親友ポジの帰り道
遅れました。許してください。
不定期ですが、よろしければこれからも王道を踏み外したこの妄想話にお付き合いしていただければ幸いです。
俺と村本の関係は、一先ずの決着……と言うより、停戦という形となった。これから俺は村本への返事を自分なりに探していく事になるわけだが、何はともあれ時刻は既に4時を越えている。部活や学校に用が無い生徒はもう既に校内にはいないだろう。一緒に帰る予定だった誠達も待たせている訳だし、今日はこの辺で帰るという流れになったのだが…………。
「ぁ、あの……本当に私も……一緒に、その……帰って、いいの……?」
「いいっていいって! ね、ひ・の・く・んも、そう思うでしょ?」
「……杏奈、お前絶対わざとだろ」
「だよなぁ。それにしても、戻ってくる時に杏奈も一緒だなんて思わなかったぞ。一体何があったんだ?」
「いや、まぁなんだ……ちょっと説明すんの難しいから、今度話すわ」
その集まりの中に村本が入ったのは、果たして誰の提案だったのか。杏奈が普通に誘ったのか。それとも流れでそういうことになったのか。入ってきた校門を、朝より一人多い人数で出ていく。
「村本さん……だったかしら? 改めて、私は七瀬 クリス。一年前からこの町に引っ越してきたよそ者だけど、良ければ仲良くしてくれると嬉しいわ」
「あ、わたしはいずみ、朱坂 いずみです! そういえば、一年生の時も一緒のクラスだったよね? 去年は余り話せなかったけど、今年は仲良くしてくれると嬉しいな」
「俺は鈴原 誠。いずみ達共々よろしくな、村本さん」
「ぁ……だ、大丈夫。ょ、よろしく、お願いします。七瀬、さん……朱坂さんに、鈴原くん……」
自身を取り囲み口々に自己紹介をする面々の勢いに呑まれそうになっている村本。まぁどうあれ俺としては友達からと言った手前、こうやってこちらの輪に入ってくれるの大変はありがたいのだが……。
「それでさっきの話、結局どうなったの? 一緒に帰る事に何も言わないって事は断ったって訳じゃないでしょうし。そもそもあの呼び出しが本当に『そういう理由』だったのかも気になるわ」
「いや、だからそれは後で言うって……」
「一応帰ってくるまで待ってあげたんだから、それぐらい聞く権利はあるんじゃない? それにそこのウサギも一緒になって帰ってきたのも何か理由があるんでしょう」
「うんうん、わたしも聞きたい! あっ、勿論迷惑じゃなければ、だけど……」
「ぁ、あの……そのっ……」
「こいつら、聞きゃしねぇ……」
待たせていた事を利用して、さっきからクリスが手紙についての内容をガンガン聞いてくる。当の本人二人が揃ってるのもお構い無し。むしろそれを好機とも思っているのかもしれないような。それに何より…………。
「ぁ……ッ……」
「えーっと、だなぁ……」
気まずい。思い返すだけでも中々の気恥ずかしさに覆われるのに、時々(杏奈に強制的に押し込まれて)隣にいる村本と少し目が合ったり、合わなかったり……そんなもどかしい雰囲気も相まって相当気まずい。
「まぁ、うん。とりあえずは友達から、ってやつで? うん、そんな感じ……」
「貴方、肝心なところでなんでそんな……」
「ッ……いや、その通りすぎて雄介君、ぐうの音も出ないわ……」
クリスからのどこかつまらなさそうな、攻めるような視線に耐えられず反論しようとするも、実際言わんとする事もわかるし、今回に関しては俺の至らなさによるところが全てなので、認めるほかない。
「まったく、雄介のヘタレ具合にはあたしも驚いちゃったわ。せっかく歩美が頑張っ……」
「そもそもどこかのウサギが無理強いしたせいもあるかもしれないわね。ごめんなさい村本さん。せっかくの大事な話をうちのウサギが邪魔しちゃったみたいで……」
「ぁ、あの……そんな、むしろ……その……」
「い、いちいちウサギ言うなッ! って言うかこの話の立役者であるあたしがなんでさも邪魔者みたいに言われなきゃならないのよ! そもそも『うちの』ってなによ!? アンタのペットになった覚えもないし、こんな気まぐれネコが飼い主なんてこっちから願い下げよ!」
「あら、今日はいつになくよく吠えるわね。蚊帳の外に置かれ過ぎてさびしくなったのかしら」
「こ、このアホネコ、あたしの頑張りを知らないくせに……!」
「ぁ、あの。ふ、二人とも……」
「ちょ、杏奈ちゃん落ち着いて! もう、クリスちゃんもそんなに煽っちゃダメだよっ! 村本さん、ホントに困ってるから……!」
「……ユウと村本さんの事は一旦置いておくとしても、少なくとも友人関係としては大丈夫なんじゃないか?」
