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親友ポジの返事

更新するペースを保ちたい。なんて思ってますけど、こんなのマラソンと一緒ですよ。事前に決めたペースを守れることなんて一度も無いんです。……いや、それは俺だけか。

「えーっ、と……」


「……っ……ぅ……」


 言葉が出てこない。急に襲ってきた言い様のない羞恥から逃れるように視線をそらす。告げられた感情が、余りに唐突で。放たれた言葉が、思ったより直線的で。……自らの感情に熱され次第にうつむていく村本の顔が、鮮明に目に焼き付いて離れない。


 もて余した衝動が抑えられず、意味もなく左手で頭を掻く。何を伝えればいいのか、必死に頭を巡らせるも、出てくる事と言えば先程の短くも密度の高い一部始終が永遠とリピートされるだけ。必死に取り繕い、喉元まで出ようとしていた言葉も、頭が反射的に押し戻してしまう。



「あーっと、悪い。理由とか、聞かせてもらっていいかな……?」


「っり、理由は、その……一年生の時に……助けて、貰って……だから……えっと……だか、ら……その……ぁ……」


「わ、悪い。ちょっと試すって言うか、急がせるような真似して。い、一旦落ち着いてくれ、なんだ……そう、深呼吸して……な?」


「ぁ……はぃ……。ご、めんなさい」


 張り摘めた緊張や沈黙に耐えられず、取り繕うように無難な言葉で間を持たせる。ようやく口から出た言葉もタイミングが悪かったのか、それとも単純に言い方が悪かったのか、相手を困らせてしまったようだ。



「……ぁ、あの、私……村本 歩美……です」


「あー、戻っちゃったかー……」


「その、理由は……い、一年生の時の、体育祭で助けて……くれ、て……」


「体育祭? なんかあったっけそれ……」



 自分で聞いておいて何だが、村本が言うようなヒロイックなイベントなど自分には全くといっていいほど縁がない。そもそも体育祭で助ける、と言うのがあまり想像できないのだ。体育祭で誰かに手を貸すなど、強いていうなら借り物競争ぐらいではないのだろうか。



「せ、正確には、体育祭で使うテントを運ぶ時……私、テントの骨組みに、潰されそうになって……そ、その時に、日野君に……助けて……もらって……」


「体育祭、テント……潰されそうに……あっ」



 そこまで言ってようやくその時の出来事を思い出せた。言われてみれば体育祭の前日、崩れてきたテントを腕で無理やり受け止めた事があった。その時は腕にアザができてしばらく鈍い痛みに悩まされたし、その一日は左腕に力が入れ辛かった覚えもある。だが、自分としては落ちてきた物を反射的に受け止めただけで、誰かを助ける為という行動ではなかったのだが……。



「……私、あの後お礼を言おうと思って……でも、どのタイミングで言ったらいいか、わから、なくて……わ、私のせいで、日野君に怪我もさせちゃって……本当に、ごめんなさい……!」


「あ、あぁ……確かにテントを受け止めた事はあったけど、怪我っつっても別に対した事もなかったし……まぁ、別に気にすんなって。俺も実は今思い出したし」



 いつの間にか村上の言葉は告白から謝罪へと変わっていた。先程の羞恥に染められた顔とはうって変わって、どこか怯えるような表情のまま、震えながら深く頭を下げた。……先程のやり取りから察するに、彼女の性格からして相当思い詰めていたであろう事は想像に難しくない。気持ちを沈ませた村上をこれ以上不安にさせないよう、必死になって言葉を選ぶ。



「……っそれはそうとして、何で俺を、好きって言うか……そこから告白って感じになるんだ……?」


「へ……? ぁっ、その……いつ、謝ろうって……ずっと、目で追ってたら、その……何時も楽しそうな日野君が……ぇっと……」


「好きに……なってたと……?」



 俺の質問に、急に顔を上げたかと思えば、顔を見覚えのある赤さに変えて小さな声で話してくれた。そしてその声に被せるように言った俺の言葉に、ゆっくりと頷く。…………頬が熱い。口元を隠すように手の甲を顔にあてる。そうすることで顔を覆う熱がじんわりと腕に移っていく様に感じる。ぇ、っていうかこれマジなの? ドッキリとかじゃなくて?



「き、今日、ある人に相談して……そしたら、いっ……今すぐするべきだって……言われて……」


「そう、だったのか……」


「その……それで、今日は……日野君を呼んで……や、やっぱり迷惑……だった……?」


「い、いや! 迷惑とかじゃねぇけど」


「ぁ、あの……じゃぁ、それ、で……だから、その……お、お返事、ください……!」



 覚悟を決めたように、最後は早口で答えながら、目を瞑って村本は俺の返事を待つ。そう、回り回ったこの話も、つまるところ一番はここ。


 ……俺が、彼女の告白を受けるか、受けないか。


 正直、村本の告白は嬉しい。自分としても、恥ずかしがりながらここまでストレートに好意をぶつけられたのは生まれて初めてで、ぶっちゃけて言えばこれほど心臓が跳ねるような経験も今までなかった。急だったとは言え、彼女の思いをすでに受け入れてしまいそうな自分がいるのも確かだ。


