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赤面女子の転機

タイトル通り今回も歩美ちゃん視点。時期的には1話2話の話の前半ですね。本来は纏めるはずでしたが、これ以上遅くするといけないと思い、急遽2話に分けさせていただきました。


そしてもう一つ謝らなければならない事が。実は歩美の髪型、イメージしていたものと実際のヘアースタイルと違っておりまして、人物紹介の方でも修正させて頂きましたが、実際は『ショートボブ』ではなく、『ミディアム』となっておりました。勝手な変更申し訳ありませんでした。

「えっと、なんだ………悪い。今、なんて……?」


「ぁ……の、だ、から……その……」



 張り上げようと筈の声は掠れ、届けようとした相手に届かず、ただ困惑されるばかり。顔を覆う熱はさらに増し、言葉さえ満足に発する事も出来なくなるほど緊張していた。


 それでもせめて、今日知り合って間もない自分の背中を押してくれた人に、なにもしようとしなかった自分を変えるために行動してくれた人に、少しでも酬いるために。なにより、自分の胸に抱いたこの言い表せきれない感情を伝えるために。



「っす、好き……です。付き合って、くださぃ……」



 あらん限りの勇気と、精一杯の気持ちを込めて、目の前の人にその言葉を贈る。……たとえ、その思いが届かなくとも。



 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△



 一年間歩き慣れた通学路の中を、歩美は一人ゆっくりとした足取りで進む。通学途中、時折見える桜は、この時期の歩美にとって密かな楽しみの一つでもある。


 歩いている途中、同じように桜を楽しむ人が、時には立ち止まり友人と一緒に自撮りをする人も見える。そんな様子を視界の端に捉えながらも、歩美は真っ直ぐ学校への道を歩く。



 桜を見ながら歩いていたせいか、歩美は何時もより少し遅くはなったが、無事自らが通う学校の校門をくぐる。校門の周囲にも桜が咲いており、足元には無数の花弁が落ちている。


 校門を入った先には、大きな人だかりを作る看板が。看板にはそれぞれの生徒がこの一年を通して過ごすクラスが書かれた紙が貼られている。


 人混みの中を、歩美はその境目を縫うように進む。時々大きな声で叫ぶ人に驚き、立ち止まりそうになりながらも自分の学年のクラスが記された紙の前までゆっくりと、周りの人の邪魔にならないように慎重に近づく。


 そうしてたどり着いた看板の前で、歩美は自分の名前が書かれたクラスを探す。3つあるクラスの中から自分の名前を見つけるのには少し手間取ったが、数十秒もしない内に、自分が通うクラスを見つける。


 と言っても、学校の中でも影は薄く、特に仲の良い人も居なければ嫌われている人も居ない歩美にとっては、クラス替えに対する期待や不安などは特にはない。


 …………ないのだが。



 自分のクラスを調べ終わったにも関わらず、歩美はその後も何処か祈りにも似た気持ちで、自分のクラスに書かれた名簿を一つ一つ確認していく。



(……あっ)


 2-B


 日野雄介



 村本歩美



 そして、ある一点で目当てである人物の名前が視界に入った。


 それと同時に心臓がトンっと、跳ねたような気がした。ほんの少し、頰の熱が上がったようにも感じる。目を閉じ、手を胸に添えながら昂ぶった気持ちを落ち着かせようとするも、それとは逆に鼓動は速まるばかりで。


 そんな物思いに耽っている時。タイミングが良いのか悪いのか、後ろにある校門から数人の声が。その中には、先程歩美が同じクラスかどうか熱心に確認した男子もいる。




「……っ!」



 しかし歩美は振り返って確認するまもなく、先程までのゆっくりとした足取りは何処へやら。人の少ない玄関先がある方向へ急いで駆け出し、看板のあるところからは死角になる影に身を隠す。

