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第17話 リムとシム

 リムは一定の距離をとりながらぐるりと回り、京太郎たちの行く手を塞ぐ。


「どこって、――ええと、彼には”魔女”の元へ案内してもらおうと思ってさ」

『”魔女”様……?』


 リムは一瞬、不思議そうに首を傾げて、


『ああ……シムは一度、使いに出たんだっけ』


 と、一人、納得した。


『でも、アンタが”人族”にこの場所をバラしたりしたら……』

「そんな真似はしないよ。約束する」

『どうだかね』


 リムは少し視線を地に落として、


『……なあ、サカモト。正直に言っていいかい』

「なんだい」

『悪いんだけど、……もう少しだけ、ここにいてもらってもいいかな』


 それは、当初思っていたのとは少し違った申し出だった。


『アタシらだって馬鹿じゃない。ぶっちゃけアンタがそこまで悪い奴じゃないってことくらい、なんとなくわかってる。……で、その不思議な力が、――わりと頼りになるってことも、さ』

「それは……」

『アンタなんだろ? 昨日、ミート・イーターを縄張りに入れなくしてくれたのは」

「え? ……ああ、そうだけど」

『あれから村の連中で検証させてもらってね。そしたら、マジじゃないかい。縄張り近くに巣を張ってた肉噛みが丸ごと引っ越してるときてる。一匹捕まえて縄張りに入れても、狂ったように暴れ回って、逃げだそうとするんだよ』

「……へえ」

『ひょっとするとアンタの力、……ほとんどなんでもあり、だったりする?』


 一瞬、傍らに立つシムに目配せする。

 シムは、眉を八の字にしながら、首を横に振った。


「いいや。実を言うと、これ以上は術も品切れなんだ」

『嘘だね』


 薄闇の中、宝玉のごとき金色が二つ、京太郎をまっすぐに見据えている。


『なあ、……これは、アタシの……率直な頼み事だ。村にはまだまだ問題が山積みなんだ。アンタの力が必要なんだよ』


 村に現れた新参者の、しかも仇であるはずの種族に頭を下げる、などと。

 その言葉を吐き出すのに、彼女がどれほど悩み、苦しんだかは想像に難くない。


――そうか。こうなる(・・・・)のか。


 京太郎は、グム、と、喉の辺りまで出た言葉を飲み込む。

 たった数度『ルールブック』の力を見せただけで、ここまで頼りにされるとは思ってもみなかったのだ。

 内心、迂闊な自分の行動を後悔しつつ、


「力を貸してやりたいのは山々だけれど……私には他にも助けを待ってる者がいる。一所にとどまるのは、もう少し情報を得てからの方が良いと思うんだ」

『無理を言ってることはわかってる。だからこうして頼んでるのさ』

「すまない」


 何故だかそうすべきである気がして、京太郎は頭を下げた。


『そうかい。残念だ』


 リムはふう、と嘆息して、物わかり良く頷く。


『アタシにそれを止める権利はないね』


 話はそれだけか、と思って胸をなで下ろしていると、


『……だが、シムは違う。そうだろう』

『えっ』


 シムは目を丸くした。


『ね、ね、ねーちゃん、いまさら何を言って……』

『うるさいねぇ。人前でそんなくすぐったい呼び方するんじゃないよ』

『えっ、えっ、えっ?』


 シムは一瞬、不安げに京太郎を見上げて、すぐリムに向き直る。


『その子はウチの村の仲間だ。アタシの家族だ。――頼む、サカモト、その子を持っていかないでくれ』

『ちょっと!』


 小柄な”ウェアウルフ”が怒鳴る。

 普段の彼のキャラクターから考えて、そこまで感情をあらわにするのは少し意外であった。


『そ、それは……いくらなんでも酷いよ、ねーちゃん! ぼくはこの人と行くって決めたのにッ!』

『そうかい? ……でもその前に、これまで世話になった人たちに挨拶に出向くのが筋ってもんじゃないか?』

『ず、ずっと放っておいて……い、い、い、今更ッ!』


 シムにはシムの事情があるらしい。

 とはいえ、この場はリムの意見の方が正論に思える。

 京太郎は、――恐らく彼女の思惑通り、口を挟めないでいた。


『なあ、シム。――覚悟できてるんだろ。……村から抜けるなら、例のしきたりに挑戦する必要があるって』

「しきたり?」


 なんだか存在を忘れられそうな気がしたので、一応口を開いて自己主張。


『知っての通り、うちは仲間の裏切り一発で滅びる宿命にある村だ。――だから、村人の出入りは厳しく監視されてる。……もし、弟がマジに村を出たいっていうんなら……』


 リムは、懐から小刀を二本取り出し、片方をこちらに投げた。


『村の頭領に「まいった」と言わせること』


 なんとまあ、野蛮な風習だろう。まるで一昔前の暴走族ではないか。


「……って言ってるけど、どうする?」

『やります』


 その時ばかりはいつものどもり癖はなりを潜めていて、即答だった。


「しかし、姉弟喧嘩に刃物持ち出すとか、正気か」

『ご安心を。ぼくたちはナイフで切り刻まれた程度では死にませんので』

「そ、そうかい……」


 抱っこしたら持ち上げられそうな体格なのに、見た目の何倍も逞しい。

 とはいえ、勝ち目は薄いだろう。

 リムとシムと体格差は1,5倍ほど。それにそもそもシムは、あまり運動が得意なタイプではないように思えた。


「本気でやるのか」

『ハ、ハイ』

「やっぱりまた今度の機会に、ってことにしないか」

『……京太郎さま』


 シムが、すがるような表情でこちらを見上げる。


『ぼくを見捨てて、どこかにいかないでください。ここに置いていかないでください。……ぼくはこの出会いを、一生に一度のチャンスだと思ってるんですから』 


 言って、少年は足下に転がっている小刀を拾い上げる。

 せめて、それを”スタン・エッヂ”と取り替えてやれればよかったのだが、下手に手を貸すほど無粋な真似もない気がしていた。


 京太郎はというと、――完全に困り果てている。

 なんでこんなことになったのか。

 どう立ち回っておけば、このように野蛮な事態を引き起こさずに済んだのか。


『来な』


 リムが短く言う。

 それが開始の合図だった。


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