメーカーとプロ契約したプレイヤー出られないの?」
「そういうことになるけれど……まあそんなことはまずないね。主催をするのはほぼメーカーで、出場するのはスポンサーと契約したプレイヤーだ」
それなら義務教育が終わったらメーカーとプロ契約をすると言われている朱鷺ちゃんはどこに出るのだろう?
今出ているアマチュア向けの大会はプロ契約していたら出られなくなるのに。
「紬さんは朱鷺子が高校生になる数年後、今と同じ動きができると思う? 勿論成長してもっとすごいプレイヤーになっている可能性もあるけれど、小学生だからできた動きが高校生でもできるかなんて誰にもわからないんだ」
VRは実際に体を動かすわけじゃない。
でもあの世界で体を動かす際、イメージが容易な現実の自分の身体能力が反映されやすい。
だから今の朱鷺ちゃんの強みである身軽さを高校生になっても持ち続けられるかというと絶対大丈夫とは言えない。
これから身長が伸びて、みーさんそっくりだから鴻ちゃんみたいに胸も大きくなるだろう。
「だから悪いほうへぶれてもいいように事前に印象付けているんだよ。この子はゲストやマスコット、デモンストレーターをこなすタイプの人材なんですよって」
「そんなの朱鷺ちゃんの目指すプロじゃない」
「父親としてもそれは望ましくないけれど、朱鷺子がそれでもプロになりたいと言ったら認めるしかないね」
「そうか、メーカーは付き添いの母さんを見てるから偶像としてなら成長しても商品価値が下がらないと踏んでるのか」
「紬さんは納得できない顔をしてるけどこれが今の朱鷺子に対する正しい評価だ」
「そんなのおかしいよ。朱鷺ちゃんはあんなに頑張ってるのに」
確かに朱鷺ちゃんがデモンストレーターやプロモーターになるなら会社にとって得になる。
見た目の美しさだけじゃなくて朱鷺ちゃん自身が魅力的な子だもの。
でもそれだけを評価されるなんて嫌だ。
朱鷺ちゃんが納得してたとしても、私がすごく嫌!
そんな私を見てくーさんはふっと微笑み、指を3本立てて見せた。
「朱鷺子には3年以上の猶予がある。3年あれば業界の常識がひっくり返ることだってあるかもしれない。それこそメーカーが公式のプロチームを作るしかない大会が生まれるとか」
「それに今唾をつけられたところで最終的に選ぶのは朱鷺子だから、いきなりどこかのスポンサーチームと契約するなんてことも有り得る」
「だから紬さんもそんなに心配しなくて大丈夫」
配信を見終わった後ももやもやと私の心は晴れなくて、ゲームをする気も起きない。
そのもやもやを言語化できたならどこかに書き散らしていたかもしれないけれどその正体すら私にはわからないのだ。
「紬、一緒に買い物行こうか。荷物持ちのお父さんも誘って」
そんな私を見かねたのか母が外へ誘いにきた。
「駅前のモール?」
「車だし繊維街まで行ってもいいわよ」
その単語に思わず飛び起きる。
県を跨ぐから中学生ひとりでは行きにくい繊維街!
車で行くなら色々買える!