 急な出来事に心臓は更に波打ち、顔は明確な赤みを帯びる程に熱くなっている。


 去年のある出来事から、自分が一方的に好意を寄せる、ある男の子。まるでいつか遠い昔に読んだ、物語の一部分かのように自分を助けてくれた人。



「はぁ……ぁっ……っ!」



 知らず識らずの内にため息が出る。堪らず漏れたそれは、逃げ出してしまう自分になのか、それとも雄介に対する意識なのかはわからない。


 しかし、そのため息のすぐ後。自分の前を通って下駄箱まで歩く女の子の姿が。歩美はハッと口を両手で塞ぎ、必死にバレない様に文字通り息を潜める。


 女の子の名前は七瀬クリス。去年転校してきた同学年で、クラスメイトだった人。同じ女であるはずのクリスは、歩美から見ても美しい、と感じる程整った容姿をしている。クールで落ち着いた雰囲気や凛とした佇まい、眼を見張る抜群のスタイル等、考えれば考えるだけ自分の真逆に位置する綺麗な人だ、と思ってしまう歩美。


 しかしここまで考えた歩美は、さっきまでクリスが雄介と一緒にいた事を思い出した。なぜ別々に移動しているのか知らないが、もしかすると、すぐに雄介たちもこちらに来るのではないか……? そう考えた歩美は、クリスの後を追う様に急いで自らも校内に入る。なるべく自然に、しかし早急に。



「…………?」



 ……急ぎすぎて、後ろにいた一際目立つ頭髪の女子がいた事も気付かずに。




 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△




 始業式が終わり、先生や生徒がそれぞれの自己紹介を終えた休み時間。歩美は自分の机に座りながら、自宅から用意した小説を読んでいる……様に見せかけて、チラチラと雄介達のグループがいる方に眼を向けていた。


 雄介と同じクラスであった事を再確認した歩美は安堵したものの、奥手な彼女が自分から話す事など出来ず、こうしてただただその様子を眺めているだけに終わっている。


 そして眺めた先で見た光景に、少し絶望にも似た感情を抱いている。


 目線の先には雄介は勿論。その雄介と仲が良く、女子の間でも時々噂になっていたりする鈴原誠。そして、先程見かけたクリスと共に、朱坂いずみ、桃川杏奈といった男子人気No.5に必ず上がる美少女3人。


 そんな人達が雄介と共に楽しそうに話している姿を見て、持ち前のネガティブな思考が拍車をかけ、雄介とコンタクトを取ろうとする事を本能的に避けているのかもしれない。出来る事といえば、こうして楽しそうな雄介を遠目から見る事だけ。臆病な自分にはこれくらいが丁度いい。そう諦めながら歩美は相変わらず読書と観察を続ける。



「でね、そしたらその子無表情でっ……ん?」



「ッ!」



「……杏奈ちゃん?」


「……いや、なんでもないなんでもない! でね……」



 しかし、先程と同じ様に雄介達がいる方向を見ていた歩美は、偶々こちらに視線を向けていた杏奈と目が合った。


 瞬時に眼を離し、小説に視線を戻した歩美を杏奈は不思議そうに見ながらも、いずみの心配そうな表情を見るや否や、なんでもない、と会話を続ける。





 そして時間は流れ昼休み。それぞれが食堂や中庭、教室などで昼食をとる中、歩美は何時もの事のように集まり始めている雄介達を少し羨ましそうに眺めながら、自分も昼食を食べる為に二階にあるテラスに向かって弁当を持って教室を出る。



「……ちょっとアンタ」


「ぇ……っ!?」



 教室を出て数歩。急に呼び止められた歩美が振り返り、声をかけてきた本人を見て、弁当を落としそうになるほど驚いた。そこには……。



「アンタ、さっきからずっとあたし達の事見てたでしょ……なに? なんか用?」



 腕を組んでこちらを見下ろす杏奈の姿。その威圧的な姿に、歩美は小さな身体をさらに萎縮させ、カタカタと震え始める。



「へ、っぁの……ぁ、そ……の……」


「玄関前でも影から見てたんでしょ? とりあえずその辺の話、詳しく聞かせなさいよ 」



 余りの恐怖で言葉を詰まらせる歩美。しかも相手には玄関での出来事まで把握されていた様だ。言い訳など思いつかず、下手に逃げるなど以ての外。歩美は言われるままに、行き先であるテラスに連れて行かれる事となった。

転機(連行) 。歩美の杏奈のファーストコンタクトはこんな感じになっておりました。そして杏奈さんツン、というか警戒心マックス。歩美ちゃんは見事この窮地を脱出(笑)する事ができるのか。次回はこの続きからです。

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