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第80話 武装

『あれ? 京太郎さま、フリムおじさんと一緒でしたよね?』

「ああ……」

『もう、仕事に?』

「みたいだね」


 京太郎は、フリムのこれまでについて質問しかけて、――結局止めた。きっと憂鬱な気持ちになるとわかっていたためだ。


『どうでした? ”活力剤(ポーション)”。元気になれました?』

「ああ、思ったより良かったよ」

『でしょう? 京太郎さま、いつもお疲れの顔されているので、心配してたんです』

「疲れた顔なのは、ほとんど生まれつきだけどな……」


 そこで、遅れて店を出てきたステラが、


『あっ、こんなところにいたぁ♪』


 ぱあっと笑って、甘えた猫のように歩み寄る。十代の男子がデートの待ち合わせでこういう素振りを見たら、もうそれだけで夢中になってしまいそうだ。


『んもうっ。いつの間にかいなくなっちゃうんだからさあ』

「悪い悪い」


 三十代のおっさんであるところの京太郎は、そんな彼女をまぶしいものでも見るようにして、


「ん。それは……?」


 彼女が両手一杯に抱えている、得体の知れない道具類を見た。


『一応、いろいろ護身用の道具を買い求めておいたわ。C級品だけど、あるに越したことないでしょ』

「しかし……」

『その『ルールブック』っての、使ってるだけでめちゃくちゃ目立つのよ。出てくるアイテムはあんたのヘンテコなセンスのものばっかりだし。……もうちょっと、この世界に溶け込む努力をするべきだわ』


 これは完全なる正論であった。結局、今朝のようなことがあったのも『ルールブック』を迂闊に使ったことが発端だと言えないこともない。


『まずこれ、――”命の指輪”ね。使うと指輪から”活力剤(ポーション)”が噴き出すから、口につけてチューチュー吸うと元気になれるわ。

 つぎに”焔の手袋”。アリアも使ってたやつよ。三種類の基礎的な火系魔法を使えるようになる。火系はいざという時の灯りにもなるし、便利だからね。

 あと、この足枷みたいなのは”フリー・ジャンパー”って言って、足首に巻いて呪文を唱えると、少しの間だけ付近の重力が弱くなって、二階建ての建物くらいまでなら飛び上がれる。斥候系の”探索者”がよくつけてるやつね。ホントは着地の時に気をつけなきゃいけないんだけど、あんたの場合、怪我だけはしないから大丈夫でしょ。

 それと、この煙草みたいなのは火を点けたら煙幕の代わりになる。間違っても吸わないこと。あんた、煙草吸わないけど。

 ついでに巻物(スクロール)各種。火系、風系、水系、光系、一通り揃えておいたわ。これは一回使うと使えなくなるから気をつけてね。――魔法を使うときの呪文は、店主がまとめておいてくれたわ。はい、これ』


 そして京太郎は、わかりやすく図説入りになった羊皮紙を受け取る。

 それはどこか映画の小道具にも似て、それだけでなんだかアート的な価値がありそうな代物だった。


――これを描いてもらってたから時間がかかってたんだな。


『それ、描いてもらうのにちょっとボられたから、絶対なくさないで。あと、予備用にポーションもいくつか買っといたわ。これは私たちも使うから、その便利な鞄に突っ込んどいてね』

「お、おう……」


 なんだが世話好きな有閑マダムみたいだ。

 京太郎は、各種”マジック・アイテム”を受け取りながら、彼女の親切心に感謝する。


「そこまで気にかけてくれていたとは。ありがとな」

『か、勘違いしないでよね。今朝のこともあるし。――簡単にあんたに死なれると困るだけなんだからっ』


――すげえ。絵に描いたようなツンデレ台詞だ。これを実在する知的生命体の口から聞けると思わなかったぞ。


 ……という内心をおくびにも出さず、京太郎は大人ぶって苦笑した。


「そのうち借りを返したいところだが、……どう返して欲しい?」

『別に必要ないわよ。あたしだってその……いろいろ助けられてるし。そういうの、()()()()()()っていうんでしょ』

「まあ……」


 とはいえ、何らかの形で借りは返すつもりでいる。

 ”マジック・アイテム”にて武装した京太郎は、なんだか少し強くなった気分になって(実際にはまだ呪文を覚えていないので道具は役に立たないのだが)待たせていた辻馬車に乗り込む。

 アル・アームズマン邸はすぐそこだった。



 アルの屋敷は、街中の少し拓けた丘の上にある。

 さすが”勇者”の一族なだけあって、手入れの行き届いた良き庭園だった。都内住まいの京太郎には、土地を月極駐車場とかにしないで贅沢に使っているという、もうそれだけでスーパーセレブの世界、という感じがする。

 今着ているくたくたのスーツではちょっと失礼だったろうかと思うが、これは杞憂だった。この世界の人間の感覚では、京太郎の格好はいつも丁寧すぎるという点においては他の追随を許さない。


 正門の前で馬車を止め、門番にアポイントの確認を取った後、京太郎たちは徒歩で屋敷の本館まで歩く。

 道中、


「――火よ。我が指に宿れ」


 教えられた呪文を唱えて、ぽうと人差し指の先に火の力を宿らせる。

 その左手には、さきほどステラからもらった”焔の手袋”がはまっていた。


――これで煙草とか吸ったらカッコいいだろうな。


 なんだかウキウキする。魔法を見るのはこれが初めてではないが、この魔法はいかにも物語の主人公が使いそうな、そんな不思議な魅力があった。


『それ安物だから、無駄使いしないの。それに、あんまり人前でその魔法使ってると、放火犯だと思われるわよ』


 なんだかお母さんみたいに注意され、京太郎は苦笑する。


「まあ、そうなんだけどな。……これがなかなか楽しくて」


――本物の母親は、こんなふうに注意もしてくれないだろうけど。


 京太郎は、実家の事情に思いをはせて、少し暗い気分になった。

 その暗雲を打ち消すように、


「きょたろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 元気と活力を多分に含んだ、聞き覚えのある少女の声が。

 振り向くと、


「バサラ、か……――――ぶっ!」


 瞬間、エイリアンの幼体を思わせる俊敏さでバサラが京太郎の顔面に飛びつき、がっしりホールドする。暖かな太陽の匂いがした。


「いっしゅうかんぶり! おひさしぶり!」

「もが」

「うん、うん! お屋敷の屋根からみえてたよ。だからきたの」

「もがが、もご」


 危うく酸欠で昇天しかける……が、ぎりぎりのところで彼女の身体は引き剥がされた。


「なんだ、君ら知り合いだったのかね」


 飼い猫を摘まむようにしてバサラをひょいと持ったのは、――作業着に身を包んだアル・アームズマンである。どうやら庭の剪定中だったらしい。両手で扱うような巨大ばさみを持っている。

 彼は、昨日会ったときとは比べるべくもない庶民的な格好で、不敵に笑った。


「やあ、”正義の魔法使い”くん。良く来たな。――本当に、良い度胸だ」


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