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「今回は声だけですがトキちゃんのお姉ちゃんが見学にきてくれました」


【トキコの姉のスワンです。昨日の配信を見て気になったのでムギにお願いして見学させてもらいます】


 なるほど(こう)ちゃんの鴻は白鳥だからスワンか。

 鴻子も朱鷺子もきれいな名前だよね。画数は多いから大変そうだけど。


「お姉ちゃんもやればいいのに」


【いつも時間があるならもっとトキコとも遊んでるよ】


「だよね。この状況が相当レアだし」


「スワンちゃんはいつも多忙ですからね」


『お姉ちゃんキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』

『スワンさん、トキコとイチャイチャしてください!』

『ムギさんと同級生なのに多忙とは?』


「自由になる時間を全て学業とは別の将来のための勉強に費やしてるからですね。スワンちゃんはとてもストイックなんです」


『偉すぎる』

『中学生で????』

『子供はもっと遊んでもいいんやで……』

『ほんそれ』


【勉強は楽しいので問題ありません】


 大変「らしい」反応だ。

 実際勉強や修業についての話をする鴻ちゃんは表情には出ないけど楽しそうだもんね。


「さて、さっき作った靴を装備してまた赤ずきん行きましょうか」


「なんかお姉ちゃんが道中気になるところがあったみたいだよ」



◆トキコ

 靴【最初の靴】→【ケモノの靴R】



◆ムギ

 靴【最初の靴】→【ケモノの靴】

 頭部アクセサリー【革の帽子N】→【ケモノの帽子N】



 幻想乙女工房はオープンワールドではない。

 完全に一本道ではないけれど移動できるのも敵が現れるのも道の上だけだ。

 だから前回と同じ道を歩けば鴻ちゃんの気になったというポイントも必ず通る。

 特に変なものを見た覚えはないのだけれどなにか見落としてたかな。


【ちょっと戻って、5歩くらい】


 道をしばらく行くと鴻ちゃんからストップの合図があった。

 言われた通りに戻って周囲を見回してみたけれど特に変わった点は見られない。

 トキちゃんも同様にキョロキョロしているけれど全くわからないようだ。


【左側の背景、森のテクスチャに違和感がある。元々ある道を隠すために後からかぶせたタイプだと思う】


「隠しルートってこと?」


【多分α版以前にあった道を修正せずに隠しただけじゃない? かなり雑な仕事ね】


 そうは言うけれど私もトキちゃんも全く気付かなかった。

 言われた部分を見ても違和感なんてわからない。

 触ってみるとそこは確かに空洞で手の先が背景の中に消えていくけれど。


【通り抜けできると思うけどしてみる?】


「どうしよう?」


「視聴者にアンケートとってみようか。最悪バグってもまだ序盤だし」


 トキちゃんがアンケートを設定するとすぐに回答が入り、結果は7割が向こう側へ進むことを賛成していた。

 確かに面白そうではある。

 でも……


「メーカーに怒られたら嫌だなあ」


【こんなの残してたメーカーのほうが悪いんだからユーザーは怒られたりしないよ】


 そうかもしれないけれど。

 ネガティブに考えていても仕方ない。意を決して背景に隠されていた道へと進む。

 その先は何の変哲もない森の道だった。

 先程と風景が大きく変わってたりもしない。


「意外と普通?」


「テスト版でも使ってる背景素材は一緒だろうし急にバグったりはしないか。でもドキドキしちゃった」


「それじゃ奥に進んでみようか」


【これは予想だけど、道を消さずに上から隠すだけなんて面倒くさがりのプログラマーは他にも片付けるのが面倒なものをここに突っ込んだ可能性があるよ。未実装やもっと先で手に入るはずのアイテムとか、不採用のモンスターとかね】



 鴻ちゃんが言ったように確かにそれはあった。

 アイテム名『テスト1』とか『テスト2』とか表示されている豆腐のように白いブロック状のものだったけれど。


「雑」


【テスト用ならこんなもんだよ。手ぶらもなんだし記念に持って帰ってみたら?】


 この豆腐をクラフトで使っても豆腐っぽいアイテムにしかならない気がするけれど折角見つけたし持って帰るか。

 豆腐に可愛さを見出せない半端な可愛いもの好きなので気乗りしない。


『スワンさん何者なんだ』

『トキコの姉って時点で普通の中学生じゃないのは予想してた』

『悲報 背景テクスチャの違和感 全くわからない』

『わかるかあんなもん』


【スワンはスワンでもブラックスワン(常識を覆す)なんですよ私】


 ヘッドギアしてるからわからないけど鴻ちゃん今ドヤ顔してる気がする。

 普段クールに振舞ってても私と同じ思春期だし、幼馴染だから表情に出なくても感情豊かな部分は知ってるよ。


「変なアイテムを手に入れたから早速工房に戻る?」


「未実装のモンスターはいないみたいだし戻ろうか」


 トキちゃんは戦いたかったのか少し残念そうだ。


【そうそう、手に入れるだけならなにも起こらなくても素材として使ったらバグる可能性もあるから使うときは配信切っておいたほうがいいよ】


「わかった。じゃあ今日の配信はとりあえず一旦ここで終了ということで」


 どういうことだろう。

 バグの可能性ならさっきもあったはずだけど。

 鴻ちゃんはある程度どこでバグが起きるか予想できてるってことかな?


 意図がわからないとついモヤモヤしてしまう。




「それで唐突な配信切りはなんだったのかな、鴻ちゃん?」


【バグ対策は本当。あとはメーカーによるアプデ対応を遅らせるため】


「それなら取得場面は配信して良かったの?」


【あそこは絶対バグらない自信があった。だって存在するものを隠してるだけだもの。取得できた時点でメーカーは対策に入ると思うけれど最優先にはならないよ。どう見ても手に入るのはゴミみたいなものだし、バグも起きないから】


「テスト用ならプログラマーの人はどんな効果があるのか知ってるものじゃないの?」


【素材として使わない前提のドロップ実証のためだけのアイテムの場合はプログラマーでも知らないか忘れてるよ】


 それでも全く意味がわからない。


「……お姉ちゃんもしかして見学と言いながらこっそりハッキングしてた?」


【ちょっとゲームのAIに機械語で質問してただけでハッキングはしてないよ】


「ばっちり不正アクセスだし」


「いつの間にそんなことを」


 つまりゲームのプログラマーですら知らない情報を鴻ちゃんは得たということか。

 それなら配信を切るのも仕方ない。

 でも後でくーさんには悪いことしてたと告げ口しておこう。


【私が聞いた通りにやればバグは起きないけれど、適当に使ったらバグるみたいだから気を付けてね】



 そうして知ったこの豆腐にしか見えない素材の効果は使ったらチートと言われそうなとんでもないシロモノだった。

 一番多く手に入った『テスト1』がクラフト時に追加すると確定SRという多分いずれ課金アイテムになるんだろうなあというアイテムだったし、その他も結び付かないはずの素材同士を結び付けるものだったり、クラフトしたアイテムを素材に戻すものだったり。

 うん、やばい。

 こんなの配信で流したらいけない。


 別にSRだからといって大幅にステータスが変わるわけではないけれど、装備を全てSRで固めれば上昇値の合計はそれなりに大きくなるのだ。

 未発見のアイテムを作りだそうとレア素材を無理矢理結び付けて失敗をしてもガラクタを素材に戻せるなら何度も組み合わせを試すこともできる。


【ちなみにあそこだけじゃなくて他のステージにも蓋をしただけの隠し通路があるらしい。聞いたのはあとで全部教えるね】


 それはなんとも魅惑的な悪魔の囁きだ。

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