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赤ずきんさんこんにちは

「トキちゃん、装備を変更した状態で赤ずきんの森へ行ってみようか?」


「そうだね。えっとひっかきはスラッシュよりダメージは小さいけれど速くて連撃が可能なのか。装備で強化してあげれば今までのスラッシュよりはトータルダメージ稼げるね」



◆トキコ

 武器【最初の剣】→【ケモノの手袋N】

 頭部アクセサリー【なし】→【ケモノの帽子N】



◆ムギ

 腕アクセサリー【なし】→【革手袋R】

 頭部アクセサリー【なし】→【革の帽子N】



「可能ならまた大きいオオカミに遭遇したい。シルバーウルフ素材欲しいし」


「剣じゃないから前回と同じ方法はできないけど。でも両手が自由なら音ゲー感覚で動けるかな」


 確かに剣を振るうより腕そのものを使うほうがトキちゃんは得意そうだ。

 アクションゲームや格闘ゲームをやってるところを見たことはないけれど、反射神経と刹那の判断力という点でトップクラスの音ゲーマーが戦うことをメインとするゲーマーに劣っているということはないし。


「私は赤ずきん戦のほうが興味あるけどね」




 トキちゃんのそんな一言がフラグとなったのか、前回散策時にはこちらに気付くことがなかったステージボスの赤ずきんが私たちを捕捉し勝負を仕掛けてきた。

 彼女の武器はサバイバルナイフ。無骨なデザインを嫌ったのか若干乙女チックな装飾があるけれどサバイバルナイフという時点で女児ゲーに出てきてはいけない気がする。

 トキちゃんが装備するケモノの手袋同様にダメージは大きくないけれど連撃を繰り出すタイプだけど、若干トキちゃんのほうが速いのか攻撃を防ぎきれない赤ずきんのほうがダメージを多く受けている。


 分厚い赤ずきんを目深にかぶり表情はかすかにしかわからない。

 ボスとは会話可能なはずだけど無口なのか話しかけてくることもない。

 視線からも会話からも思考がわからないからトキちゃんは攻撃を見てから反応するしかなくて決定打に欠けている。


 本来であれば最弱のステージボスであるはずの赤ずきんがトキちゃんと拮抗しているのはふたりプレイだからなんだろうな。

 私があそこに参戦して2対1になるならそこまで苦戦する相手ではない。

 ただ私が割り込んで共闘しても足手まといになるのも事実。

 私に足手まといにならない程度の運動能力があるならそもそもこのゲームにトキちゃんを誘ってない。

 いくら実際に体を動かすことがないVRだからと言って脳は同じなのだ。平均的女子中学生に劣るどころか小学生にすら太刀打ちできない私の運動能力では戦闘になるかどうかも怪しい。


 勿論常にトキちゃんと一緒にできるわけはなく夏休みが終われば時間を合わせるのだって大変になる。

 その前にひとりでも戦えるように早めに魔法を使える装備を作り出さないといけない。

 魔法主体なら運動能力はそこまで要求されないだろう。

 幻想乙女工房は物理攻撃より魔法攻撃のほうが種類が多いらしいし、作り手も魔法が攻撃のメインになることを想定している気がする。

 それなら初期段階で用意してほしいけれど。

 逆に考えればこの辺りはまだ不慣れでも肉弾戦でなんとかなるということだろうか。


「トキちゃーん、なんか手伝うことある?」


「うーん、そろそろ赤ずきんがゲージ技の条件を満たすから、そのときに邪魔するの手伝って」


「なんかできるか考えとく」


 ダメージを受けた回数が一定数を超えるとゲージ技、所謂スペシャルアタックが使用可能になり一撃必殺が狙えたり大幅なステータスアップがされたりする。

 ただ発動するまでに少々時間がかかるのでそこを狙えということだろう。

 発動に失敗させてもいいし、その間に倒せるなら倒してしまったほうがいい。


 初期装備のなんの変哲もない剣に金属製の長剣らしい重量感はない。

 竹刀くらいの重さだろうか?

