困ったときは人に頼ろう
チャットアプリを立ち上げて『女児ゲー総合攻略』ルームに入る。
掲示板でもいいけれど多少知ってる相手のほうが話しやすいし。
ムギ> こん〜 ムギですけど
女児ニート> ムギ氏ひさしぶりー
ルン> ムギちゃんきたー
ムギ> 誰か幻想乙女工房進めてる人います? 攻略サイトに載ってない敵が出てきちゃって
女児ニート> さっきの配信のやつだね?
まるる> 私も見てた! なにあれやっばい
ムギ> 日曜だから結構見てたんですね 一応切り抜きも貼っておきます <動画URL>
ルン> 女児ゲーとは
まるる> 無双できる易しい難易度と見た目のいい服にじゃぶじゃぶ金を使うのが気持ちいい勢としては乙女工房は邪道
ムギ> まるるさんは課金中毒かな?
まるる> 親の金で揃えたLRおいしい もぐもぐ
ルン> おいしいね
幼女侍> ムギ氏 トキコ嬢装備のレシピ開示頼む
ムギ> 侍さんやってるのか 使った材料は書いてもいいけどレシピは開示しないよ あと意図的に情報漏れを作る
幼女侍> それでもいいのであとでDMください
ムギ> おけ
女児ニート> こっちでも一応同志に聞いてみるけどまだ発売4日だから厳しいかも
幼女侍> 条件がふたりプレイだったら詰む
女児ニート> 侍兄さん俺とヤろうぜ
幼女侍> やだイケメン
ルン> これって装備の防御力に物理とか魔法とかあるの?
ムギ> 表記はないよ 内部はわからん
ルン> 多分あるんじゃないかなあ ふたりとも装備に魔法に対する防御値が皆無で、あの矢が魔法判定で即死くらってる気がする
幼女侍> 赤ずきんの森だと魔法系素材は手に入らないから別ステージで装備を整えて
ムギ> 次は別ステージ行ってみるか
まるる> ニート氏は雑食だと思ってたけど幻想乙女工房はやってないの?
女児ニート> 買ってはいるけど外で幼女の怪訝な目と保護者の疑いの目の中やる女児ゲーがいいので家庭用は後回しになりがち
ムギ> へんたいだあ
まるる> へんたいだあ
ルン> 通報しなきゃ
幼女侍> ニート氏……いいやつだったよ……
女児ニート> ひでえ 侍兄さんも同類では?
幼女侍> ようじょです
ムギ> 成人向け女児ゲー同人誌描いてる人がなんか言ってる
幼女侍> ようじょなので買うのは有罪 描くのは無罪!
まるる> リアル幼女に謝れ
話が脱線したけれどここのメンバーは女児ゲー界隈で手広くやってる人が多いしそのうち情報も上がってくるだろう。
ルンさんの言っていた通りあの赤い矢はオオカミからの攻撃を受けたときのような衝撃がなかったから魔法なのかもしれない。
次は魔法系装備を揃えよう。私も遠距離攻撃したいし。
幼女侍さんに『テスト1』など以外の使った材料を羅列しただけのDMを送り一息つく。
配信見てるならなにを隠したのかは気付くかもしれないけれど。
そういえば他の人の配信見てないな。
あの素材を取得してたり使ってる人はいるのだろうか?
配信サイトで実況動画を漁るとそれほど数が多くはないけれどいくつか幻想乙女工房のプレイ動画が出てきた。
元々の知名度もあるから朱鷺ちゃんの動画が一番再生多いけれど。
金曜私たちが配信した以降の動画はあるけれどシンデレラとかラプンツェルに行ってるみたい。
謎の白い豆腐素材より先に進んで新しいステージを解禁するほうを優先してるのだろうな。
あとは配信してない層が試してるかもしれないから掲示板も見ておくか。
こちらはちらほら素材取得者がいる。
でもゴミデータって言われてるね。
気付いた人が隠匿した可能性もある。
直近だとさっきの赤き狩人の話題も出てた。どうやら私たちの配信が初出っぽい。
シンデレラやラプンツェルも攻略済みの人が新しいステージが増えないのはこの形態をクリアする必要があるのでは、と書き込んでいる。
普通にアップデート待ちだと思ってたけれどそういう考えもあるか。
いや女児ゲーだしそこまではしないのでは?
