入園
俺は佐津川大河、ピチピチの4歳だ。
季節は4月、今日から日景保育園での毎日が始まる。
何てことないごく普通の保育園だ。
「ママ、バイバーイ」
何処からともなく親への別れを告げる言葉が聞こえてくる。
楽しそうに門をくぐる者もいれば、親との別れを惜しむように振り返りながら門をくぐる者もいる。
だが、それぞれに共通する部分がある。
奴らは門をくぐると同時に戦士の顔になるのだ。
基本的に俺ら幼児は大人の前で猫を被っている。
泣いたり笑ったりは全て演技。
本当の顔は園の中でしか見せないのだ。
「おはよ大河。いよいよだね」
後ろから髪がボサボサの幼児が話し掛けてきた。
「よう、やっくん。素敵な髪型だな」
「寝ている間に髪の妖精がセットしてくれたのさ」
そんな妖精がいるなら俺の親父に髪を植えに来てやってほしい。
こいつは関 刃だ。
俺はやっくんと呼んでいる。
親同士が古くからの友人らしく、やっくんとは生まれた時から一緒だ。
「しかしあれだな、たった一学年しか変わらないのに年中、年長の奴らは顔つきが違うな」
俺が少し驚いてみせるとやっくんはなぜか誇らしげに言った。
「そりゃあ1年幼児大戦やってるんだから」
「幼児大戦ねぇ…」
ちょうど俺らが生まれた頃から始まった「幼稚・保育園対抗お遊戯会」、通称「幼児大戦」は、全国の幼稚園と保育園が日本一を目指すイベントで、国が本腰で力を注いだこともあり、今やテレビ中継されるほど注目を浴びるようになったそうだ。(ソースはやっくん)
勝敗を決めるのは全てお遊戯だが、何のお遊戯で戦うかは試合当日まで分からないらしい。
「スカイフィッシュ組は、私のところに集まってくださーい!」
周りの幼児を眺めていると先生から集合がかかった。
日景保育園は各年代2クラス構成で、俺はやっくんと同じスカイフィッシュ組だ。
もう片方のクラスはビッグフット組という組名だが、この組名を提案した人間と承認した人間こそUMAではないだろうか。
絶望的なネーミングについてはまた追究するとして、いよいよ組のみんなと顔合わせだ。