「こう見ると、まぁ……そんな気はしなくもない、か……?」
さっきまでの話は何処へやら。いつも通りの騒ぎに昨日までいなかったはずの村本が、心なしかその場面に溶け込め始めている様に感じ、苦笑いを浮かべる。
進級一日目にして、いや、一日目だからこそなのか、密度の高い一日になったものだ。
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帰宅後、自宅のリビングで1人、自分のスマホに映る画面を眺める。
【村本 歩美】
「はぁ……」
そこに写っていたのはさっき杏奈によってほぼ強制的に交換させられた昨日まではこの端末に入ってなかった人物の連絡先。今日知り合った女の子の名前。……自分に告白してきた女の子の名前。
『これからよく会う人の連絡先無いと不便でしょ? わかった? わかったわよね? わかったならとっとと交換!はい、今すぐ!』
「あいつが何に燃えてるのかは知らねぇけど……いや、楽しんでるだけなのか?」
本心がどうかは置いといて、どうやら杏奈は俺と村本の関係を全力でバックアップ(?)する予定らしい。
興味本意か、それとも何か他に思うことがあるのか……いずれにせよ、変に空回りしなきゃいいが……。
と、色々考えている間に玄関から音が響いてくる。聞こえてくる声とレジ袋の擦れる音から察するに恐らく母がかえってきたのだろう。
「ただいま~。って雄介、あんた帰ってきてたの?」
「おかえり、おかん。いや、もう6時越えてますけど。新学期一日目でこの時間まで学校にいるって俺なにしたんだよ……つうか、電気と靴で気付けって」
「いやほら、いるのはわかってるけど本能的に聞きたくなるのよ、そういうのが。あんたもなんとなくわかるでしょ?」
リビングにはいって来るなり軽口を叩いてくる、俺と同じ長い茶髪の髪を後ろで括った女性が俺の母さん、『日野明子』。
元々はこの町にある複合商業施設、『白波総合ホール』に就職するため白波の外から来た人、らしい。本人いわく『周りの景色がよくて、色々揃ってる環境の中で調べたらこの会社が一番だった』からだそうだ。その理想を叶えるために相当な努力もしたそうだが、その話は恥ずかしがっていまだにしてくれない。俺の父親とはその施設に出来る新しい建物の建築の際に知り合ったらしい。
「……あっ、そういや雄介。あんた告白されたって?」
「なっ……情報はっや。母親、それ誰から聞いた?」
「さっきいずみちゃんからちょっと。今日誠君がくるからその為の買い出しって言ってたけど、その時に色々。それで、どうしたの? ほら、お母さんに言ってみな?」
「……女性ってこういう話題マジで好きだよな」
「そりゃ自分の子供の事なら誰だって気になるでしょ、親なんてそんなもんよ。で、どうなった? もしかしてもう付き合った?」
こちらの事情そっちのけでグイグイくる母さんに、先程のクリスやいずみがそれとなく内容を聞いてくる姿を重なって見え、小さなため息をつく。ここで変にはぐらかしても余計に騒ぐかいずみ達に聞いて回るだけだろうから、正直に話したほうが面倒が少なそうだ。
「いや、保留。友達からお願いしますってやつ。とりあえず今日杏奈に言われて連絡先だけ交換した。ほら、この人」
「村本歩美ちゃん、ねぇ……聞いたことないなぁ。写真とかある?」
「いや、ねぇよ。ちゃんと話したのも今日初めてだぞ」
「かぁ~ッ使えないわねぇあんた。で、その子どんなだった? 可愛い子?」
「どうって言われても……」
「にしても、雄介にもそんな話が来る頃になるとはねぇ……あんたその手の話これっぽっちも無かったし。『康介』は長い事付き合ってる彼女もいるから心配なかったけど、あんた交遊関係は結構あるのにそういう噂が流れないの、本当に謎だわ。あ、噂と言えば誠君、あれからどうなったの? いやほら、あんな可愛い子3人と、それ以外にも色んな人に言い寄られてるのに気づきもしないじゃない。見てるこっちは楽しいと言えば楽しいけど、本人たちからしたらたまったもんじゃないだろうし。というかそもそもなんであの子に彼女が…………」
……部屋に戻っていいっすか、母上?
さて、母親の明子さん登場です。父親と話の途中で出てきた『康介』、雄介の人物紹介にあった年の離れた兄ですね。その二人もそのうち出ます。
それと雄介君は親の呼び方がコロコロ変わります。地の文では基本的には母さん呼びですが、口に出すときはその時の気分で色んな呼び方になります。アレですよ、思春期特有の気難しい奴です。たぶん。