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朽ちた栄華の王子様は

「紬……入ってもいい?」


 自室で宿題の続きをしているとドアの外から母の声がした。

 かなり元気がなさそうだ。


「……どうぞ」


 部屋に入ってきた両親はかなりしおしおと萎びた青菜のようになっていた。

 みーさんに随分と絞られたのかもしれない。

 怒らせると滅茶苦茶怖い人だし。


「紬、しっかりしてるからってあなたが中学生だってことを忘れて……甘えてしまってごめんなさい」


「親なのに紬の気持ちを考えていなくて、とても申し訳なく思っている」


 確かにモヤモヤしていた原因は両親にあるけれど、それを直接ぶつけるのは気が引ける。

 みーさんに打ち明けた時点でモヤモヤはかなり解消されてしまったから、なんて返せばいいのか困った。


「えっと……まだ時間はあるからそのときになったら気持ちの整理がついてるかもしれないけれど、私にとっての一大事がお母さんやお父さんにとってはそうじゃないんだって言われたみたいで少しつらかった」


 私が不満を表に出すのを躊躇ったから両親が気付かなかったところもあるだろう。

 あのときは他のモヤモヤもあったから自分でも自分の気持ちがよくわからなくなっていたし。


「もし来年、勉強するためにみーさんの言ってた部屋に避難したいって思ったら……私行ってもいい? 親の目の届かないところになってしまうけれど」


「それは勿論。でもそれはこの家から紬を追い出したいとかそういうんじゃなくて……」


「わかってるよ。ちょっとやり方を間違えてもお父さんとお母さんが私を好きなの知ってるし」


 ただしっかりしてるという評価はあまり自分に合ってない気がする。

 顔に大怪我して心配させたり、貯金とかせずに趣味に没頭する質だし。


「私たちだけじゃきっと紬はこんないい子に育たなかったわね」


 実際子育てに関してはかなりみーさんの割合が多いからそれについてはなにも言わないでおく。

 生活共同体だし適材適所で間違ってないんだよ多分。


「……妹か弟の名前、私も考えていい? そうしたら仲間外れって気持ちが軽減されると思う」


「ああ、それはいいな。沢山考えてその中から家族みんなで選ぼう」


 私がちゃんと姉になれるように真剣に名前を考えよう。




「ごめんムギちゃん。突発で予定入っちゃった」


 翌日朱鷺ちゃんから一緒にゲームができないと謝られた。

 同じトップクラス音ゲーマーのオンライン対戦会に呼ばれてしまったらしい。


「装備作ったし、ひとりでも周回できると思うから大丈夫よ。機会が少ないほうを優先してあげて」


 どうせ周回は配信しないつもりだったので問題ない。

 魔法は連発できないけど杖そのもので殴るのはできるし。

 多分当たるのは茨だし結構痛いんじゃないかな。


 それにしても夏休み入った直後にやっていたのを最後に朱鷺ちゃんが宿題に触っている様子がない。

 今年も最終週に片付けるのだろうか。

 人に手伝わせるって選択はしない子だけど本当にぎりぎりまでやるから見てて間に合うか心配になるんだよ。



 というわけでひとりでシンデレラを周回しよう。

 魔法を連発できないから道中のシャドウは苦戦するかと思ったけれど遠距離からの攻撃が可能になったので視界に入った瞬間に魔法を発動すれば複数体を相手にしてもなんとかなるみたい。


 赤ずきんの森に出てくる大きなオオカミのようにシャドウだけを沢山倒すと出てくる敵もいるのだろうか?

 ドレスを着たシャドウのご令嬢たちの影の先にいるとするならば……

 って、攻略サイト見てるから何が出てくるかは知ってるけど!

 それでも自分の気分を盛り上げるというのは大事だ。冷めた気持ちで遊んでもゲームは楽しくないからね。


「ねえ、王子様もそう思わない?」


 飛びかかるように距離を詰められ、私に向かって飛んできた一閃をなんとか杖で受け止める。

 重さはないので押し切ってどうにか距離をとる。

 これもいつものふたりプレイだと重さが増して厄介なんだろうな。


 金の冠をかぶったスケルトンはバランスを崩しつつも倒れずに体勢を立て直した。

 そう、舞踏会の主役はシンデレラではなく王子様だ。

 レイピアのように細い剣を構えた彼はゲストである令嬢たちを害した侵入者へ敵意を向ける。


 私はトキちゃんみたいな立ち回りをできないから近接タイプはあまり相手したくないけれど、あの攻撃の軽さなら何発か食らいながらでも魔法で反撃できるだろう。

 筋肉も軟骨も存在しない王子様の攻撃は直線的だし。



 ああそれにしてもこの世界の童話はどうしてこう、きな臭いのか。

 ちょっとわくわくしてしまうじゃない。

昨日は39.5℃まで熱が上がりました。

死ぬかと思った……

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