 実際の筋力は関係ないけれど重過ぎると振るうイメージが持てなくなるし、軽すぎても良くないのだろう。

 これなら私でも邪魔くらいはできそうだ。


(とき)()ちたり]


 ここにきて赤ずきんが初めて言葉を発した。

 ローテンションな声とは裏腹に大きく歪に笑う。

 暖かそうな毛織の赤ずきんは赤いベールへと変化し、チロリアンテープに縁どられた可愛らしいワンピースは裾が伸び華美なドレスへと変化していく。

 まるで少女が魔女へ変身していくようなシーンに一瞬妨害を忘れかけ、すぐに正気に戻すように頭を横に振った。


 私が選んだのは投擲だ。立ち回りに自信が無くても投げるくらいなら私にもできる。

 石ころ、オオカミの素材、それから剣。

 私が投げられるアイテムを全て赤ずきんへ投げつけた。

 変身中は動きが制限されるので私でも命中させることができる。ちょっと卑怯な気もするけど。

 もちろんそれで大きく傷付くようなことはない。赤ずきんにとっては羽虫みたいなものだろう。

 その羽虫を無視し続けられたら私の作戦は失敗だけど、どんな人でも目の前を飛ぶ羽虫を無視し続けるというのは意外に難しい。


 赤ずきんは自分と対峙しつつも攻撃の手を止めたトキちゃんではなく横入りしてきた私を敵と見定めたのか攻撃モーションを私に対して行い始めた。

 そしてその隙を見逃すトキちゃんではない。

 燃え盛るように赤く染まったサバイバルナイフが私に届く前に、トキちゃんの爪が赤ずきんの背中を大きく切り裂く。

 私の妨害中に神経を研ぎ澄ましてクリティカルを狙ったのだろう。血は吹き出したりしないけれど通常時よりダメージが大きい。


「こっちもどうぞ!」


 先程投げた剣が近くに落ちていたので拾い、立ち上がりながら赤ずきんに向けてスラッシュを放つ。

 威力は大したことはないけれど至近距離でガードもされなかったのでダメージが殺されずにそのまま通ったようだ。

 そしてよろけて膝をつく赤ずきんにトキちゃんは容赦なく飛び掛かった。




「赤ずきん戦のあとは何匹オオカミと戦っても前回の大きなオオカミは出ませんでしたね」


「やっぱり赤ずきんと戦わないことが条件なんじゃないかな?」


『流石に女児ゲーで連戦させないのでは』

『トキコならいける』

『一般女子小学生ではないからな』


「これ多分ひとりプレイならもう少しステータスが弱いステージボスになる気がします」


「確かに序盤とは思えない堅さだった」


「あとは魔法を使った攻撃のほうが通るのかも?」


「ムギちゃんの攻撃用に魔法装備が必要か」


「本棚にあるのはさっきの『赤ずきん』、それから『ラプンツェル』、『シンデレラ』。魔法に関係してそうで難易度も低めなのは『シンデレラ』ですかね」


「赤ずきんはまた周回するとして、シンデレラも合間にステージ探索してみよ」


 工房の本棚から本を選ぶことでステージを変更することができる。

 多分アップデートや攻略で本の種類が増えるのだろう。


 そうだ素材の確認しなきゃ。


◆オオカミのなめし革

N 25

R 3

SR 1


◆オオカミのキバ

N 12

R 8


◆オオカミのツメ

N 7


◆チロリアンテープ

R 2


◆レッドジェム

R 2


◆ラタン

R 2


「赤ずきんの素材は人数分ドロップなんですかね? ラタンはアクセサリー素材なのか武器素材なのか……」


「ムギちゃん、ラタンってなに?」


「えーと……庭のサンルームに置いてあるカウチがあるでしょ? あれの材料がラタン。別名は籐」


「へー」


 みーさんが植物好きなので我が家には園芸用のサンルームがある。植物の面倒を見ているのは主にくーさんだけど。

 何故かはよくわからないけれどみーさんが育てる植物はどんなに生命力が強いものでも長生きしないから仕方ない。

 本人がやる気があり勉強もして変なことはなにもしていないのに不思議だ。

 サンルームの隅でうちの母も花を育ててるけれどみーさんには絶対触らせないし。


『サンルームにラタンのカウチ……セレブの気配』

『セレブじゃなくてもそれくらいできる』


 2家族7人3馬力って考えたら多少余裕はあるかなって感じでセレブではない。

 あとはトキちゃんの獲得賞金とか(こう)ちゃんのバイト代とか……私だけ極端に生産性が低いな!

 みーさんは専業主婦だけど家事を一手に引き受けているわけだし。

 ごく普通の中学生はバイトで貢献もできないし夏休み中はいつもより家事を手伝おう。

赤ずきんちゃんは森に入るから装備は鉈かなあと思ったけれど鉈は乙女じゃないなあと思ってサバイバルナイフです。

乙女?


藪の中に入るときに刃物でざっざっと道を切り拓く人かっこいいですよね。

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