 でも、だからこそ。



「……悪い、俺はお前とは付き合えない」



 だからこそ、この勢いに任せて返事を返してはいけない。俺は、彼女の事を何も知らない。ベタな事だが、好きな食べ物や趣味、服の好みや苦手なものも、俺は何一つ知らない。二人の中ではまだ何も積み上げられてはいない。そんな状態でいきなり付き合ったとして、俺が彼女にしてあげられる事などなにもない。


 ただ与えられる愛情に甘え、寄りかかるだけの男になってはならない。それは、不馴れながらも必死に思いを伝えてくれた彼女に対する裏切りにもなる。だからこそ、この思いに答えるため……に……。



「……ッふ……ご、ごめ……ん……ごめっ……なさいっ……ぅ……」


「なっ……ち、違うぞ、そうじゃなくて、嫌いとか、そういうんじゃなくてだな!?」


「……ッだい、じょ……だか、ら……ごめんっ……なさい……!」



 言葉を繋げようと村本を見ようとすれば、彼女は何を思ったのか、声を必死に抑えながら目から大粒の涙を次々に落としていた。彼女の泣き顔を見て、頭の中で組み上がっていた返事が砂のように崩れていく。慰めようにも、恐らく先程の返事を勘違いしてか全く聞く耳を持ってくれない。どう返事を返したものか考え込んでいると。



「なに女の子泣かせてんのよこのヘタレぇ!!」


「なっ、えってドッハァ!!?」



 橫から衝撃と共に、聞き覚えのあるツンデレうさぎの声が聞こえてきた。



 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「ガッ……はっ、痛ぅ……っな、杏奈!? なんでお前がここに……っ」


「なんでもへったくれもあるか、このヘタレ! 女の子泣かせてなにしてんのよアンタ!! 男だったらビシッと受け止めるぐらいの根性見せなさいよ、その茶髪頭は飾りかなんかか!!」


「この頭は地毛だっての! っていうか俺にもそれなりに考えがあって答えたっつうの! そもそも髪の毛の色はテメェにだけは死んでも言われたくねぇわ!」


「生えてるもんはしょうがないでしょうがぁ!!」


「無茶苦茶言うなお前!? あぁっもう、一旦離せ!」



 飛び蹴りかなにかで吹っ飛ばされた後、胸ぐらを捕まれて頭を激しく前後に揺らされながら杏奈に詰め寄られる。こっちとしてはあれから会話を続けるつもりであったが、勘違いもあってかあれだけ泣かれ、しかもこんな乱入があってはムードもなにもあったものではない。



「もしかして、村本の相談した相手って、お前か?」


「そうよ。それがなんなのよ、このヘタレ」


「お、お前いつの間に村本と仲良くなったんだ?」


「そんなの今日に決まってるじゃない。歩美との話なんて、これまで一度もしてなかったでしょ?」


「今日知り合ってすぐ恋愛相談とか、お前すげぇな……」


「ふっふーん。当たり前でしょ、この私を誰だと思って……いやそれよりも、あんたよくも女の純情弄んでくれたわね……!」


「いや、だからそうじゃなくて……だぁーめんどくせぇ! お前しばらく黙ってろ!」


 だがこうなってしまった以上、無理矢理にでも伝えるしかない。目の前でぶちギレている杏奈を振りほどき、立ち上がって村本に少し近づく。



「はぁ……村本」


「……ふっ……は、はぃ……ぅ……」


「村本、俺も言い方が悪かったけど、別に嫌いとか断るとかじゃないんだ」


「ぇ……」


「そう、断るとかじゃなくさ……俺、まだ村本のこと何も知らないんだよ。多分お互いこうやって話すのも初めてなんじゃねぇの?」


「……ッ……ぅ、ん……」


「だろ? だからさ、そんな状態で急にその、付き合ったりするとさ……多分、上手くいかないと思うんだよ。なんとなくだけど……だからな?」



 ……杏奈が言う通り、これから俺が村本にする返事はヘタレそのもの。でも、これからもし俺達が、なんだ……付き合うとするなら、やっぱりしっかりとした段階を踏む必要があると俺は思う。そう、だからこそ……。



「だから、古典的って言われるかも知れないけど、やっぱり『友達』からはじめてみないか?」


「……ッ……ぁ……ふ……」


「いや、確かに無理言ってるのもわかるし、こんだけやってくれる村本にも悪いけど、やっぱりこういうのって積み重ねが大事なんじゃないかと思うんだよ。俺、正直こういう経験はじめてだし……だから友達から。……今度はそっちから返事、聞かせて貰えねぇかな……?」



 情けない。あれだけ言っておきながら、結局俺は彼女の好意に甘えている。現に俺は、友達に叱責を受けたにも関わらず、こんな言葉で彼女の勇気に頼ってしまっている。



「…………は、はい……!」



 そんな情けない俺に、村本は流れる涙を必死に止めようとしながら、そう答えてくれた。こうして俺と村本、二人の関係は進学早々、クラスメイトから奇妙な友人関係へと変化した。



「やっぱヘタレじゃん」



 言うな。マジで。


ここだけの話、杏奈のツンデレの割合は3.5:6.5ぐらいを意識してます。

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