ところどころ女児ゲーの皮をかぶりきれてないときもあるけど。
「でもまあ最終的には倒したいよね。一撃で殺されて反撃もできないなんて嫌すぎる。魔法なり防御なり対策は絶対にある筈だしもしかしたら弱体化条件もあるかもしれない。時間がかかっても絶対倒してやろう」
◇同日 オニゴ社 幻想乙女工房スタッフルーム
「なんだこれ、形態変更なんて設計書にあったか?」
今日は日曜だがリリース後初の週末であるため社内にスタッフが揃っており問題の配信は全社員で見ていた。
「いえステージボスの種類はノーマルと強化版の2種のみで強化版から変化するなんてどこにも……」
「バグ……ではないな。意図的に隠されてたものだ」
発売初日からプレイ動画を配信しているプレイヤーの中に他方面の有名プレイヤーがいたことに喜んでいたがそれが裏目になってしまうかもしれないとディレクターは焦る。
一昨日テストバージョンから消されずに残っていたゴミデータが発見されたことについては大した問題ではないとそのうちアップデートで対処するつもりだったが、こちらに関しては傍観するわけにはいかない。
「赤ずきんの最終調整プログラマーは?」
「確認します」
幻想乙女工房はオニゴの社内プログラマーだけではなくエージェントを通して外注プログラマーも多数参加している。
そのため開発費がかさみ宣伝費を削ることになったがクオリティアップには繋がった。
「全ステージボスの最終調整者は外注のCGI氏。最終チェック者はディレクターで全てOK通ってます」
「彼か!」
今回依頼したプログラマーの中でもかなり異質な彼をディレクターは覚えていた。
実績がないが実力はベテラン以上であると紹介された彼の依頼料は信じられないほど安く、それでいて期待以上の仕事をしてくれた。
文面のみのやり取りにもかかわらず、こうしたいと曖昧な依頼に対しても快く対応してくれたし社内プログラマーにもきれいなコードを書くのでわかりやすいと評判だった。
素材出現率やクラフトでオリジナルレシピを行使する際に制作物の見た目や性能を調整するディーラー役であるAIも彼の作だ。
最初から最後まで誠実だと思っていたし今もそんなことをする人物には思えないから彼以外のプログラマーが行ったことではないだろうか。
エージェントを通せば彼に連絡は取れる。
最終調整時に不審な点がなかったか確認することはできるが……最終チェックで気付かなかったのはディレクター自身だ。
「バグでプレイ不能になったわけでもないからまずは再現可能か確認しよう」
「わかりました。最終テストバージョンで確認します」
「プレイヤーにも確認したいが……」
「配信主の連絡窓口がフレバリームーン社なので少し面倒ですね」
「どうしても第三者が間に入るか」
少人数で立ち上げたソフトハウスであるオニゴに対し、大手ゲームメーカーであるフレバリームーン。
そこが抱え込もうとしている小学生プレイヤーに問い合わせをして直ぐに取り次いでもらえるかはわからない。
後回しにされる可能性も高いだろう。
「それでも念の為取次ぎを頼もう」
「はい」
なにも悪さをしないのであれば仕様で押し通す手もある。
今はできることをやろうとディレクターは設計書を見直すべく立ち上がった。
女児ニート氏>高等遊民 いついかなるときでも即レス
幼女侍氏>兄さん呼びされてるけど中身は成人女性
まるる氏>ルン氏と双子ロールをよくする 女装趣味
ルン氏>まるる氏と双子ロールをよくする 男装趣味