「行く!」
もう秋色の小物を作り始めてもいい頃だよね。
今年はボルドーがいいかな。コーデュロイ? ベロア? いい生地があるといいな。
「紬はやっぱり私の子ね。好きなものに一直線」
母の指摘に頬が熱くなったから今日かぶるお面は覆う範囲が広いものにすることにした。
私は外に出るときに素顔を出さないようにしている。
学校へ行くときはごつくて大きめのゴーグルで、休みの日はいくつかあるお面のコレクションからファッションや気温に合わせて選ぶ。
小学生の頃ちょっとした名誉の負傷をしてしまったため額から眉間にかけて大きな傷跡があり、クラスメイトや道行く人を驚かせないため自主的に隠している。
高校生くらいになったらほとんど目立たなくなるだろうと言われているけれど今現在その兆しはない。
口元だけ覆われない半狐面にしよう。夏だし。
目元がレトロなフレキシブルLEDで感情表現だけはできるタイプだ。
合わせる服はちょっとパイピングがレトロなオレンジワンピだね。
顔に傷というわかりやすい言い訳があるお陰で多少奇抜なお面をしても咎められないのはありがたいよね。
元々うちは母も父も私の服装にうるさくないけれど。
「ふむ、テーマは和風レトロフューチャー?」
「そんな感じ」
「いいわね」
と、我が親ながら許容範囲が広い。
「紬は貴子さんみたいに何着ても似合うからなあ」
「お父さんはいつもそれだね」
「妻子大好き人間だから大目に見てあげなさい」
知ってる。
普段仕事人間で家族で過ごす時間が少ないことを気に病んでるのも。
少ないっていっても世間的な父親とそう変わらないと思うけれど。
母はわりと等分に好きなタイプだね。
仕事も夫も娘も母自身も同じくらい好きみたい。
うちから繊維街は道が混んでなければ首都高使って1時間かからないくらいだ。
防音壁が続く退屈なこの道も好きな街へ続いているのだと思うと悪くない。
「なに作るかは決まってるの?」
「昔の黒電話型リュックの型紙を見つけたから作ってみようと思ってる」
「黒電話はふっくらしててかわいいものね。似たようなシルエットならお母さんは招き猫も好きよ」
「招き猫はパーツが多いから」
狐面には似合いそうだけど秋は天狗面のほうが多いからちょっとずれるんだよね。
「紬は器用だからなんでも作れるな」
「あなたに似たのかしら?」
「素材好きは貴子さんに似てるよ」
確かに両親の性質は受け継いでいる気がする。
両親ほど突出はしてないけれど。
おや?
なんだか両親の雰囲気に違和感がある。
私が首をかしげているうちに会話が途切れ、それから母がゆっくりと口を開いた。
「えっと……紬に報告があって」
「なに?」
先程までの様子からバッドイベントということはないだろう。
さっぱりしているけれどものすごく夫婦仲はいいし。
「私に弟か妹でもできた?」
「実はそうなんだ。来年紬の受験があるのに申し訳ないんだが……」
嬉しい話だ。
朱鷺ちゃんを見て私も弟妹が欲しいと思っていた。
でもどうしてなのか手放しで喜べない。
喜ばなくちゃいけないのに。
だって出産と私の受験勉強シーズンが重なることで父も母も私に対して申し訳なく思っている。
大学受験をするにしてもまだ手のかかる時期と重なってしまうだろう。
私が喜ばなきゃ両親に辛い思いをさせてしまう。
父も母も私を大事にしていてないがしろになんてしない。
優先順位は下がるけれどそれは仕方ない。
「大丈夫。私の成績が悪くないのはお父さんも知ってるでしょ?」
多少奇抜な服装をしても先生に咎められないように服装以外は優等生をやっているのだ。
高校だって偏差値は高いけど校則がゆるい公立校を志望してて今のところ学力的には問題ないと言われてるし。
「お母さんおめでとう。赤ちゃんの服も作ってみたかったから沢山作るね」
ああそれでも色々前倒しで準備しないといけないかもしれない。
自習を増やして、朱鷺ちゃんと遊ぶ時間を減らして……来年の夏休みは遊べないと思ってたから今年は思いっきり遊びたかったんだけどな。
窓の外に見える遠くの入道雲はこちらにやってくるだろうか。
大雨と雷が私に気付かないように、そっと目を伏せた。
BPL2021のセカンドステージが終わってしまった……
推していたSUPER NOVA Tohokuがセミファイナル進出してて、まだ夢の中にいるような変な気分です。
昨夜の配信観戦中に脳汁出過ぎて今朝は随分グロッキーな目覚め。飲酒してないのに。
セミファイナル中はワクチン副反応が出てる見込みなので熱出しながらヘロヘロで観戦しそう。




