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最強シスコン執事の化学実験室(ラボラトリー)  作者: リア
第一章 化学者が執事と呼ばれるまで
25/31

25話 枠の話

 ティア様への誕生日プレゼントは、言うまでもなく自作である。がしかし、化学の、正確には液体の力にも限度があるのだ。


 それが、成形なのである。


 材料程度であれば、どうとでもなるのだ。形さえ問わなければ。液体を混合して固体を生成するにしても、粉末になるのがオチなのだ。


 そういうわけで、ティア様への誕生日プレゼントに相応しい製品を見つけるべく、学校帰りに寄り道をしているわけなのである。


 めぼしい店を見つけるまでに語っておきたいと思うのが、このあらゆる液体を作り出す能力についてである。


 先程成形について述べたが、あらゆる液体を生み出せるのならば、鋳型を作ってそこに液体の鉄でも流し込めばよいではないかと思うかもしれない。しかし、そうは問屋が卸さないのである。


 あらゆる、などと銘打っておいて、条件があるというのは、さすがEランクと言わざるを得ないのだが、それはひとまず置いておこう。


 その必要な条件というのは、温度である。生み出す物質は、およそ常温から僕の体温までの間の温度において、液体でなければならない、という法則を、先日、ティア様へのプレゼントを考案する段階で発見した。


 おかげで、金属類を扱おうとするのならば、こうして店を見て回り、既製品を探す必要があるのである。


「これは」


 さて、めぼしい装飾品店が見つかった。ショーケースに展示されている商品は、どれも質が良い。


 シンプルなデザインであるが故に、加工の稚拙さが際立ってしまうものだが、そのハードルを見事にクリアしている。


 早速、店内へ入る。こう体が小さいと、扉を開くのも一苦労だ。


「いらっしゃいませ...?」


 さすが、王都のアクセサリーショップというだけあって、店員も洗練されている。姿勢が良く、お辞儀する姿さえも美しい。


 ただ、僕の姿を認めると、さすがの彼女も目を丸くした。当然だ。いかにも高級そうな店に、わずか6歳。いや、この間誕生日を迎えたから7歳になるわけか。の子供が入ってきたのだから。


「お客さま、失礼ですが、年齢をお訊きしてもよろしいですか?」

「7歳です」

「7...」


 店員の女性は、あきれたような視線を僕に向けた。甘んじて受けよう。


「坊や、ここは大人と一緒に来るところなのよ」

「ええ。承知しております。ですが、今日は親に内緒で手に入れたいものがあって参りました」


 いやに丁寧な受け答えをしてやったので、少なくともただの子供ではないと理解してもらえただろう。それが黄色人種だとしても。


「親に内緒で...お客さま、やめておいた方がよろしいかと思います。お父様かお母様と共に、もう一度ご来店ください」


 たしかに店員の言う通り、母を連れて来たら、すんなりと応対してくれたのだろうが、やはりこういったものは、自分一人の力で形にしたいではないか。


「ご心配なさらずとも、親の物を盗んで商品の対価にしようというのではありません。ただ、親には知られたくないものですから」

「左様でございますか。では、その理由をお聞かせください。それによって、あなたへの対処を決めさせていただきます」


 よくできた人だ。現代日本ほど法の整備もされていないこの国で、商品売買の背景まで気にかける人がいようとは。その金が盗んだものであれ、商売が成立すれば、店は売上を得るのだから、客が子供であろうと、引き止める必要はないというのに。


「妹のために、プレゼントを作りたいのです。できることなら、親の力を借りず、独力で」

「...良いでしょう。あなたに商品をお売りします。ですが、特別な値引きなどはありません。ご留意ください」

「はい。ありがとうございます」


 第一関門クリアといったところか。


 他にも問題点はあるのだが、まずは欲しい商品を探そう。


 チェーンの先に宝石飾りがついたネックレス。シンプルながら、素材の宝石を最大限活かした指輪。豪華を体現したような、大量の宝石が散りばめられたブレスレット。


 偏見かもしれないが、いかにも貴族目当てらしい商品を取り扱っている。嫌いではないが、爺には少々派手すぎる。


 もちろん、ティア様は素材から美しいので、どれを身に付けても似合うし、彼女の可愛らしさを引き立てるのだろうが、今回の目的はそれではない。


 僕が真っ直ぐに向かったのは、ブローチのショーケース。


 そう、ティア様へのプレゼントには、ブローチを考えているのである。


 さて、数あるブローチが展示されている中、僕はあるものに惹き付けられた。中心には、500円玉ほどもある青い宝石。そして、注目すべきはそのフレーム。光沢ある銀色のそれは、まるでヒマワリの花弁のように、中心の宝石を支え、高めあっている。


「素晴らしい」

「お褒めに与り、光栄にございます」


 思わず呟いてしまうほど、僕が目指すものに近い製品であった。


「その商品でしたら、五十万センドになります」


 店員さんから金額が提示される。およそ貧民街の住民一人がその生涯をかけて得る収入全体に等しい。普通ならぼったくりと判断されても仕方のない値段だ。


 しかし、やはりこのアクセサリーにはそれだけの価値がある。これだけ大きな宝石というのが一番だろうが、やはり加工技術もその金額の一端を担っているだろう。


 さすがに僕も、そこまでの金額をパッと出せるほど裕福ではない。


 それどころか、実のところ、僕はお金を持っていない。センドというのはこの国のお金の単位だが、本当にたったの1センドも。


 そもそも、お金というのは、上流階級でしか流通していない。平民は物々交換が基本だ。そんな希少なものを、子供に預けるような親はいない。


 では何をしに来たのか。僕はなにも、宝石を買うとは一度も言っていないのである。物々交換が適用できる範囲の値段のものを狙って来たのだ。


「僕が欲しいのは、宝石ではなく、このフレームなのです」

「フレーム、でございますか。すみませんが、フレーム単体での金額はわかりかねます。工房の責任者に聞いてみなければ」


 それはそうだ。宝石店で宝石でないものを欲しがる客は前代未聞だろう。


「その工房というのは?」

「この近くにあります。ですが、今日は休日となっているはずです」

「そうですか」


 これは運が悪い。その工房責任者とやらに直談判し、どうにか売ってもらおうと思ったのだが。


 諦めて帰るとしよう。短いが、まだ時間はある。


「お待ちください」

「どうなさいました?」

「休日ではありますが、もしかすると、工房に出ているかもしれません。彼はそれが生き甲斐のようなものですから」

「本当ですか」

「はい。工房までの地図をお渡しします。お時間があれば、訪れてみてください」


 店員は壁に掛かった箱の中から、一枚の紙切れを取り出した。それには既に地図が描かれている。


 随分用意が良いのだと思ったが、オーダーメイドを所望する貴族も多いのだろうと考えると、納得できる。


「ありがとうございます」

「いえ。それでは、妹様へのプレゼントが素晴らしいものになることを祈っております」


 店員はもう一度丁寧なお辞儀を見せてくれた。再び関わるようなことはおそらくないだろうが、良き人であったと心に刻んでおこう。


 さて、たらい回しを食らったようではあるが、目的の完遂まではもう少しである。

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